第428回:驚きモモの木「上海ショー」!(前編) ニューヨークよ、オマエは既に負けている!?
2011.04.29 小沢コージの勢いまかせ!第428回:驚きモモの木「上海ショー」!(前編)ニューヨークよ、オマエは既に負けている!?
コピーだらけなんて言わせない!
ったく、韓国のソウル・モーターショーに続き、またまた困った問題大発生ですよ! そ、今度は身近な超大国になりつつある、いや既になっている中国!!
それもある意味ビジネスの中心、上海で行われた「上海ショー」! 4月19日スタートのプレスデイに行ってきたわけだけど、既に『webCG』でも報じられているようにワールドプレミアの数がハンパない。
主要モデルだけでも、「メルセデス・ベンツ コンセプトAクラス」、「フォルクスワーゲン・ザ・ビートル(新型ビートル)」、「アウディQ3」、「アウディA3 eトロンコンセプト」、「BMW6シリーズクーペ」、「BMW M5」、「BMWブリリアンス・プラグインハイブリッド」、「MINIインスパイアード・バイ・グッドウッド」、「プジョー508(中国専用デザイン)」、「シトロエンDS5」、「ボルボ・コンセプト ユニバース」、「プジョーSXV」、「シボレー・マリブ」の13台。アジア勢が「日産ティーダ」、「日産コンパクトスポーツ コンセプト」、「ヒュンダイ・アゼーラ」、「スバルXVコンセプト」、日産プロデュースの中国車「ヴェヌーシア・コンセプト」と、ついでに中国資本となった「MGコンセプト5」も入れると6台だから計19台!!さらによく分からなかった中国ロコブランドのワールドプレミアまで入れるとパーペキ20台以上はいくから、ほぼ同じくして行われた北米ニューヨークショーのワールドプレミア数、約10台を確実に超えることになる。
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しかも、内容が内容よ。実はプレスデイ前夜に揚子江沿いの特設ホールで発表されたのが、フォルクスワーゲンが誇る世界のキャラクター・コンパクトカー「ザ・ビートル」。思わず『ザ・ビートルズ』の韻を踏んだのかと思いきや、フォルクスワーゲン全体のドイツ語キャッチフレーズ「Das Auto」を翻訳したようで、そのうえ現場には、同グループトップのDr.ヴィンターコーン会長やら技術部門トップのハッケンベルグ氏、デザイン部門トップのワルター・ダ・シルバ氏と首脳陣がそろい踏み。いかに中国を重要視しているかが分かる。
実際、2010年のフォルクスワーゲングループの中国での販売台数は過去最高の192万台! しかも、前年比なんと37.4%増!! まさに、絶頂期のイチローの打率に匹敵する“4割伸びメーカー”なわけで、それだけにザ・ビートルも中国でお披露目となったわけだ。
個人的には、この手のクルマはキャラクター商品好きなわが国ニッポンで発表してほしかったが、そうもいかない。ヴィンターコーン会長もプレゼンで「フォルクスワーゲンのシンボルであり、歴史そのもの」と言ったように、ビートルはグループの魂のモデルであり、それを中国で発表することに意味があったのだ。
日本メーカーも、トヨタの豊田章男社長、日産のカルロス・ゴーンCEO、ホンダの伊東孝紳社長と、主要メーカーはすべてトップ直々のお出ましで、さすが年間2000万台! とも言われる超巨大マーケット。なにかとメンツを重んずる中国。やっぱり直々にエライ人が来ないと納得しないのだ!? とにかく、年間200万台弱の韓国ショーとはワケが違う。
本気のドイツメーカー
さて、「ザ・ビートル」。ポイントはある意味フォルクスワーゲン的マジメさの発露で、そこが「MINI」とは若干違うと小沢はみた。
一見、ムードは先代「ニュービートル」ゆずりだが、実はかなり大人っぽくなってて、全長が+152mmの4278mm、全幅が+84mmの1808mm、全高が−12mmの1486mmとワイド&ロー化。しかも単なるスポーティ路線ではない。
違いは特にシルエットに出ており、先代はルーフと前後フェンダーが3つの半円形となり、幾何学的な“オモチャっぽさ”を醸し出していたが、今回はなだらかでエレガントな曲線を描き“クルマらしさ”をアピール。キャビンが広がって乗り心地が良くなった以上に、大人っぽさで勝負するのだ。
中身は現行型「ゴルフ」や「ポロ」に使われている1.2リッターエンジンのプラットフォームが使われ、走りは確実に高品質化するはず。それに合わせて見た目も大人っぽくなったと言えるのかもしれない。
もう一つはメルセデスの「コンセプトAクラス」だ。こちらはあまり資料がないが、明らかにスポーティ化。ある意味、ザ・ビートルと同路線ともいえ、ワイド&ローな大人びたスタイルになっている。中身も、従来の特徴だった衝突安全性と先進性を強調する「フロアのサンドイッチ」構造は採用されず、その分、別のカタチで電気自動車化やプラグインハイブリッド化ができる構造になっていると言われる……が、真相は明らかにはなってない。
ただ、もしかして今後メルセデスの大衆化路線が変更されるのかもしれないし、その辺には要注意だ。
フォルクスワーゲンと確実に違うテイストだったのが、BMWグループ。なぜなら2010年の中国での販売台数は、BMW単体が16万台弱で、MINIが1万台。合わせて17万台弱と正直まだまだ。よって、露骨に高級車路線を歩んでる。
