キャデラックXT4プラチナム(4WD/9AT)
アメリカを侮るなかれ 2021.04.03 試乗記 キャデラックのSUV製品群のエントリーモデルに位置する「XT4」が、いよいよ日本に導入された。その実力は、市場の先達(せんだつ)でもある日欧のライバルに比肩するものなのか? キャデラックならではの個性は残されているのか? ゼネラルモーターズの期待を背負うニューモデルを試す。キャデラックの全SUVを正規導入
キャデラックのSUVラインナップのボトムを担うモデル、XT4が上陸した。アメ車不毛の日本市場においても、これにてキャデラックのSUVは全銘柄が正規輸入でカバーされたことになる。
果たして4つのモデルの位置づけをどう見極めればいいものかと鳥瞰(ちょうかん)すれば、最もわかりやすい比較例は、同じく米国市場に重きを置くレクサスのそれになるだろうか。
すなわちXT4は「NX」にあたり、「XT5」は「RX」に該当。じゃあ「XT6」は「RX」のロング相当かといえば、中身的には同じ3列シートのエンジン横置き系4WDながら、寸法的には「LX」の側に近いだろう。「エスカレード」は縦置きエンジン+ボディーオンフレーム構造の“骨付き4WD”という点でLXと重なるが、この夏から日本でも納車が始まる新型は、「ロールス・ロイス・カリナン」をも超えるサイズやサスペンションの4輪独立懸架化などで別物感が著しい。もっとも、今年(2021年)はLXの兄弟車である「トヨタ・ランドクルーザー」もフルモデルチェンジが目されており、それに伴いLXも完全刷新のウワサがささやかれているのだが。
さて、先述のNXに加え、車格的には「メルセデス・ベンツGLC」「BMW X3」「アウディQ5」あたりのドイツ勢ともほど近いXT4。その車台はゼネラルモーターズ(GM)のプラットフォーム戦略において、「イプシロン」系の最新世代「E2XX」と分類されるもので、「シボレー・マリブ」や「オペル・インシグニア」などDセグメント系から向こうをカバーするものだ。ちなみにXT5とXT6は、このE2XXをミドルサイズSUVという車格・車形に合わせて拡張、最適化した「C1XX」を使用している。大枠でみれば、このエンジン横置きプラットフォームは、GMの乗用車ラインナップにおいて最大勢力といえるだろう。
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今風のエンジンに今風のドライブトレイン
搭載されるエンジンは2リッター直列4気筒直噴ツインスクロールターボ。「ATS」や「CTS」が搭載していたボア×ストローク比=1のスクエア型ではなく、最新世代のロングストローク型に改められている。最高出力は230PS、最大トルクは350N・mを発生。最大トルクの発生回転域は1500rpmといかにも今日的なスペックだ。低負荷時の気筒休止システムも組み込まれたこのユニットに組み合わせられるトランスミッションは、自製の9段ATとなる。
ドライブトレインは4WDのみで、通常時は100:0のFF状態、ドライブモードや駆動状況に応じて最大で50%の駆動力を後輪に配分するオンデマンド式だ。加えて、後ろ左右輪の差動もクラッチによって制御するトルクベクタリング機構が組み込まれている。9段ATのレシオカバレッジと合わせて、極低速の悪路環境からオンロードでの高速コーナリングまで、幅広いシーンで最適な駆動力を引き出そうというわけだ。
日本仕様のグレード展開は、「プレミアム」「プラチナム」「スポーツ」の3つ。いずれもパワー&ドライブトレインは同じで、タイヤ&ホイールは後者2グレードが20インチを装着、さらにスポーツにはアダプティブダンパーが加わる。本革シートは全グレード標準となるが、後者2グレードにはクーリングベンチレーターやマッサージ機能が加わり、プラチナムでは大型サンルーフも標準装備となる。ADASについても後者2グレードにはアダプティブクルーズコントロール(とヘッドアップディスプレイ)が配されるなどの差異があり、販売現場でも実質的に推されるのはスポーツかプラチナムということになるだろう。
ドライブフィールに表れる確かな個性
試乗に供されたグレードはプラチナム。その価格は670万円だが、ライバルがオプション扱いとしている装備もあらかた標準化されていることを鑑みれば、価格競争力はなかなか高いと思う。内装の設(しつら)えは樹脂部品のはめ合わせなどをみればアウディやレクサスにはかなわないわなという気もするが、細かな加飾部品の仕上げなどはほぼ気にならないレベルに達している。ゼンリンと共同開発したクラウドストリーミングナビを操作するロータリーコマンダーやら、しかるべきところにあるハザードボタンやらと、装備や操作を確認するにつけ、「アメ車はつくりが大ざっぱで装備も独善的」という昔の印象はみじんもない。それでいて、ライバルよりも気持ち大ぶりで柔らかなフィット感のシートが、出自をやんわりと伝えてくる。
