BMW X3 xDrive30e Mスポーツ(4WD/8AT)
走り方いろいろ 使い方いろいろ 2020.09.08 試乗記 BMWのミドルクラスSUV「X3」に、プラグインハイブリッド車(PHEV)の「xDrive30e」が登場。大容量のバッテリーと外部充電機能を備えたニューモデルは、さまざまな走り方はもちろん、さまざまな使い方もできる一台に仕上がっていた。まだまだ少数派のプラグインハイブリッド
2020年6月に登場した「トヨタRAV4 PHV」が、発売から約3週間で年度内の生産分を売り切り、受注を一時停止したというニュースを耳にした人は多いだろう。PHEVへの関心や需要が高まっている証しといえるが、それでも2019年の乗用車の新車販売台数に占めるPHEVの割合はわずか0.6%程度で、日本ではまだまだ少数派である。
それだけに、“食わず嫌い”という人も少なくないと想像するが、付き合ってみると意外に気さくで、見どころの多い、頼れるクルマだったりする。かくいう私も、フォルクスワーゲンのPHEV「ゴルフGTE」を所有したことがあり、バッテリー残量を心配することなく、気軽に電気自動車の世界を楽しんできたし、機会があればまたPHEVを所有したいと思っている。
そもそもPHEVとは、エンジンと電気モーターによって高効率な走行を可能にするハイブリッドシステムに、外部から充電可能な大容量バッテリーを組み合わせたクルマのこと。近距離であれば電気自動車同様、電気だけで走行することができ、自宅に充電できる環境があれば、近所のお出かけは電気だけで済んでしまう。一方、バッテリーが空に近い状態でも燃料さえあれば走行が可能であり、ふつうのハイブリッド車同様、長距離走行が楽しめるという、実に使い勝手のいいクルマなのだ。
そんなPHEVは、日本車以上に輸入車のラインナップが多く、なかでもBMWは実に車種が豊富だ。今回試乗したX3 xDrive30eは、2020年4月に追加されたBMW最新のPHEVである。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
2リッターガソリンターボ+電気モーター
X3 xDrive30eのパワートレインは、2リッター直列4気筒ガソリンターボエンジンと、電気モーターの組み合わせ。エンジンは、最高出力184PS(135kW)、最大トルク300N・m(30.6kgf・m)と「X3 xDrive20i」と同じスペックで、8段ATが組み合わされている。このトランスミッション内部に収められる電気モーターは最高出力109PS(80kW)、最大トルク265N・m(27.0kgf・m)というアウトプットの持ち主で、トータルで最高292PS(215kW)の出力を発生する。
PHEVのX3 xDrive30eとエンジン車は、左フロントフェンダーのフラップの有無で見分けられる。フラップの奥には普通充電用のポートがあり、12kWhの駆動用リチウムイオンバッテリーを満充電すれば、最大44kmのEV走行が可能だという。
いっぽう室内は、PHEV専用にデザインされたメーターパネルや、走行モードを変更する「eDrive」ボタンがセンターコンソールに配置されるところがエンジン車とは異なる点。一番の違いはラゲッジスペースで、フロアが8cmほど高くなっていて、収納スペースがエンジン車に比べて100リッター少ない450リッターとなる。駆動用バッテリーを後席下に配置するため、燃料タンクが荷室下に追いやられた結果だ。それでも十分な広さを確保しており、後席を倒せば1500リッターまでスペースを拡大できるのがうれしいところだ。
上品な走りの「MAX eDRIVE」モード
クルマを受け取った時点で、駆動用バッテリーの残量は約半分。システムを起動すると、用意される3つの走行モードから、電気だけで走行する「MAX eDRIVE」モードが選択される。
早速アクセルペダルを踏むと、X3 xDrive30eは静かに、そして、スムーズに動き始める。このクルマの車両重量は2090kgにも及ぶが、動き出しにもたつくこともなく、一般道はもちろん、高速道路でも、ほとんどの場面で十分な加速を見せてくれる。電気モーターだけに、アクセルペダルに対する反応も素早い。資料によればこのモードは、速度的には140km/hまで走行できるということなので、バッテリーの残量が許せば、日本の道路はすべてEV走行でカバーできることになる。ただ、首都高速道路入り口の短いアプローチなど、急加速が必要な場面ではいまひとつパンチに欠ける印象で、エンジンの助けを借りたいと思ったのは事実だ。
そんな場面でも涼しい顔でいられるのが「AUTO eDRIVE」モード。基本的には、動き出しから電気で走行するが、アクセルペダルを大きく踏み込んだときや、速度が110km/hを超えたときには自動的にエンジンが始動し、エンジンとモーターによる力強い加速が味わえるのだ。エンジンが始動しても、キャビンは意外に静か。アクセルペダルの踏み方次第で自在にパワートレインをコントロールできるので、積極的に運転したい人はAUTO eDRIVEを選んでおくことをお勧めする。
MAX eDRIVEモード、AUTO eDRIVEモードともに積極的にバッテリーの電力を使うため、走行距離が長くなれば当然バッテリー残量は少なくなる。その場合はエンジンが主役になるが、それでも加速時にはモーターが素早くアシストするため、小気味よい運転が可能だ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
急速充電は要らない?