例えば大型の「6シリーズクーペ」。長年「世界で最も美しい」と言われ続ける伝統のモデルで、これも中国狙いになったかと思うと隔世の感がある。
BMWでは初となるオールLEDヘッドライトを採用。ボディデザインはまさしく新型「5シリーズ」や「7シリーズ」の流れを受け継ぐエレガント路線で、エンジンは407psのダウンサイジング系4.4リッターV8ガソリンを搭載している。
同時にお披露目された「M5」も同じ路線で、なんとF1直系と言われた5リッターV10ガソリンの代わりに、またまた4.4リッターV8を搭載。馬力はさすがにMモデルらしく、ツインターボ化されて550ps以上発生するようだが、もはや「ハイパフォーマンス=多気筒&大排気量エンジン」は完全に過去の物。
そういうモデルを中国で発表しちゃうわけだから完全に世界はひとつ。新興国だからって「ちょっと古い物を……」ってなラクな話は通じなくなってきているのだ。
進む「中国専用」化
ってなわけで、今回は中国市場のますますの“グローバル&一流化”が目に付いたが、もう一つ“中国専用設計”もトレンドの一つだったりする。
例えばまずプジョー。聞けばPSAプジョー・シトロエングループは、既にフランス本社から1500名もの管理&設計部隊を送り込んでいるそうな。トップの数人だけが欧米人で、後は中国人労働者……って図式じゃなくなっている。もちろん販売台数はまだまだ少なく、今年の目標は20万台でしかないが、もしや力の入れ具合はドイツ勢に負けず劣らずなのかもしれない。
その様子が端的にうかがえるのがSUVコンセプトの「SXC」。そもそもSXCの“S”はShanghai(上海)のSなうえ、ボディサイズも巨大で、全長4870mm、全幅2035mmと完全に大陸レベル。それもそのはずデザインから車両開発まで、すべて上海テクニカルセンターで行われた“100%中国車”なのだ。 いっぽう、同時に中国専用ボディが発表されたミディアムセダンの「508」も、中国市場を当て込んで開発された“アジアンカー”。すっかりフランスはコチラを向いているのだ。
元々、植民地時代から海外文化を取り入れるのがうまいと言われている国。ここも侮れない強力ライバルなのかもしれない。
そして“中国専用化”の急先鋒は、実は日本の、それも日産だ。トヨタ、ホンダともに上海でのワールドプレミアはなく、日産が唯一気を吐いている感もあるが、それもそのはず、中国進出は日本メーカーでは一番遅かったくせに、去年真っ先に年間販売100万台の壁を突破! 勢いに乗っているのだ。
プレゼンでも2011年の目標が年間115万台であることをカルロス・ゴーンCEO自ら宣言。ふたつの主要モデルを発表した。
一つ目はコンパクトハッチバックの「ティーダ」で、一応日本でもおなじみのグローバルモデルだが、今後の日本導入は未決定。というのも既に日本には同クラスの「ノート」や「キューブ」があり、FFミディアムセダンの「ティアナ」同様、ティーダも実質的な中国戦略車になった感がある。
実車はホイールベースが10cmも延長され、特にリアシートが拡大。家族全員で乗ることが当たり前な中国家庭を刺激する。
パワートレインは日本のキューブやクロスオーバー「ジューク」などと同じ1.6リッター直4+CVT。エンジンはデュアルインジェクター採用で、CVTは副変速機付きで燃費が良く、排ガスもキレイで、基本性能は完全にグローバルレベルだ。
やっぱり、ここが最前線?
さらにもう1台、まさに中国専用車の代表とも言えるのが「啓辰」こと「ヴェヌーシア・コンセプト」だ。去年12月に不肖・小沢が広州モーターショーで直接見た時は、前半分のみのハーフカットモデル。それがついにフルスケールとなって登場したわけ。
プレゼンした副総理の任勇氏いわく、「2012年夏までには実車を発売し、後半にはもう1車種追加する」そうで、なんとも恐ろしい開発スピードだが……それだけではない。気になったのはそのデザインだ。
個人的偏見まる出しで言ってしまおう。後ろ半分はBMWっぽく、前半分はわりと無難にホンダやトヨタっぽいと思った。
不肖・小沢は「攻めていつつも、守ってもいる、絶妙なサジ加減」だと思った。中国ではまずは「見た目リッパ」なことが重要であり、そのためにトランクのないハッチバックよりも保守王道のセダンが売れるわけだが、さらにヴェヌーシアにはトレンド性がミックスされている。
実際、上海の街並みで最新のBMWやフォルクスワーゲンのセダンを見るとやや浮いているようにもみえる。特にタクシーに使われている「フォルクスワーゲン・サンタナ」が30年ぐらい前の角張りデザインなので、ほとんどタイムスリップした感すらある。
むろんそのダイナミックレンジの広さこそが上海の魅力なのだが、ヴェヌーシアはちょうどその中間を突こうとしている気がした。新し過ぎてもダメだし、古すぎてもダメ。それは売れるデザインの基本なのだ。
ってなわけで上海、やっぱり来る度に時の流れを感じるし、“ここが最前線”であることを思わせる。やっぱり中国語、勉強しなくちゃいけないかなぁ……(苦笑)
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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