ニスモが「GT-R」のレストアを開始! 盛り上がる名車再生サービスの“功”と“罪”
2020.12.28 デイリーコラム今も昔も気になる存在
少しだけ私の話をさせてほしい。あれは15年ほど前のこと。社会人になりたてだった私は、本気で「日産スカイラインGT-R」を探していた。当時はR34の生産終了から3年ほどということもあり、R34は高価だったが、R32とR33なら、程度のいい個体でも300万円以内で見つけることが可能だった。休日には、日産ディーラーや専門店を見て回ったものである。
もちろん、GT-Rだけに限らず、R34ターボなども調べてみたが、国産FRスポーツカーが絶版に近い状態だったこともあり、どれも割高感は否めなかった。多少なりとも経験を積んだ今なら、その中でもベターな物件を選択できただろう。しかし、百戦錬磨の中古車店を前に、若造には難しい話であった。
なにしろ10年落ち前後の中古車なのに300万円もするわけだから。しかも状態はよさそうでも、どの個体も7万kmほど距離を重ねており、その後のメンテナンスは必須。タイヤ代や保険料などがかさむことも、収入が限られる20代には重くのしかかり、さらには親切な店員が教えてくれた維持にまつわる厳しい現実も、私をしり込みさせた。なんとか手の届きそうなGT-Rには出会ったものの、さまざまな事情から購入を断念。以来GT-Rは、私にとって永遠のアイドルとなってしまった。
それだけに、この12月はじめのニスモの発表には、胸を熱くさせられた。ニスモがGT-Rのレストア事業「NISMO restored car」に着手し、持ち込み依頼はもちろんのこと、完成車の販売まで行うというのだから。
部品供給に立ちはだかる壁
これまでの取り組みを振り返ると、ニスモは2017年11月に日産やオーテックジャパンと協力して「MISMOヘリテージ」を立ち上げ、R32型スカイラインGT-Rの欠品部品の供給を開始。2018年11月には対象車種をR33 GT-RとR34 GT-Rに拡大した。
私はこの取り組みを取材したことがあるのだが、その際、欠品部品の供給には多くの課題があることを知った。特に難題として示されたのが、電子部品だ。第2世代GT-Rには当時の日本が誇るハイテクが満載されており、それゆえに驚異的な性能を発揮。ほぼ国内専用車だったにもかかわらず、世界中のクルマ好きに広く知られる存在となった。しかし時が流れた今、その自慢のハイテクに悩まされることになる。
例えばトランジスタはIC、そしてLSIへと発展し、小型化、軽量化、高性能化が図られた。その進化の過程で、置き換えられた部品は消滅することになる。これがネオヒストリックと呼ばれるクルマの修理の、大きな障害となっているのだ。乱暴な言い方となるが、条件さえ整えば60~70年代のアナログなクルマのほうが、修理は現実的なのだ。それだけに、「新車のパフォーマンスに近づける」というニスモのレストアは、夢のような話に感じられた。
一方で気になるのが、その費用。なによりもコンプリートカーの価格は、多くの人が注目するところだろう。あの頃、GT-Rを手にしなかった私もそのひとり。さらなる情報を求めて早速ニスモに取材を申し込むも、「現時点では、公式サイトの情報がすべて」とのこと。現在もさまざまな準備を進めている最中のようなので、ぜひ近いうちに続報をお届けしたい。
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盛り上がりをみせるメーカーの取り組み
昨今、国産スポーツカーは国内外で価値が見直されていることもあり、欠品パーツの再販やレストア事業開始の動きがある。トヨタは「GRヘリテージパーツ」として、歴代「スープラ」と「2000GT」の絶版パーツの一部を復刻。部品の種類は限られるが、現在も新たな部品の供給が続けられている。
さらに踏み込んだ取り組みとなっているのが、マツダによる「クラシックマツダ」だ。「ユーノス・ロードスター」の絶版部品の復刻供給に加え、初期型となる1.6リッターモデルのレストアまで行っている。フルレストアの総額は、およそ500万円。新車時の車両価格の2倍を超えるお値段だが、愛するロードスターが新車同然になるのだから、高くないと思う人も多いだろう。
ただ課題もあり、どんなクルマでもレストアできるわけではなく、サビがないことや、カスタマイズ部品の装着がないこと、そして修復歴がないことなど、一定の条件が課せられる。スポーツカーだけあって、市場に出回るロードスターには修復歴があるものも多い。しかも車齢は30年前後となるだけに、素性がよいものなどごくわずかだろう。このようにベース車を厳選しても、1台として同じ状態のものはないだけに、レストア作業は常に新たな課題と直面する。見てくれだけでなく、走行性能の復活も目指すメーカー主体のレストアは大変なのだ。
一方で、「継続は力なり」ということを教えてくれるのがホンダだ。ホンダが誇るスーパーカー「NSX」は、サーキット走行などのハードな走りも積極的に楽しんでもらうべく、1993年から性能を維持するためのリフレッシュプランが提供されてきた。開始当初は当然ながらフルレストアという車両はなかっただろうが、当時から難しいオールアルミボディーの修復を、このプランを担当するリフレッシュセンターが担ってきた。その知見が今、レストアにも生かされているのだ。
レストアの費用はどれほどになるか?
