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アバルト595エッセエッセ(FF/5MT)

サソリ×サソリの効能 2020.10.31 試乗記 下野 康史 「アバルト595」の特別仕様車「esseesse(エッセエッセ)」は、往年の同名モデルをオマージュしたホットハッチ。アクラポヴィッチのマフラーやコニのダンパー、サベルトシートなどでチューンされた刺激的な走りを堪能した。

充実のチューニングアイテム

「フィアット500」の高性能モデル、アバルト595にまたまたスペシャルバージョンが登場した。限定305台のエッセエッセだ。女性誌みたいに聞こえるが、1960年代のカルロ・アバルト時代につくられたフィアット500(ルパン三世でおなじみの)ベースの「595 SS」にちなんだもので、“SS”をイタリア語の発音で開いている。10年ほど前に「アバルト・グランデプント」でも使われたことがある。今回はボディーのお尻に「esseesse」のエンブレムもつく。

現行アバルト595のなかでも最もパンチのある「595コンペティツィオーネ」をベースに専用の装備やカラーリングを与えた。機能部品のハイライトは、テールにカーボンのマフラーカッターをのぞかせるアクラポヴィッチのエキゾーストシステム。「アバルト695」にも採用されていた両サイド2本出しのマフラーだ。

アバルトのエンブレムがサソリなのは、カルロ・アバルトが蠍座だったからだが、バイク用スポーツマフラーからスタートしたアクラポヴィッチのエンブレムもサソリである。

そのほか、17インチのホワイトホイール、カーボンバックシェルのサベルト製シート、カーボンのダッシュパネルなどを備え、今回試乗したMTモデルは403万円。いちばん安いフィアット500が2台買えてお釣りがくるお値段だが、この内容で595コンペティツィオーネの20万円高に収まるのはバーゲンプライスだろう。5年前に850万円で販売された「695ビポスト」のドグミッション仕様などは、中古車市場でほとんど値落ちしていない。アバルトの限定モデルには福があるのかもしれない。

「アバルト595」の特別仕様車「esseesse(エッセエッセ)」は2020年8月に登場。オープンモデルの「595Cエッセエッセ」もラインナップし、合計305台が限定発売された。
「アバルト595」の特別仕様車「esseesse(エッセエッセ)」は2020年8月に登場。オープンモデルの「595Cエッセエッセ」もラインナップし、合計305台が限定発売された。拡大
リアゲートに備わる「595 esseesse」のエンブレム。初代モデルのロゴデザインをモチーフに、現代流のアレンジが加えられている。
リアゲートに備わる「595 esseesse」のエンブレム。初代モデルのロゴデザインをモチーフに、現代流のアレンジが加えられている。拡大
ノーズに「ABARTH」のエンブレムを配置。インタークーラー冷却用エアインテーク付きフロントバンパーやホワイト仕上げのリップスポイラーは「595エッセエッセ」専用のアイテム。
ノーズに「ABARTH」のエンブレムを配置。インタークーラー冷却用エアインテーク付きフロントバンパーやホワイト仕上げのリップスポイラーは「595エッセエッセ」専用のアイテム。拡大
リアバンパーはディフューザーと一体型のデザインで、アクセントとしてホワイト仕上げのインサートが組み込まれている。
リアバンパーはディフューザーと一体型のデザインで、アクセントとしてホワイト仕上げのインサートが組み込まれている。拡大
アバルト 595 の中古車

目が覚める乗り心地

ステアリングコラムのキーシリンダーにリアルキーを挿し込んで、スタートボタンを押してエンジンを始動すると、ダッシュ中央の7インチモニターのなかでパドックのシャッターが開き、595が出てくる。実写のようにリアルなので、最初、自分が乗っているクルマかと思った。エンジンをきると、こんどはバックしてパドックに戻り、シャッターが閉まる。なかなかシャレたくすぐりだ。

エンジンに火が入った瞬間の排気音はかなりレーシングライクだ。ドライブモードを「スポーツ」にすると、低音が強調され、スロットルオフではアフターファイア音を聴かせる。しかしアクラポヴィッチのチューニングはそんなに“やりすぎ”ではない。

