BMWアルピナD3 Sリムジン アルラット(4WD/8AT)
選ばない手はない 2021.03.02 試乗記 アルピナが提案するディーゼルの高性能セダン「D3 Sリムジン アルラット」に試乗。そのステアリングを握った筆者は、どこか懐かしくも目を見張る、このブランドならではのパフォーマンスに酔いしれたのだった。根強いファンに支えられて
「BMWアルピナの年間生産台数が1500~1700台と聞くと、驚かれる方が多いですね」と、インポーターの人。存在感のわりに、絶対的な数は限られる。うち20%ほどが日本市場で販売されるというから、東洋の島国はジャーマンコンプリートカーメーカーにとって大事なお得意さまなのだ。
アルピナの、高性能を誇示しない“アンダーステートメント”、つまり控えめなたたずまいが日本の“武士道”に通じるのではないか、とスタッフの人がわが国での人気を分析する。品よくまとまった最近のアルピナモデルを見ると、「なるほど」と納得させられるが、胸の中ではちょっぴり複雑な感情が交錯する。
世の中が沸き立っていた1980年代後半。筆者はまだ学生だったので、いわゆるバブル経済の恩恵を被ることは少なかったけれど、東京の路上のバリエーションがどんどん豊かになっていった印象がある。後の世に言われるほど(!?)「六本木カローラ」というあだ名を耳にすることはなかったが、たしかにE30系の「BMW 3シリーズ」は大人気で、駐車されたクルマの前で記念撮影するナウなヤングを本当に見かけたものだ。
アルピナといえば、アーマーゲーと呼ばれていたAMGと並んでイケイケ(死語)グルマの筆頭で、独特のストライプと地面を擦るばかりに大きく垂れたエアダムに“ヤラれた”人たちが、その後のニッポンのアルピナ市場を支えてきたのではないか、と個人的にニラんでいる。時代とともに、ファンの皆さまもアルピナ車と歩を合わせて洗練されてきたのだろう。
実際、幾度となくアルピナ車に触れる機会を得て、アグレッシブな外観、大きなホイールに薄いタイヤを履いた姿とは裏腹に、大きなアウトプットを誇る動力系はよく調教されて従順で、加えて乗り心地が思いのほかいいことにいつも驚かされる。ビックリ。故・徳大寺有恒さんいわく「日本人は“いいモノ”が好きだから」、輸入が始まって約40年、やはりアルピナでなければ、という層が一定数いるのもうなずける。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
いまこそアルピナもディーゼル
いまは猫も杓子(しゃくし)も、大衆車メーカーもプレミアムブランドも競うようにSUVをリリースする時代で、アルピナも「XD3」「XD4」、そして「XB7」をカタログに載せるが、それでも依然として販売の中心はセダン、アルピナ流に言うならリムジンが担う。
アルピナB3 Sは、2020年5月にわが国で発売された“スーパー・スポーツ・ディーゼル”搭載モデル。3リッター直列6気筒ディーゼルターボは、最高出力355PS/4000-4200rpm、最大トルク730N・m/1750-2750rpmを発生、ZF製8段ATを介して4輪を駆動する。価格は、セダンが1078万円、ツーリングワゴンが1117万円となる。
スポーティーなストレート6ディーゼルを積んだユニークな存在で、国内では直接的なライバルが見当たらない。言うまでもなくガソリンエンジンを使う「B3」(1229万円)、「B3ツーリング」(1297万円)もラインナップするが、国内の販売台数は両者で半々というほどディーゼルモデルの売れ行きは好調だ。「アルピナは、(先々代にあたる)E90時代から積極的にディーゼルモデルを導入してきましたから」とスタッフは胸を張る。
ただでさえシルキーな6気筒にアルピナの魔法がかけられたスポーティーなフィールはもとより、オーナーの人は愛車をロングツーリングに使うことが多いというから、足の長いディーゼルが重宝がられるのだろう。いまや不況が常態となった感があるから、富裕ドライバーとはいえ、プレミアムガソリンとの燃料費の違いもバカにならないはずだ。燃料消費率の欧州参考値(WLTPモード)は、セダン、ワゴンとも、13.2km/リッターとされる。
仕立てからして並じゃない
試乗車のD3 Sは、ブルーメタリックにストライプが入ったわかりやすいペイント。いまやBMWやM自体が派手なエアロパーツをまとうようになったので、相対的におとなしく見えるアルピナのエアロパーツだが、「ALPINA」の文字が目に入るとやっぱりうれしい。
スタイルを特徴づけるクラシカルな20本スポークの鍛造ホイールは、オプションの20インチタイプ。通常の軽合金ホイールより、約14kgも軽いという。かつては20インチといえば、ショーモデルか冗談の範疇(はんちゅう)だったが、いまや現実に珍しいサイズでなくなっているのが恐ろしい。チューナー由来のメーカーにはツラい時代だ。
ドアを開けると、オオッ! ずいぶんと派手な赤い「フルレザーメリノインテリア」が迎えてくれる。優しくしなやかな、繊細さが魅力的。