残る「BATTERY CONTROL」モードは、バッテリー残量が設定したレベルに達するまでエンジン走行しながら充電量を回復させるというもの。このモードでも加速性能に不満はないが、充電にエネルギーを振り分けるため、そのぶん燃費は低下する。その先でどうしてもEV走行をする必要がなければ、あえて使用しなくてもいいと思うし、ガソリンの消費量を抑えるのなら走行前にあらかじめ外部充電しておくのが基本といえる。
ただ、X3 xDrive30eは急速充電に対応していないため、高速道路のサービスエリアで休憩しているあいだにちょっと充電……ということができないのは残念。PHEVは自宅で充電するのが基本といわれているが、「急速充電に対応していればもっと積極的に充電できるのに……」とは、やはり急速充電に非対応のゴルフGTEに乗っているときにも思ったことである。
それはさておき、X3 xDrive30eの走りっぷりは、SUVとしては落ち着いており、乗り心地もマイルド。目地段差を越えたときのショックもうまく遮断し、快適なドライブを楽しむことができた。
移動先では、エンジンをかけずにエアコンが使用できたり音楽が聴けたりできるので、ひとりで仕事をするのにも適している。疲れたら広い荷室に寝転がることもできて、リモートワークや車中泊が快適にできるのもPHEVのX3 xDrive30eならではの魅力だ。いまの時代、そんな付加価値もうれしいX3 xDrive30eである。
(文=生方 聡/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
BMW X3 xDrive30e Mスポーツ エディションジョイ+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4720×1890×1675mm
ホイールベース:2865mm
車重:2090kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:184PS(135kW)/5000rpm
エンジン最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/1350-4000rpm
モーター最高出力:109PS(80kW)/3140rpm
モーター最大トルク:265N・m(27.0kgf・m)/1500rpm
タイヤ:(前)245/50R19 105W/(後)245/50R19 105W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:11.8km/リッター(ハイブリッド燃料消費率WLTCモード)/14.2km/リッター(ハイブリッド燃料消費率JC08モード)
価格:781万円/テスト車=867万4000円
オプション装備:ボディーカラー<サンストーン>(17万2000円)/ハイラインパッケージ<ランバーサポート[運転席&助手席、電動調節式]+リアシートヒーティング+ヴァーネスカレザーシート+ポプラグレーファインウッドインテリアトリム/パールクロームハイライト>(22万9000円)/セレクトパッケージ<電動パノラマガラスサンルーフ[チルト&スライド、コンフォートオープン/クローズ機能付き]+リアサイドウィンドウ・ローラーブラインド[手動]+harman/kardonサラウンドサウンドシステム[600W、16スピーカー、9チャンネルサラウンド]>(28万7000円)/アクティブベンチレーションシート(4万1000円)/ピアノフィニッシュブラックトリム(2万8000円)/アンビエントライト<ウエルカムライトカーペット付き>(5万1000円)/リアシートバックレスト・アジャストメント(2万1000円)/BMWジェスチャーコントロール(3万5000円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:998km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:344.8km
使用燃料:25.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.7km/リッター(満タン法)/13.6km/リッター(車載燃費計計測値)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。