そこそこ踏みごたえのあるクラッチペダルを踏み、握っているだけで幸せなアルミシフトノブを1速に入れて走りだすと、いやでも目が覚めるのは乗り心地だ。コニのダンパーが入ったサスペンションに変更のアナウンスはないから、コンペティツィオーネと変わらないはずだが、あらためて味わう強毒サソリの乗り心地はホットハッチとしても格別の硬さだ。とくに低速域だと、205/40R17の「ミシュラン・パイロットスポーツ3」は路面の凸凹を細大漏らさず伝えてくる。だが、フィアット500より大幅に剛性アップしたボディーも硬いから、ツジツマは合っている。許せる硬さだ。

イグニッションのオン/オフ時に「アバルト595エッセエッセ」のアニメーションが、ダッシュボード中央の7インチモニターに表示される。
イグニッションのオン/オフ時に「アバルト595エッセエッセ」のアニメーションが、ダッシュボード中央の7インチモニターに表示される。拡大
スポーツモードスイッチをセンターコンソール左側に配置。同モード作動時は電動パワーステアリングとエンジンの制御が変更され、最大トルクが230N・mから250N・mにアップする。
スポーツモードスイッチをセンターコンソール左側に配置。同モード作動時は電動パワーステアリングとエンジンの制御が変更され、最大トルクが230N・mから250N・mにアップする。拡大
アクラポヴィッチ製のハイパフォーマンスエキゾーストシステムを標準装備。カーボン仕上げのテールパイプフィニッシャーにサソリのマークと「AKRAPOVIC」のロゴが入っている。
アクラポヴィッチ製のハイパフォーマンスエキゾーストシステムを標準装備。カーボン仕上げのテールパイプフィニッシャーにサソリのマークと「AKRAPOVIC」のロゴが入っている。拡大
ホワイトの12本スポークアルミホイールは「595エッセエッセ」の専用アイテム。試乗車は205/40ZR17サイズの「ミシュラン・パイロットスポーツ3」タイヤを組み合わせていた。
ホワイトの12本スポークアルミホイールは「595エッセエッセ」の専用アイテム。試乗車は205/40ZR17サイズの「ミシュラン・パイロットスポーツ3」タイヤを組み合わせていた。拡大

実際以上のスピード感

5段MTと組み合わされるエンジンは180PS。「アバルト500」時代は135PSだった1.4リッターターボを徐々にここまでパワーアップしてきた。かと思えば、メイド・イン・ヒロシマの「アバルト124スパイダー」では縦置きにされて後輪を駆動する。フィアットのなかでもとくべつ働き者の4気筒ユニットである。

最近の小型ターボエンジンは、ターボをトルクの肉付けに使うような控えめな仕立てが多いが、この過給1.4リッターは昔ながらの“ザ・ターボ”である。ターボラグのような使いにくさがあるわけではないが、とにかく炸裂感がスゴイ。とくに97km/hまで伸びる2速の加速は痛快だ。

100km/hは5速トップで2600rpm。3000rpmに上げると120km/h弱。排気音やロードノイズの演出で、早くも十分、飛ばしている気分になる。つまり“速い”以上に“速い感じ”がする。だから安全でもあると思う。

このエンジンとこの足まわりだから、山道では水を得た魚だ。これだけパワフルな前輪駆動なのに、フロントタイヤが無駄がきしたり、ステアリングに気になるキックバックがきたり、といったマナーの悪さはない。マイナスポイントを挙げるとすれば、全長3660mmという短躯のわりに、あれっと思うほど小回りがきかないこと。最小回転半径は5.4m。メルセデスの「Eクラス」並みだ。

「アバルト595エッセエッセ」のボディーサイズは全長×全幅×全高=3660×1625×1505mm、ホイールベースは2300mm。車重は1160kgと発表されている。
「アバルト595エッセエッセ」のボディーサイズは全長×全幅×全高=3660×1625×1505mm、ホイールベースは2300mm。車重は1160kgと発表されている。拡大
インレイにカーボンを用いたレザーとアルカンターラのコンビネーション仕上げとなる、スポーツステアリングホイールを装着。
インレイにカーボンを用いたレザーとアルカンターラのコンビネーション仕上げとなる、スポーツステアリングホイールを装着。拡大
1.4リッター直4ターボエンジンは最高出力180PS、最大トルク250N・mを発生する。試乗車は5段MT仕様(限定110台)だが、MAT仕様(同60台)も用意される。
1.4リッター直4ターボエンジンは最高出力180PS、最大トルク250N・mを発生する。試乗車は5段MT仕様(限定110台)だが、MAT仕様(同60台)も用意される。拡大
コンパクトなボディーサイズながら、最小回転半径は5.4mとDセグメントモデル並み。これは「フィアット500」よりも0.7m大きな数値となる。
コンパクトなボディーサイズながら、最小回転半径は5.4mとDセグメントモデル並み。これは「フィアット500」よりも0.7m大きな数値となる。拡大

