「リーフ」の発売から10年…… “EVのパイオニア”日産の過去を振り返り、未来を占う
2020.12.07 デイリーコラム計画通りに進まなかった日産のEV販売
日産自動車が、同社としては初めての量産EV(電気自動車)「リーフ」を発売したのは、10年前の2010年12月のことだった。HEV(ハイブリッド車)で先行するトヨタ自動車やホンダを追って、日産も2000年に「ティーノ ハイブリッド」を発売したものの、それは100台の限定販売だった。当時経営再建の途上だった日産は、HEV開発競争で明らかに立ち遅れていた。その日産が、トヨタ、ホンダのHEVに対抗する環境技術として選択したのがEVだった。先行する2社と同じ土俵で勝負するのではなく、走行中にCO2をまったく排出しないEVを両社に先駆けて量産化することで、一気に形勢を逆転する狙いが込められていた。
しかし、残念ながらリーフは日産の思惑通りには売れなかった。当時のカルロス・ゴーン社長は2011年6月に発表した2011-2016年度の中期経営計画「日産パワー88」の中で、アライアンスパートナーの仏ルノーと合わせ、計画期間中に累計150万台のEVを販売するとぶち上げた。しかし、実際には2019年1月の時点でも累計70万台あまり。一年あたりにならした販売台数は、計画の3分の1以下にとどまった。日産は2007年に、リーフのためにNECやNECトーキンと合弁でバッテリー製造会社オートモーティブエナジーサプライ(AESC)を設立したが、過剰な生産設備を抱え、2019年には中国エンビジョングループに売却を余儀なくされた。
10年の間に行われた数々の施策
リーフはなぜ売れなかったのか? リーフが日産の思惑通りに売れなかった理由はいくつも挙げられるだろう。価格がHEVと比べても100万円以上高かったこと。充電インフラが不十分だったこと。航続距離が短かったこと。加えて、使い方によってはバッテリーの劣化が激しいことも、リーフの不人気に拍車をかけた。もちろん、日産が手をこまぬいていたわけではない。車両価格の値下げや、バッテリーの大容量化、充電インフラの整備を進め、バッテリーの耐久性向上にも取り組んだ。
EVならではの機能が力を発揮する機会もあった。最たるものが、災害時の非常電源としての機能である。リーフ発売の翌年に発生した東日本大震災において、日産は燃料供給網が寸断された被災地にリーフを提供。その後も各地の自治体などと災害連携協定を締結している。台風や地震災害による大規模停電が発生した場合に、リーフなどのEVを対策本部や避難所などでの非常電源として使うことを主に想定しているのだ。バッテリーの価値を上げるため、リーフの発売に先立つ2010年9月には、住友商事と合弁でEVバッテリーの「再利用(Reuse)、再販売(Resell)、再製品化(Refabricate)、リサイクル(Recycle)」を推進するフォーアールエナジーも設立している。
このように、EVの普及へ向け日産はさまざまな施策を打ち出してきたのだが、残念ながら、それらが販売の起爆剤となることはなかった。そうこうしているうちに、他社のEV販売が勢いを増し、日産の存在感は日増しに薄くなっている。2020年1-9月のリーフの世界販売台数は3万6843台で、米テスラの「モデル3」、仏ルノーの「ゾエ」、テスラの「モデルY」、韓国現代自動車の「コナEV」に次ぐ5位に甘んじている。販売トップのモデル3は24万台近くを売り上げており、この数字はリーフの6倍以上にあたる。
新型EV「アリア」に寄せる期待
なぜ日産がテスラに大差をつけられたのか。そのポイントは、日産がリーフの開発で「EVの欠点をいかに解消するか」に注力したのに対して、テスラはこれまでのクルマとは違う「エクスペリエンス(体験)」の創造を重視したことだろう。
カードをかざせばドアが解錠し、シートに座ってブレーキを踏めばクルマが起動する。クルマから降りるときにも、インサイドドアハンドルを引く必要はなく、スイッチ操作でドアを開ける。フロントフードを開けるのもディスプレイからの操作で、クリスマスシーズンにはウインカーの作動音が鈴の音になる……等々、テスラ・モデル3は新鮮な体験に満ちている。しかも、ネットワークを通じたシステムのアップデートで、クルマの機能は購入後も向上し続ける。大げさに言えば、テスラは「自動車に乗る」というエクスペリエンスを再発明しようとしているのだ。
こうした姿勢が評価され、世界的な成長を遂げたテスラと、その後塵(こうじん)を浴びる格好となった日産。しかし、日産の蹉跌(さてつ)がまったく無意味だったわけではない。リーフのパワートレインはシリーズハイブリッドシステム「e-POWER」に応用され、いまや日産の“売れ筋商品”になっている。また2021年に発売する新型EV「アリア」は、テスラに学び、斬新なデザインや大型のタッチパネルディスプレイ、パワフルなモーターを採用した。量販EVのパイオニアとして、日産がどこまで巻き返せるか。今後の展開に期待したい。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=日産自動車、峰 昌宏、webCG/編集=堀田剛資)

鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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