アウディe-tronスポーツバック55クワトロ ファーストエディション(4WD)【試乗記】
未来は考え方ひとつ 2020.12.18 試乗記 アウディの国内ラインナップでは初となる100%電気自動車(EV)「e-tronスポーツバック」に試乗。全長4900mmの大型ボディーにシステム出力408PSを誇るツインモーターを備えた電動SUVは、ドライバーにどんな未来を見せてくれるのだろうか。ひとつ上のレベルの静寂
試乗車と対面して最初に感じたのは、e-tronスポーツバックが想像以上に大きなボディーサイズだということだった。大きさに比例して重くなるのは当然である。スペックを見ると、2.5t超え。不安だ。目的地は富士スピードウェイなのだ。出発地点からの距離は約120km。メーターに示された残存航続距離は277kmだから、数字の上では往復するのに十分である。しかし、以前EVの試乗で痛い目に遭ったことがトラウマになっている。
そろそろと走りだすと、全くの無音。EVの静かさには慣れているはずだが、静寂の度合いがひとつ上のレベルだ。森閑としていて、システム出力408PSという巨大なパワーが働いていることを感じさせない。「ファーストエディション」には「サイレンスパッケージ」が標準装備で、サイドにはアコースティックガラスが用いられている。風切り音などが侵入するのを抑えるもので、静粛性向上に貢献するそうだ。室内が優れた音響環境となるだけに、Bang & Olufsenのオーディオがおごられている。マキシマム ザ ホルモンをかけるのははばかられたので、エリック・サティのピアノ曲をチョイスした。家で聴くよりはるかにいい音である。
早朝で道はガラ空きだったので、信号が青になると思い切ってアクセルを踏み込んでみた。静かさは変わらないまま、押し出されるようにして力強く加速していく。荒々しさや粗暴さとは無縁の上品なパワーである。インテリなのに力持ちという感じだ。闇の中から力が湧いてくるような感覚は新鮮で、得も言われぬ快感に打ち震える。しかし、メーターを見ると正気に戻った。残存航続距離が瞬く間に減少しているのを見て、以後はジェントルな運転に徹することにした。
高速道路も交通量が少なく、ハイペースで飛ばすクルマが多い。急ぐ人々を眺めながら、左側車線を悠然と走った。アダプティブクルーズコントロール(ACC)を使って定速走行を試みたが、特に電費がよくなるわけではない。とにかく無駄な加減速をしないことが肝要である。右足の力を繊細にコントロールしていると、残存航続距離の減少を緩やかにすることができた。