モーガン・プラスフォー(FR/6MT)
クラシカルなだけじゃない 2021.04.26 試乗記 “木とアルミのスポーツカー”ことモーガンから、ニューモデル「プラスフォー」が登場。新世代シャシーにモダンな2リッターターボを搭載したこのクルマは、モーガン伝統のドライブフィールと硬派なスポーツカーの魅力を併せ持つ、希有(けう)な一台に仕上がっていた。新世代モーガンで唯一のMT仕様
2019年に、80年以上ぶりのフルモデルチェンジを経て登場した新世代のモーガンといえば、先行発売となった3リッター6気筒ターボの「プラスシックス」に、日本上陸直後の2020年6月に試乗させていただいた。そしてその約1年遅れで上陸したのが、このプラスフォーである。その名のとおり、より手頃な2リッター4気筒ターボを搭載する新型モーガンだ。
6気筒と組み合わせられるのは今のところ8段ATだけだが、この4気筒には8段ATのほかに6段MTもある。というわけで、今回の試乗車は、筋金入りの好事家の皆さんがより興味を持つであろう後者だった。
2種類ある新型モーガンのエンジンはともにBMW製で、変速機も含めたパワートレインそのものは、同社の「Z4」(と兄弟車の「トヨタ・スープラ」)の血統と考えると理解しやすい。Z4/スープラの4気筒には2種類のチューンがあるが、モーガンに選ばれたのは高出力型。その258PS/400N・m+8段ATというスペックは、Z4でいう「sDrive30i」(日本未導入)、もしくはスープラだと「SZ-R」と基本的に同チューンと考えていい。
もっとも、Z4/スープラでMTの用意があるのはZ4の4気筒車のみ。しかも低出力型の「sDrive20i」限定(20iのMTも日本未導入)で、高出力型エンジンとMTのコンビは現時点ではモーガンだけである。ただし、変速機の許容トルクの関係か、このMT車のエンジンは、AT車より最大トルクを絞った専用チューンになっている。
パワートレイン以外のハードウエアは、基本的にプラスシックスと同じと考えていいが、プラスシックスが前後異幅の19インチタイヤ(本国の標準仕様は18インチ)を履くのに対して、プラスフォーのそれは前後同サイズの15インチとなる。そして、試乗車が履いていたクラシカルなセンターロックのワイヤースポークホイールも、プラスフォー専用品という。
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外身は継承 中身は刷新
おさらいになるが、新型モーガンは一部に伝統のウッド(トネリコ材)フレームを残しつつも、車体はほぼ全身がアルミ製にして、四輪ダブルウイッシュボーンの独立サスペンションを持つ。つまり骨格設計は先代とは無関係の最新鋭なのだが、見た目やパッケージレイアウトは、80年以上の歴史を誇ったかつての四輪モーガンとウリふたつである。
実際、ドライバーズシートに座っても、たとえば先代より明らかに広くなった足もと空間に新しさを実感しつつも、長い長いボンネットの先にフェンダーとヘッドライトがポコンと突き出た前方のながめ、胸もとにせまるステアリングに背筋を伸ばして対面するコマンドライクなドライビングポジションは、モーガンの伝統そのものだ。新型のステアリングコラムにはなんとチルトとテレスコピック調整まで備わる(!)が、もともとがステアリングを抱え込むような古典的なドラポジのために、さらに手前にしか引けないテレスコ機構を必要とする人は少ないかもしれない……。
前回試乗したプラスシックスがたまたまハードトップ付きだったのに対して、今回は標準のソフトトップ姿だった。先代より明らかにつくりがよくなったソフトトップを下げて、サイドスクリーン(これはオプションあつかい)も取り外すと、ドアの切り欠きには案の定、ドアの切り欠きには案の定、ヒジを置くのに絶妙にちょうどいい。その“ヒジピタ”なドア形状に、これよこれよ、これがモーガンなのよ……と、今度はヒザを打つ。
それにしても、こんな古風な見た目でありながら、ドアはリモコンキーによる集中ロックが可能で、眼前にはコラムレバー先端のボタンで切り替わるマルチファンクションディスプレイが備わる。さらには、ご親切にもレバーを軽くクリックするだけでウインカーが3回点滅するとは……。新型モーガンが電装系を含めて全身最新鋭であることも、あらためて痛感する。
軽い車体とトルクあふれるターボエンジンの恩恵
新型モーガンのクラッチペダルは現代のクルマとしては正直に重い。それもそのはずだ。コンパクトカーならともかく、350N・mという大トルクにMTを組み合わせるスポーツカーなど、今どきは非常に少なくなっている。
ただ、新型モーガンではクラッチやブレーキのペダルも一般的なつり下げ式となっており、その操作性やミート感覚にもクセはまったくない。意地悪く観察すると、それらを踏んだときの剛性感が物足りなくもないが、このあたりはトネリコ材も用いられるフロント隔壁構造がさほど高剛性ではないせいかもしれない。3ペダルがならんだフットウエルに左足の置き場がないのも事実だが、ヒール&トーだけはドンピシャに決まる。
新型モーガンの6段MTは、1速でも7000rpmまで回すと70km/h以上に車速が伸びるという、全体に高いレシオでギアがクロスしている。いっぽうで、このBMWの4気筒は低回転からトルクが湧き出る最新の直噴ターボであるうえに、1.1tを切るプラスフォーの車重は、エンジン性能に対して異例に軽い。なので、高めのギアレシオでも、2000rpm付近でポンポンとシフトアップしていくだけで、すこぶる小気味よく走る。そういう乗りかたをするかぎりは燃費もいい。
そのいっぽうで、このエンジンは掛け値なしにスポーツカー的でもある。4000rpm付近に達すると、別の何かが目覚めたかのようにレスポンスが高まり、トルクとサウンドを積み増して、乗り手の背中を蹴っ飛ばすように一気に吹け上がる。ただし、エンジンそのものはリミットの7000rpmまで軽々と回りきるのだが、モーガンみたいに開けっ広げ(?)なクルマでは、5000rpmあたりからのメカノイズや振動の圧力がすさまじい。私のようなヘタレは、回すだけでもそれなり気合と覚悟が必要となるのが要改善ポイント……なのか?
