メルセデス・ベンツGLS350d 4MATICスポーツ(4WD/9AT)
“常識はずれ”の魅力 2017.03.03 試乗記 全長は5.1mを超え、車重は2.6tに迫る、堂々たるボディーが自慢の「メルセデス・ベンツGLS」。その大きさゆえに乗り手を選ぶSUVであることは事実だが、それだからこそ、このモデルでしか味わえない“常識はずれ”の魅力がある。3リッターV6ディーゼルターボエンジンを搭載する「GLS350d 4MATICスポーツ」に試乗した。小山のようなSUV
かつては「GL」と呼ばれていた、メルセデスのトップレンジSUV。それが、2015年にGLSへと“改名”されたのが現在のモデルだ。
ちなみに、新たなメルセデスのネーミング作法では、“GL”という最初の2文字はSUVカテゴリーに属することを示し、最後の“S”の文字はカテゴリー内でのクラス分けを表す。すなわち、そのネーミングから「ラインナップ中で最も大きなSUV」と知ることができるようになったのが、このモデルでもあるわけだ。
全長は軽く5.1mを超え、全幅もあと2cmで2mに到達。全高も1.8m台半ばに届くというそのボディーは、近づくほどに「小山のように大きい……」という印象が強まる。
その中に3列のシートをレイアウトするのだが、いわゆるミニバンと異なるのは「常用が考えられているのは前2列のシートまでで、最後列は畳まれている状態がデフォルト」という思想が、乗降時の難易度やシートデザインなどから感じられることだ。
もっとも、ひとたび乗り込んでしまえばゆとりのサイズゆえに、3列目シートにも大人2人が長時間を過ごすために十分な空間が確保される。
左右両側に、後輪をクリアするためのタイヤハウスの張り出しが大きく、それゆえの末席感が漂うのは事実。しかし、実際にはその部分を超大型のアームレストとして有効活用することができるし、十分なヒール段差が得られるので決して“体育座り”のような窮屈な姿勢を強いられるわけではないからだ。
動力性能に不満なし
最高585psという怒涛(どとう)のパワーを発生する、5.5リッターのツインターボ付き8気筒エンジンを搭載した「AMG GLS63」を筆頭に、455psを発する4.7リッターの同じくツインターボ付き8気筒ユニットを積む「GLS550」、そして3リッターのターボ付きディーゼルユニットを積む「GLS350d」と、3種類のパワーユニットを用意するのが日本でのラインナップ。
この中から、今回雪道を含むツーリングへと駆り出したのは350dである。最高出力は258psと、2基のガソリンエンジンに大幅なアドバンテージを許すものの、ディーゼルらしいのはわずか1600rpmという低回転域から発せられる620Nmという最大トルク値。
GLS550のピーク値は700Nm、AMG GLS63のピーク値は760Nmだから、その差が最高出力の差ほど開いていないことは明らかだ。
実際、車外では明確なディーゼル音が聞き取れるものの、キャビン内ではガソリンモデルにさしてヒケを取らない静粛性の高さと、エンジン自体のスムーズな回転フィール。そして、組み合わされる9段(!)ATとのマッチングの良さも手伝って、動力性能に対する不満はどんなシーンでもまず感じられない。むしろ、加減速の印象でやや気になったのは、“ディストロニック”の機能を用いて追従走行中、停車した前車に倣って静止に至る最後の瞬間に、“カックンブレーキ”気味の挙動を示すことだった。
もちろんこれは、パワートレインではなく制御の問題であることは確か。しかしこれまで、同機能を持つメルセデス各車でそんな不満を抱いたことがなかっただけに、やや意外な事柄でもあった。
路面状況を選ばぬ走り
大海原を行くクルーザーも、大型化するほどに揺れが少なくなるかのごとく、ボディーが大柄で車両重量も2.6tに迫るこのモデルのフットワークのテイストも、まずは路面状況や横風などの外乱に対する耐性が強いという事柄が印象的だった。
乾燥した舗装からウエット、そして積雪状態に至るまで、路面の種類が大きく変化しても走りの感覚がさして変わらないというのも、その走りの特徴的部分である。
そう、大型で重量級のSUVを好む人が少なくないのは、その押し出しの強さに加えてこうした無形の信頼感の高さも大きく効いているに違いない。
今回、テスト車が装着していたのはブリヂストンのSUV用スタッドレスタイヤ「DM-V2」だった。単純計算でも、1輪あたりの荷重は650kg近くにも及び、それゆえ氷上での制動距離が思いのほか伸びてしまうといった場面もあった一方で、接地面積を最大限に得るために夏用タイヤ以上に排水性が厳しいスタッドレスタイヤの装着時でも、接地荷重の高さゆえハイドロプレーニング現象を起こしにくいことも大型重量級SUVの特長といえる。
今回も、雪が溶けてシャーベット状になった路面などでは、軽量さを売りとする乗用車よりも接地感が高く、水膜上に乗ってしまう感覚とは無縁のままに、はるかに安心して走れるというその恩恵をタップリ享受することができた。
今回は、特に雪深いロケーションに遭遇することはなかったが、標準装備のエアサスペンションには当然車高調整機能も備わる。深い轍(わだち)路面に遭遇した場合などの安心感の高さも万全だ。
コアなファンにはたまらない
こうして、環境が厳しくなるほどに高い信頼感が際立ってくるのがGLSというモデル。
その上で、12.4km/リッターという“望外”のJC08モード燃費に、100リッターという大容量の燃料タンクを組み合わせたこの350dグレードは、さながら豪華な装備にタフな走りと長い航続レンジを誇る、巡洋艦そのものというキャラクターの持ち主だ。
確かに、こうした巨大で重いモデルを、日常のシーンで”乗用車”として用いることには批判がある人もいるだろう。特に、日本の市街地で乗り回すにあたっては、さまざまな面での環境負荷が高いことも事実ではあるはず。端的に言って、「常に出先の駐車場状況を気にしなければならない」モデルであるのも事実だ。
一方で、これまで述べてきたさまざまな安心感などは、そんな“常識外”のディメンションの持ち主であるからこそ、得ることができるものが多いのもまた確か。
そこにほれ込んでしまうと、なるほど「もう、自分はフルサイズのSUVにしか乗りたくない」という、コアなファンが生まれる結果へとつながっていくことになりそうだ。
(文=河村康彦/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツGLS350d 4MATICスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5140×1980×1850mm
ホイールベース:3075mm
車重:2580kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:258ps(190kW)/3400rpm
最大トルク:63.2kgm(620Nm)/1600-2400rpm
タイヤ:(前)275/50R20 113O/(後)275/50R20 113O(ブリヂストン・ブリザックDM-V2)
燃費:12.4km/リッター(JC08モード)
価格:1190万円/テスト車=1201万1000円
オプション装備:ボディーカラー<ダイヤモンドホワイト>(11万1000円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:6583km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:503.4km
使用燃料:57.2リッター(軽油)
参考燃費:8.8km/リッター(満タン法)/8.5km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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