長年の取り組みもあってパーツの調達も安定しており、交換部品はそのほとんどをホンダの部品センターから入手。何らかの事情でそれが困難となった場合も、その都度、その場で手を打ってきた。今では欠品部品を供給してくれるセカンドサプライヤーもしっかり把握しているという。
またNSXの場合、足まわりだけやエンジンまわりだけといった、部分的なリフレッシュのオーダーも多い。これは、大切にされていることからオーバーホールを要する状態まで至っていない個体が多いためで、これなら施工費用は300万円~500万円台に収まる。以前、取材で予算感について聞いた際、「エンジンを除いてフルメニューを施す予定の初期型『NSX-R』の見積もりが、1300万円くらいになりそう。これが今までの最高額」と、例を挙げて説明してくれた。高額といえば高額だが、新車時価格1台分で当時のままによみがえるというのは、意外と夢があるなと思った。
では、日産スカイラインGT-Rの場合はどうなのか。ロードスターとNSXの例、そしてハイテクが満載されたGT-Rの特性を考慮すると、新車価格の500万円では到底おさまらず、2倍の1000万円という数字もそう遠くない額となるのではないか。さらにコンプリートカーでは、このレストア費用がベース車の価格に上乗せとなるはずだ。
そこで現状のGT-Rの価格を中古車検索サイトで調べてみると、R32で最低300万円、R33でも300万円半ば、度肝を抜かれたのがR34で、なんと軒並み1000万円超えだった。平成の“会いに行けるアイドル”的存在だったGT-Rは、今や昭和期の歌謡スター並みに遠い存在となってしまっていた。あくまで私の予想となるが、コンプリートカーの価格は、R32とR33が1000万円ほど、R34については2000万円近いものになるはずで、そうでないと採算が合わない。ニスモの取り組みは、よくも悪くも高騰傾向にある市場価格に影響を与え、ますますそれを刺激することだろう。
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欲しいクルマは今買っておけ!
しかし、悲観することばかりではない。レストアには当然部品が必要で、その供給体制を維持するためには、取り扱う数量は当然多いほうがいい。部品の復刻や再生産などは、今まで以上にしっかり行われるようになるはずだ。レストアが柱となってのサービス体制の拡充は、長年GT-Rを大切にしてきたオーナー、あるいは一生懸命探して程度のよい個体を手に入れたオーナーが、自身のクルマを“一生もの”にするのを助けてくれるはずだ。
これは他社にも言えることで、それだけレストア事業というのは影響が大きい。例えば、ロードスターで知見を得たマツダは、今度はFC型/FD型「RX-7」のパーツの再供給を発表。多くの反響が集まっていると聞く。世間からすればクルマも耐久消費材のひとつなのだろうが、1台のクルマを長く愛したいというユーザーは、まだまだ多いのだ。
そうしたオーナーの思いを、メーカーの取り組みが後押ししてくれるのはうれしいが、注目されるとニーズが高まり、価格高騰という結果も招くのだから痛しかゆし。今後は、本当に欲しい“憧れの一台”を入手するのは、より厳しいことになるかもしれない。だとすると、今のR32とR33の中古車価格は、多くの人にとって夢を見られるギリギリのラインにあるのではないか。欲しいなら今のうちに買っておけ! というのはありきたりな結論だが、15年間、後悔しつづけている私が言うのだから、間違いない。
(文=大音安弘/写真=日産自動車、ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル、マツダ、webCG/編集=堀田剛資)

大音 安弘
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