BMWは新しい3シリーズに、従来のシボの大きなダコタレザーから表面がスムーズなヴァーネスカレザーを使うようになっているが、アルピナも同様に、試乗車のメリノレザーのほか、「ラグジュアリーパッケージ」と称してヴァーネスカレザーを用いたインテリアも提案する。20インチの足まわりやハーマンカードン製オーディオ等とのセットメニューで、ダッシュボードがレザーフィニッシュ仕様になるのが見逃せない。79万8000円。1000万円を超える3シリーズを求めるユーザーの、うまいところを突いた設定だと思う。ガソリンモデルとの価格差を、自分好みのオプション投入に活用できるところも、アルピナディーゼルの魅力かもしれない。
山道も高速も余裕
スターターを押して6気筒に火を入れると、アルピナ専用のデザインが与えられたデジタルメーターが立ち上がる。「表層的なギミック」と斜に構えることもできるけれど、年1500台余のハンドメイドメーカーである。ここは「差別化のためなら何でもしてください!」と応援したいところだ。
これまでのD3より5PSと30N・mのスペックアップを果たした2993ccディーゼルターボ(最高出力355PS、最大トルク730N・m)……というより、本国ドイツでデビューを果たした「M340d xDrive」の同340PS、同700N・mと比較するべきかもしれないが、アルピナ6気筒の強心臓は、大小2つのタービンを備えた「ビターボ・チャージングシステム」を得て、低回転域でのレスポンスと、高回転時のパワーを両立させる。
一昔前は、良くも悪くも「2ステージ」といわれたシーケンシャルターボだが、D3 Sのそれは、システム全体が融合して、スロットルの開け始めから力強い駆動力を供給し、途中で段付きすることなく滑らかに吹け上がる。もともと3リッターという余裕ある排気量の持ち主なうえ、M340d同様、48Vのスターター&ジェネレーターを用いたマイルドハイブリッドテクノロジーを採り入れたので、必要に応じて最大11PSの加勢を得られるのもプラスに働いていよう。
自分が車外にいるときこそ、そのサウンドでディーゼルと知れるが、クルマの中に入ってしまえば音は気にならない。ひとたびステアリングホイールを握って走り始めれば、圧倒的なトルクとスムーズな回転フィールから、「これはディーゼルを選ばない手はないなァ」と思わせるビターボエンジンである。
アルピナらしい、我慢を強いられない、意外なほどラグジュアリーな振る舞いをみせるスポーツサスペンションは健在で、鼻歌まじりに山道を行くのも楽しい。後輪重視のドライバビリティーを示す四輪駆動は、通常の走行時にも潜在的な危険を減少させてくれているはずで、特に長距離を走る運転者にとっては頼もしいかぎり。ちょっと懐かしい単語だが、“ビジネスパーソンズエクスプレス”として使ってもはまりそう。
今後、欧州の「電動化待ったなし!」の波がどのようにBMWアルピナにかぶさってくるかは未知数だが、いまのところ、ファンネルとクランクシャフトの旗は翩翻(へんぽん)とひるがえっている。
(文=青木禎之/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
BMWアルピナD3 Sリムジン アルラット
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4719×1827×1440mm
ホイールベース:2851mm
車重:1950kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:355PS(261kW)/4000-4200rpm
最大トルク:730N・m(74.4kgf・m)/1750-2750rpm
タイヤ:(前)255/30ZR20 92Y XL/(後)265/30ZR20 94Y XL(ピレリPゼロ ALP)
燃費:13.2km/リッター(WLTPモード)
価格:1078万円/テスト車=1290万8200円
オプション装備:ALPINAスペシャルペイント<アルピナ・ブルー>(43万円)/フルレザーメリノインテリア(59万6000円)/ALPINA 20インチホイール<鍛造>&タイヤセット(59万8000円)/アコースティックガラス(3万円)/サンプロテクションガラス(9万円)/ランバーサポート(3万5000円)/ガルバニックフィニッシュ(2万2000円)/アダプティブLEDヘッドライト(15万円)/パーキングアシストプラス(6万2000円)/ヘッドアップディスプレイ(13万5000円)/harman/kardonサラウンドサウンドシステム(9万円)/BMWドライブレコーダー(2万8200円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1835km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。