おごられるラミネートガラスの優れた遮音効果のみならず、標準装備となるBOSEのサラウンドシステムと連携するアクティブノイズキャンセレーションの効果も相まってだろう、XT4のキャビンの静粛性はライバルに対してまったく遜色はない。エンジンを活発に回せば4気筒なりの音・振動も若干目立つが、普通に走る限りはメカノイズやロードノイズが気になることはないだろう。エンジンのフィーリングはいかにも今日的な直噴ターボのそれで、低中回転域にみっちりトルクが詰め込まれる一方で、高回転域におけるパワーの伸びや吹け上がりの気持ちよさは今ひとつといった感じだ。回してナンボ的な楽しみは期待せず、おいしいゾーンを素早く滑らかにつかまえる9段ATに任せてのドライブが似合っていると思う。
20インチの大径タイヤ、しかもケース剛性がカチッと前面に出てくるコンチネンタルの「プレミアムコンタクト6」を履くこともあり、低中速域でのフィードバックはさすがにややドライな印象もある。が、このカテゴリーでは総じてオンロードパフォーマンスを前面に押し出したモデルが多いことを思えば、XT4のキャラクターはどちらかといえば温厚な性格と言っていいだろう。高速巡航でもコーナーでも上屋の動きは程よく抑えられており、視点のブレも少ない。タイトターンでもロールを無理繰り封じてガチガチに路面を捉える風でもなく、ヨンク感を執拗(しつよう)にひけらかすでもなく、スラスラッと自然に一筆書きで曲がっていける。
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“実戦向き”なACCの調律に驚かされる
その走りを、これまた往年のアメ車のイメージを引きずりながら批評すれば、仰天するほどスポーティーだとは思う。が、そこまで汗臭いものではなく、一歩退いた優しさがある。ふと思い浮かんだのはボルボの「XC60」だ。あれとちょっと似たところがあるかもしれない。イキらずリラックスして乗り続けられる。淡々と距離を刻み続けても疲れない。そういうところはよく似ている。
試乗の際にはアクアラインの通行止めの影響で、首都高上で30kmの渋滞にハマり泣きそうになったものの、思わぬところで救いの手を差し伸べてくれたのがACCだった。車間制御のみならず、前車追従のレスポンスがすこぶるタイトで、車間を空け過ぎては割り込まれ、後続車のイライラを誘うようなことは一切ない。今までに体験したあまたのACCの中でも、ずぬけて“実戦向き”のチューニングに驚かされた。
実はGMは、アメリカ国内では2年以上前からダイナミックマップ連動のハンズオフドライブを実現している。GAFAのお膝元にいればクルマの側も先進性は必要以上に意識することになるのだろう。例によって左ハンドルしか用意がないなど、日本では試乗に至る前に商機を失ってしまうような残念さも相変わらずではあるものの、キャデラック、侮りがたしと、心からそう思う。
(文=渡辺敏史/写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
キャデラックXT4プラチナム
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4605×1875×1625mm
ホイールベース:2775mm
車重:1780kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:230PS(169kW)/5000rpm
最大トルク:350N・m(35.6kgf・m)/1500-4000rpm
タイヤ:(前)245/45R20 99V/(後)245/45R20 99V(コンチネンタル・プレミアムコンタクト6)
燃費:シティー=22mpg(約9.4km/リッター)、ハイウェイ=29mpg(約12.3km/リッター)(米国EPA値)
価格:670万円/テスト車=689万2500円
オプション装備:ボディーカラー<ステラブラックメタリック>(13万2000円) ※以下、販売店オプション フロアカーペットマット(6万0500円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1375km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:126.4km
使用燃料:16.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.6km/リッター(満タン法)/13.1リッター/100km(約7.6km/リッター、車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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