アルピナD3ビターボ(FR/8AT)
怒涛のトルクはクセになる 2014.09.10 試乗記 圧倒的な速さと、傑出した快適さ。そしてそれらの調和の妙こそが、アルピナのアルピナたるゆえんだ。71.4kgm(700Nm)の最大トルクを誇るスーパーディーゼル「D3ビターボ」の走りやいかに? 高速道路とワインディングロードでその実力を試した。ディーゼルの失われた10年
「今じゃアウトバーンの追い越し車線を走る車の大半がディーゼル車だよ」と言い始めてもう10年にもなるだろうか。最近になってようやくその言葉を信じてもらえるようになったと感じている。私の経験ではクルマに興味がない人よりも、クルマ好きを自認する人のほうがむしろ頭が固いというか、自らの経験からいったん取り込んだ認識を改めにくい傾向があったように思う。いやあ、そうは言ってもしょせんディーゼルでしょ? 長距離走る人が経済性第一で選んでるんでしょ? というのが大方の反応だった。いやいや、最新のディーゼルターボエンジンはまったく次元が違うんですよ、と力説しても、だって日本では売っていないんだからしょうがないでしょ、と一蹴されておしまい。わが身の至らなさを脇に置いて、確かに実物がないと説得力ないよなあ、と嘆いたものだった。
ところが今では事情が違う。風向きが大きく変わったのはもちろんマツダと積極的にディーゼル車のラインナップを拡充しているBMWのおかげであることは間違いない。しかも4気筒ターボであんなにパワフルなんだから6気筒はもっとすごいんだ、という説明がしやすくなった。やはり百聞は一見にしかず、である。マツダ以外の日本勢も最新の乗用車用クリーンディーゼルを躍起になって開発しているようだが、これまでの遅れを取り戻すのは容易ではないはずだ。昨年のフランクフルトショーで発表されたアルピナの最新ディーゼルセダン、「D3ビターボ」に乗ってつくづくそう感じた。このような圧倒的に高性能かつ上質なディーゼルセダンが、近い将来日本からも生まれるのだろうか。
ディーゼル王国のモンスター
アルピナといえば、BMW各車をベースに実用性を犠牲にしない、こだわりの高性能モデルを生み出してきたBMWのスペシャリストであり、来年には企業としての創立50周年を迎える。BMW本体と密接な協力関係にありながら、今ではメルセデス・ベンツ本体のラインナップに一体化されたAMGとは違って、いまだに完全に独立した“メーカー”(資本関係はない)であることが特徴だ。ディーゼルの本場のメーカーとして早くから高性能ディーゼルに積極的で15年前に初めて「5シリーズ」ベースの「D10ビターボ」を発表、「3シリーズ」ベースのD3ビターボは先代E90ベースに続いて2代目となる。
海外では「330d」(258ps/560Nm)と「335d」(313ps/630Nm)という強力な6気筒ターボディーゼルがラインナップされているが、日本向けの3シリーズには今のところ直4 2リッターターボディーゼルしか用意されていない。無論「320d」の184psと380Nm(38.7kgm)でも十分以上に力強いことは周知の通りだが、D3ビターボはその2倍近い強烈なトルクを生み出すのである。
現行の日本仕様BMWの中でN57D30型直列6気筒3リッターターボディーゼルを積んでいるのは「X5」の「35d」だけだが、そのエンジンですら258psと560Nm(57.1kgm)という、まったく不足のないスペックを持つ。それに対して、その名の通りツインターボ化されたアルピナD3ビターボのピークパワーとトルクは350ps(257kW)/4000rpmと700Nm(71.4kgm)/1500-3000rpmとけた違い。BMW自身のN57D30型のほうは“ツインパワーターボ”と称しているので紛らわしいが、こちらはシングルターボであり、いっぽうのアルピナは大小2基のシーケンシャルツインターボ(可変ジオメトリー付き)を備え、それに対応して吸排気系や冷却系を専用開発した独自ユニットだ。それが車重2.2トンもあるX5の巨体ではなく、1660kg(車検証値は1680kg)のセダンボディーに積まれているのだから、そのパフォーマンスは容易に想像できると思う。
ちなみに700Nmという最大トルクは、「M3」どころかガソリンV8ツインターボの「M5」(680Nm)をしのぎ、V12ツインターボの「760i」(750Nm)に迫るほどのレベルだ。しかもたった1500rpmで最大値に達するのだから、どう考えても速くないわけがない。踏むというより、右足をスロットルペダルに載せたぐらいでズワーッと吸い込まれるように加速していく。
無敵の追い越し加速
