カワサキ・メグロK3(5MT)
のんびりと 気持ちよく 2021.04.09 試乗記 往年のスポーツバイクブランド「メグロ」の名を冠するニューモデルがカワサキから登場。単なる懐古趣味の一台と侮るなかれ、その質感の高さと味わい深いライドフィールは、百戦錬磨のベテランをも満足させてくれるものだった。あっぱれなネオクラシック
目黒製作所は戦前に誕生した日本の二輪メーカーで、大排気量を中心に高品位なマシン、メグロをつくっていた。1960年代、川崎航空機工業に吸収され、メグロの技術が、その後のカワサキのバイクづくりに生かされることになる。今回紹介する「メグロK3」はその伝統と歴史を引き継いだマシンなのである。
僕、テスターの後藤は“旧車好き”である。だから古いマシンをイメージしたマシンを見ると、どうしても辛口な評価をしがちなのだが、初めて見たメグロK3はとても好印象。上品で質感も高いし、クラシックバイクらしい雰囲気がうまく表現されている。
またがってみればワイドなハンドルバーでゆったりとしたポジション。走りだしてみると街なかを流すのがとても気持ちいい。3000rpmくらいまでで十分交通の流れに乗ることができるし、このくらいの回転数だと歯切れのよい排気音も聞こえてくる。
下のほうで滑らかに、そして力強く回る秘密は、フライホイールマスが大きいこと。試しにトップギアホールドのまま速度を落としてみると1000rpmを切ったあたりからでもスムーズに加速していくことができる。低回転でもギクシャクした感じは皆無だ。
3000rpmを超えると振動が出てきて、3500rpmでハンドル、4000rpmでシートに大きめの振動が伝わる。4500rpmを超えると振幅が少なくなるので、4000rpm付近に共振点があるのだろう。だから自然に3000rpmくらいまでを使って、ノンビリと走ることになるのだが、このエンジンが面白いのは低速域だけではない。回していくと5000rpmあたりから、がぜん元気になる。これもまたこの800ccバーチカルツインの大きな魅力だ。
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安心して軽快に楽しめる
「日本のストリートを法定速度で走るのならフロント19インチ、リア18インチタイヤの組み合わせがベスト」
これは僕が以前から思っていることだ。メグロK3は、このタイヤサイズに加え、よく動くサスとワイドなハンドルのおかげで、ストリートでもマシンをコントロールしやすい。
軽くステアリングに力を加えてやれば、マシンが自然にバンクして旋回していく。17インチホイールのマシンがクイックに曲がっていく感じとはまったく異質。大径ホイールのジャイロ効果による安定感とタイヤの細さによる軽快なバンキングが生み出すハンドリングは、実に気持ちがいい。
安定したコーナリングにはタイヤが「ダンロップK300GP」になっていることも影響しているはずだ。バイアスのハイブリップタイプで、コーナリング時の安定性が高いことで定評がある、走りを追求しているライダーたちからも高い評価を受けているタイヤだ。
ネックは一般的なツーリングタイヤに比べて減りが早いことだけれど、ラジアルに比べれば価格もずいぶん安いから、早めに交換して常にフレッシュなタイヤを装着すればいいだけのこと。走行距離の少ないライダーの場合、タイヤの溝は残っているのにゴムが劣化して、タイヤの性能が大幅に低下しているというケースをよく見かける。そんな状態で走るよりは、短いサイクルでタイヤを使うようにするほうがパイクの走りも楽しめるし安全だ。
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日常使いにピッタリ
僕は普段、カワサキの「Z1」と「マッハ」を足にしているし、昔は「W1」にも乗っていた。そういう人間から見たメグロK3は、旧車のエッセンスを上手に取り入れたマシンだと思う。
もちろん、当時の名車のような強烈な個性や感動はない。フィーリングや排気音はずいぶん薄められているのだけれど、日常的に使うのにちょうどいいレベル。振動や音が激しすぎると疲れてしまう。旧車は旧車で素晴らしいのだが、気軽にストリートを走るのであれば、メグロK3くらいが良いのだろう。
景色を眺めながらノンビリと走れば、体に伝わってくるツインの鼓動と排気音が彩りを添える。そんな走り方が似合うバイクだ。
(文=後藤 武/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
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【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2190×925×1130mm
ホイールベース:1465mm
シート高:790mm
重量:227kg
エンジン:773cc 空冷4ストローク直列2気筒 SOHC 4バルブ
最高出力:52PS(38kW)/6200rpm
最大トルク:62N・m(6.3kgf・m)/4800rpm
トランスミッション:5段MT
燃費:30.0km/リッター(国土交通省届出値)/21.1km/リッター(WMTCモード)
価格:127万6000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。