第429回:驚きモモの木「上海ショー」!(後編) 笑いの殿堂!? W1ホール探検
2011.05.06 小沢コージの勢いまかせ!驚きモモの木「上海ショー」!(後編)笑いの殿堂!? W1ホール探検
気分はすっかり“みうらじゅん”
(前編からのつづき)……ってなわけで、「ここは第2のアメリカか?」と思わせる中国。つくづく自動車は、広大な国土と人口、ついでにある種の“傍若無人さ”を持つ大陸でこそ繁栄するとも思える。それを特に感じたのが、前半で紹介したインターナショナル館とでもいうべき「ホールE」の対面にある「ホールW」だ。
すでに『webCG』で紹介されているとおり、コチラには国策系筆頭とも呼べる「第一汽車」や、民間系筆頭ともいえる「Geely」こと「吉利」が入っている。こちらも当然プレッシャーはビシバシだが、ときおり緊張がイッキに薄れ、イラストレーター“みうらじゅん”な気分にさせられる。というのも、「このコピーの元ネタなんだっけ?」という記憶力合戦が始まってしまうのだ。(笑)
不肖・小沢がまず笑ったのは、「ホールW1」。入り口付近には、ホールEでBMWと共同開発した「5シリーズ プラグインハイブリッド コンセプト」を発表したばかりの「華晨汽車」こと「ブリリアンス・チャイナ・オートモーティブ」が入っている。上述のモデルは中国専用の「BMW5シリーズセダン ロングホイールベース仕様」に、BMW製のエンジン&モーターとブリリアンスが開発したと思われるバッテリーを組み合わせた、理想的な“中欧共同作品”なのだが、このW1の単独ブースには、これまたBMWのエッセンスをいただいたとしか思えないコンセプトカー「大中貨概念車」を配置。日本人にはありえない神経のず太さを見せる。
さらに続くのはその奥の「北京汽車」グループ。こちらがまたすごくて、まずは表に「北京奔馳(ベンツ)」で造っているであろう正規の「メルセデス・ベンツCクラス/Eクラス」が置いてあり、すぐ背後には「北京汽車」の「BC301」! コイツは写真で見ればお分かりのとおり、前からは明らかに「メルセデス・ベンツBクラス」で、「これも造ってるのか……」と思わせといて、リアから見ると、あ然。微妙にBクラスとは違っていて、インテリアはカンペキ別物。まごうかたなきコピー車だったりする。
メルセデスがこれを了承しているとはとても思えないし、両者を平気で並べてるところがホントに「ありえない」。
同じく北京汽車の四輪駆動車「B40」もすごい。一見クライスラー製ジープのライセンス生産車だが、よく見ると7本あるべきスロットグリルが5本。ディテールも本家「ジープ・ラングラー」とはことごとく違っていて、万に一つ、1980年代にアメリカン・モーターズ(AMC)と始めた合弁事業の影響で、本社も了承しているのかもしれないが、コピーはコピー。似て非なるものだ。
恐怖と笑いの上海ショー
一番笑ったのは、同じ「第一汽車」グループの「HAIMA」こと「海馬汽車」だ。1990年にマツダの技術指導により始まった会社で、2006年には契約が切れているはずだが、俺が上海ショーに初めて乗り込んだ4年前からデザイン、ネーミング、さらに社名ロゴまで似ている“コピーの三冠王”。そのパワーは、いまだ健在だ。
なんせ前からあった「デミオ」のソックリさん「Haima2」、旧型「アクセラ」のソックリさん「Haima3」に加え、さらにどう見ても「ビアンテ」にソックリな新作ミニバン「C2」まで登場しているのだ。その最大の特徴である、ヘッドライトがサイドミラーにつながる“隈取り”デザインは明らかにビアンテ譲りで、リアの水平ルーバーまで実によく似てる。