ごく低回転から湧き出す怒涛(どとう)のトルクを見事に使いこなすのが「スイッチトロニック」付き8ATだ(ホイールのスポーク裏のボタンでマニュアルシフトも可能)。レブリミットは5200rpmとガソリンエンジンに比べれば当然低いものの、それを補って余りあるうえに、きわめて滑らかにトトトンとシフトアップしていき、気が付けばとんでもないスピードに達しているといったタイプ。ちなみに100km/h走行時の回転数はトップギアで1500rpm(7速1800rpm、6速2200rpm)とちょうどおいしいところ、そこからの加速はたとえシフトダウンを誘うほど踏まなくても打てば響くよう、高速道路での追い越しはまさに自由自在である。
しかもかつてのディーゼルエンジンのようにトップエンドで回転フィーリングが重く渋くなることはなく、ストレスなく滑らかに吹け上がって、フッと気が付くともうリミット(ATモードでは5000rpmシフトアップ)というぐらいスムーズに回る。もちろんディーゼルノイズやバイブレーションも走っている限りまったく感じ取れない。いや、アイドリング時や再始動の際も(スタート&ストップシステム付き)あらかじめ素性を知らなれば気が付かないレベルである。
アルピナの公表データによれば0-100km/h加速は4.6秒、これは最新の「ポルシェ911カレラ」並みの駿足(しゅんそく)だ。最高速は278km/hだが、例によってこれは最高速ではなく最高巡航速度である。付け加えればJC08モード燃費は17.0km/リッター、2015年9月に迫ったユーロ6規制にも適合しているのは言うまでもない。
理想のグランドツアラー
ひとつだけ意外だったのは足まわりがガッシリと締め上げられているというよりはラグジュアリーな感じで、それなりに上下動を許すことだ。ただし速度が上がってもその動きが大きくなって煽(あお)られるようなことはなく、スタビリティーも高い。またガソリンユニットよりは重いはずのディーゼルエンジンを積んでいるとは思えないほど、ハンドリングはリニアで十分にシャープである。アルピナというブランドから皆が想像するより、最新モデルは快適方向に振られているのかもしれない。それに比べるとダッシュボードは伝統的なアルピナらしいウッドトリムで、通気性の良さそうなシート地のファブリックも派手さはないが、さりげなく落ち着いた雰囲気だ。もちろん希望に応じてどのようなトリムも可能である。
大河の奔流のような強大なトルクを、きわめて上品なマナーで使いこなすD3ビターボの車両本体価格は977万円とアルピナとしては身近な値段である。しかも低燃費と来れば立派に言い訳もできる。大人なら目をそらすことができない理想的グランドツアラーである。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹)
テスト車のデータ
アルピナD3ビターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4645×1810×1445mm
ホイールベース:2810mm
車重:1660kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:350ps(257kW)/4000rpm
最大トルク:71.4kgm(700Nm)/1500-3000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR19 93Y/(後)265/35ZR19 98Y(ミシュラン・パイロットスポーツ PS2)
燃費:17.0km/リッター(JC08モード)
価格:977万円/テスト車=1076万7000円
オプション装備:右ハンドル仕様(25万8000円)/ボディーカラー(アルピナ・ブルー)(39万9000円)/リアビューカメラ(8万5000円)/ガラスサンルーフ(17万5000円)/パークディスタンス・コントロール(フロント)(4万4000円)/ルーフライニング・アンソラジット(3万6000円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:5746km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:340.6km
使用燃料:32.3リッター
参考燃費:10.5km/リッター(満タン法)/11.2km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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