EVの対極にある存在

飛行機でいえば小型アクロバット機みたいなスペシャル595を270kmほど乗り回し、燃費は8.5km/リッター(満タン法)だった。車載燃費計でも10.4km/リッター。1.4リッターの小排気量にハイプレッシャーターボの組み合わせでは仕方ないとはいえ、数少なくなったホットハッチのなかでも燃費は自慢できない。

欧州仕様のCO2排出量もコンペティツィオーネで139g/km。2021年からCAFE(企業別平均燃費)で95g/km以下なんていう規制が始まると、こういうクルマはこの先、どうなっていくのだろうか。次期フィアット500はフルEVとしてすでにお披露目されている。アバルトも電動サソリになるのだろうか。

595エッセエッセを借りているとき、「ホンダe」の試乗会があった。価格だけはそう遠くないが、乗り比べると笑っちゃうほど対極の2台だった。ホンダeはCO2排出量ゼロ。後輪モーターで前輪はおそろしく切れる。最小回転半径4.3m。EVだから、発進加速は595エッセエッセでもヤバイかもしれない。だが、いまこのクルマに乗っていると、免疫力アップは間違いなしと思った。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=神村 聖/編集=櫻井健一)

スポーツモード選択時の液晶メーターデザイン。中央部分にGメーターが表示される。
スポーツモード選択時の液晶メーターデザイン。中央部分にGメーターが表示される。拡大
カーボンシェルのサベルト製スポーツシートを標準装備。表皮はテクノレザーとファブリックのコンビネーションで、これは「595エッセエッセ」専用の仕様となる。
カーボンシェルのサベルト製スポーツシートを標準装備。表皮はテクノレザーとファブリックのコンビネーションで、これは「595エッセエッセ」専用の仕様となる。拡大
通常使用時の荷室容量は185リッター。後席背もたれを前方に倒すと、容量を最大550リッターに拡大できる。
通常使用時の荷室容量は185リッター。後席背もたれを前方に倒すと、容量を最大550リッターに拡大できる。拡大
JC08モードの燃費値は13.1km/リッター。今回の試乗では274.0km走行し、満タン法で8.5km/リッターを記録した。
JC08モードの燃費値は13.1km/リッター。今回の試乗では274.0km走行し、満タン法で8.5km/リッターを記録した。拡大

テスト車のデータ

アバルト595エッセエッセ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3660×1625×1505mm
ホイールベース:2300mm
車重:1160kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:5段MT
最高出力:180PS(132kW)/5500rpm
最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/3000rpm
タイヤ:(前)205/40ZR17 84W/(後)205/40ZR17 84W(ミシュラン・パイロットスポーツ3)
燃費:13.1km/リッター(JC08モード)
価格:403万円/テスト車=404万3200円
オプション装備:ETC車載器(1万3200円)

テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:2002km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:274.0km
使用燃料:31.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.5km/リッター(満タン法)/10.4km/リッター(車載燃費計計測値)

アバルト595エッセエッセ
アバルト595エッセエッセ拡大
ボディーの両サイドに「ABARTH」と「595」を組み合わせたエンブレムが装着されている。
ボディーの両サイドに「ABARTH」と「595」を組み合わせたエンブレムが装着されている。拡大
ダッシュボード上に設けられたブースト計。スポーツモード作動時には、中央にある「SPORT」の文字が点灯する。
ダッシュボード上に設けられたブースト計。スポーツモード作動時には、中央にある「SPORT」の文字が点灯する。拡大
ブレーキおよびクラッチペダルには「ABARTH」ロゴが刻まれている。
ブレーキおよびクラッチペダルには「ABARTH」ロゴが刻まれている。拡大
下野 康史

下野 康史

自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。

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