とにかく“元ネタ”が合弁先のヨーロッパメーカーのデザインというのは王道中の王道ともいえる現象で、つくづく自動車産業とは、放っておくと親鳥とヒナ的な関係になってしまうのだ。生まれたばかりのヒナが「最初に見たものを親と思い込む」ように、ずっと影響され続ける。逆に言うと、急にテイストを変えろって方が無理な注文なのかもしれない。
ただし、前述「Geely」のように、既にオリジナルデザインに目覚め始めたところも多いから、ホントにうかうかしてはいられない。
個人的には「Emgrand」シリーズのフラッグシップ「GE」。新作ではなく2年前に出たらしいが、全体的にはベントレー顔負けの雄大さを持ちつつ、“顔”であるグリルは大胆に丸みを帯びてて本物とは別次元の押し出し感。既に中国ならではの鷹揚さがたっぷりと出ている。ま、欧州で売れるとも思えないけどさ(笑)。
ってなわけで「ホールEでビビリ、ホールWで笑う」上海ショー。そのダイナミックレンジはあり得ないほどすごく、1粒で2度オイシイ……っていうか、3度ぐらいオイシイ感じだ。
ショーにビビりすぎるなかれ
一方で上海は、ジャーナリスト向けプレゼンのレベルが高くて、面白い。ショー前日に、いま中国でフォルクスワーゲンと並んで飛ぶ鳥を落とす勢いのGMのインターナショナル部門、「GMIO」のメディアブリーフィングが開かれ、フリーアナリストのマイケル・ダーン氏が市場分析を行った。
氏によれば、「中国はハタからみるほど複雑ではなく、中心部分は非常に親しみやすい」のだとか。「今の躍進はそれこそ30年前の共産党指導者、トウ小平氏の決断から始まっており、『それが黒い猫だろうが白い猫だろうか関係ない。ネズミを捕るのがいい猫だ』という当時の発言からもよく分かる」という。要は、細かいことは言わずに、稼げ! という実に清濁併せのむ、大人な決定がなされたわけだ。
それと「中国にミニデトロイトがたくさんできた」そう。中国全体と大都市ひとつひとつの動きは違い、そこは配慮しなければならない。
また今の躍進は主に2000年以降に始まっているわけだから、前準備というか前処理に実に20年間ぐらいかかっている。実際、勢いのあるフォルクスワーゲンにしろGMにしろ、中国に本腰を入れ始めたのは20年以上も前で、この潮流は今に始まったことじゃないのだ。
それから面白かったのは、中国のEV(電気自動車)やハイブリッドカーの実態。盛んにEV時代の到来とばかり、今回の上海ショーでも各社こぞってEVのプロトタイプやハイブリッドモデルを出していたが、自動車の電気化最右翼といわれるBYDでも販売の99%は、EV以外。乗用車全体でも98.5%がガソリン車で、残り数%がディーゼルとハイブリッドとEV。いうほど電気自動車が広まっていないのが現実なのだ。
正直、小沢はそれを聞いて納得するとともに少々安心してしまったが、実際、ショーだけを見て中国市場全体にビビりすぎるとソンをするかもしれない。
最後に、気になる今の日本の地震の影響について、聞いてみた。するとまずは、「今までのところ、世界のメーカーは冷静に動向を見ているといったところで、すぐに影響がでることはないだろう」と一言。続き、「ただし、長期的には影響を否定できない。例えばトヨタやホンダの中国ユーザーが、現代やシェビー(シボレー)に移ることはありうるし、一度移ったら戻ってくるのは相当困難だろう」とも。
地震の影響は、続く。しかも、被災地の問題と同じく、ユーザーに対しては、物理的影響とともに、精神的な影響も大きいのだ。つまり、それだけ俺たちはめげずに頑張る必要があるってことだ。
ってなわけで、いろんな意味で、今後のニッポンの頑張りを意識させられた今回の上海ショー。みなさん、心して行きまショー!!
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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