ベントレー・コンチネンタルGT(4WD/6AT)【試乗記】
こんな時代だからこそ 2011.04.18 試乗記 ベントレー・コンチネンタルGT(4WD/6AT)……2745万4600円
ベントレーの基幹モデル「コンチネンタルGT」の新型が日本上陸。2代目に進化した、ラグジュアリークーペの実力を確かめた。
その姿は成功の証し
新型「コンチネンタルGT」がやってきた。本当は1カ月前に箱根で乗れるはずだったのだが、東日本大地震で試乗会がキャンセルになった。しかしそのおかげで、1日とはいえ、個別に借りられることになった。つかの間の豪邸訪問、という感じだ。
今やベントレーの看板になったコンチネンタルGTは、2003年の登場以来、これが初めてのモデルチェンジである。一見、変わっていないように見えるが、ボディパネルは一新された。
ウエストラインが上がって、上屋はさらに引き締まった。アルミパネルを500度Cに熱して、空気圧でプレスする“スーパーフォーミング”により、フロントフェンダーやボンネットのプレスラインはダイヤモンドカットのようにシャープになった。ぶつけたらオオゴトだろうが。フロントエンドの傾斜はきつくなり、リアのデザインも大きく変わっている。
しかし、もしあなたが旧型のオーナーでないなら、手っ取り早く新型を見分けるポイントはヘッドランプである。丸目4灯のプロジェクターライトのまわりにLEDが埋め込まれたのが見た目に大きな特徴といえる。
それにしても、これだけいろいろイジったのに、フルチェンジでも外観の“印象”を変えていないのは、コンチネンタルGTが成功作だからだろう。1919年の会社創設から1999年まで、80年間にわたるベントレーの生産台数は1万6000台だったが、フォルクスワーゲン傘下で歴史をスタートさせたコンチネンタルGTは2003年からわずか7年間で2万3000台を販売した。日本にも858台が生息している。
ロールス・ロイスと別れた新生ベントレーの象徴がコンチネンタルGTである。
シルクで包んだ高性能
試乗車のボディカラーは“グレイシア・ホワイト”。このご時世に自らをライトアップしているような明るい「氷河の白」だ。渡辺篤史みたいにいちいち感心しているときりがないので、走り出そう。
エンジンは旧型と同じ6リッターW型12気筒ツインターボだが、新たにチップ・チューンが施されて、パワーはプラス15psの575psに、トルクはプラス50Nm(5.1kgm)の700Nm(71.4kgm)に向上している。加えてシートの軽量化などで65kgのダイエットにも成功したため、0-100km/hは4.8秒から4.6秒と、また少し速くなった。
だが、ふだんの新型コンチネンタルGTは、そんな超高性能をひけらかすそぶりさえみせない。たとえフルスロットルを試みても、“ガツン”とガ行で加速Gが立ち上がるようなこともない。加速感にも減速感にも、そして操舵(そうだ)感にも、いちいちシルクで包んだような“まるさ”が介在する。ライバルのひとつは「マセラティ・グラントゥーリズモ」だろうが、メイド・イン・サーキット的なダイレクト感とアツさをもつラテン・クーペと比べると、コンチネンタルGTははるかに静穏でやさしい。「文学的」と言ってもいいかもしれない。このクルマが、アクセルを踏み続けると318km/hのトップスピードに達するなんて、にわかには信じがたい。
ダンピングはモニターのタッチスイッチでコンフォートからスポーツまで4段階に切り替えられる。最軟と最硬ではかなり違うが、最も硬くしたところで、乗り心地が悪くなるほど硬くはならない。
心に沁みるインテリア
50:50のイーブンだった4WDの前後駆動配分は、新型から40:60の後ろ寄りにあらためられた。6段ATは、変速スピードを従来の半分に短縮した“クイックシフト・トランスミッション”に換わった。いずれも、旧型の終盤に限定生産された“スーパースポーツ”にならった改良である。
今回は市街地と高速道路のみの試乗だったので、より後輪駆動に近づいたスポーティなハンドリングを堪能することはできなかった。シフトのスピードアップは、旧型でも遅いとは思わなかったので、「そうかな」という感じ。それよりも、相変わらずパドルシフトのレバーがぼくには遠すぎて、トホホな思いをする。「ここ400年、我が一族は働いたことがない」なんていうイギリスの貴族は、みな指が長いのだろう。
東京でもまだ余震がやまず、原発は予断を許さない。不安感がデフォルトみたいになった心に今回とくに“沁みた”のは、クルーの職人が丹精込めた内装だった。運転席サイドシルに“Handcrafted”(手づくり)と刻んだ銘板が貼られる室内に、まがいものやフェイクは存在しない。「ホンモノかな?」なんて下衆のカングリは不要だ。
取り外し可能のサングラスケースは磨きこまれたウッドとアルミで出来ている。見ても触ってもほれぼれする。エッ、でも7万5000円するの!? メガネ入れが! ダッシュボード壁面を飾る魚のウロコのようなプレートは、戦前からの伝統的な装飾だが、17万8200円する。革の縫い目は“コントラストステッチ”といって、25万1700円。ウーム……。
でも、こんな時代だからこそ、お金のある方々はぜひ買っていただきたい。グラマラスな美人女優のごときクルマは、そのオーラでもって人々に勇気と元気を与えると思う。
(文=下野康史/写真=郡大二郎)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。