従来型から受け継がれた伝統と世界観
モーガンは新型といえども、車体の剛性感は、現代の目で見ると明らかに低い。たとえばZ4やスープラ、あるいはポルシェなどと比較すると“グニャグニャでギシギシ”と形容せざるをえない。しかし、それがモーガンなのだ。
なにがいいたいかというと、新型モーガンは2年前に完全新開発で世に出た最新鋭スポーツカーではあるが、「見た目は古式ゆかしいのに乗り味はゴリゴリの高剛性でキレッキレ」みたいなコスプレカーではないということだ。その見た目から乗り味にいたるまで、伝統的な世界観が見事に統一されている。
誤解してほしくないのは、新型モーガンが不安定で不安全なクルマというわけではない。最新のラジアルタイヤと四輪独立サスペンションによって、接地感とグリップ力はしっかりと確保されている。空力的には不利な部分も多いので、高速で120km/h出しても矢のように直進……とまではいかないが、一般的に見れば直進性はけっして悪くなく、整備された路面では耐ワンダリング性も不足なしだ。
ただ、そのスタイリングからも想像されるように、とくに前後の結合剛性はちょっと弱い。よって前後左右バラバラに細かく突き上げるような路面では、跳ねがち、かつ進路が乱されやすいが、そういうところはゆっくり通過するのが昔ながらの運転マナーである。逆に大きくうねるような路面やコーナーでは、滑らかなサスペンションとしなやかにねじれる車体がかなえるしっとりした接地感が、クラシカルでそれなりに心地よい。
ステアリングの反応ははっきりと鈍いが、不正確でもない。電動パワステの制御にも改善の余地があるのか、フロントタイヤの接地感は少しばかり希薄だが、シートに座ったお尻と距離的に近いリアタイヤのグリップ感はすこぶる濃厚なので、実際には十分に安心感があって、怖さはない。
コーナリングが面白い
……といった独自の世界観が見事に貫かれている新型モーガンでは、鼻先が圧倒的に軽く、タイヤ性能もほどよく控えめな今回のプラスフォーのほうが、よりパワフルでタイヤグリップの高いプラスシックスより、すべてにおいてバランスのとれた統一感があるのは間違いない。よくも悪くもあいまいなステアリングながら、それに調和するゆったりとしたレスポンスには、タイヤ性能に加えて、しなやかなワイヤースポークホイールも寄与しているのだろう。この見事に統一されたプラスフォーと比較すると、低偏平タイヤとモダンなアルミホイールを履くプラスシックスには、ごくわずかだがタイヤが先走る感覚があるかもしれない。
ブレーキのタッチにもちょっとクセがあって、最初にきっちり力をこめて蹴らないと利きづらいが、車重が絶対的に軽いので制動力そのものは十二分である。ただ、今どきのスポーツカーのようにブレーキを残しながらターンインするような乗りかたでは、あまり心地よくない。その手前の直進部分で速度をきっちりと落としきってからステアリングを切り、ヨーが出たらすかさずアクセルペダルを踏み込んでいく古典的なドライビングスタイルのほうが心地よく、運転しやすくコントローラブルだ。こういう古典的な味わいを最新設計で醸し出すことこそ、モーガンの意図したところだろう。
とくに鼻先の軽いプラスフォーは、いったん曲がりはじめれば、積極的にアクセルを踏んでもアンダーステアが強まることなく、きれいに曲がり込んでいく。リアもダブルウイッシュボーンの独立懸架なので、トラクションにも不足はない。それと同時に横方向に粘りすぎるでもなく、慣れてくると、わずかなアクセル操作でクルマの挙動と軌跡を自由自在に、面白いように操れるようになる。こうなると、リアタイヤの接地感がお尻にダイレクトに伝わるパッケージレイアウトが、いよいよ真価を発揮する。
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4気筒版に宿る“ならでは”の魅力
新型モーガンには、このMT車にもパワートレインの「S+」モードが用意される。このクルマの場合、モードで変化するのはエンジン特性だけだが、その効果はテキメンである。
S+モードにした4気筒ターボは最新のスポーツカーエンジンらしく、減速時にはアンチラグ音も奏でるが、BMWやトヨタのようなスピーカー音による過剰演出はない。それでも運転感覚の変化は大きく、とくに5000-6000rpmでは加速側のキック力だけでなく減速側のレスポンスが明らかに高まり、新型モーガンのハンドリングにはハッキリとカツが入る。
そうした走りをすると車体はさらにギシギシとよじれるのだが、そういう古式ゆかしきところも含めた味わいが、モーガン伝統のだいご味であり、それは新型にも受け継がれている。いずれにしても、トラクションはきっちり確保されているし、パワーウェイトレシオ/トルクウェイトレシオはすこぶる優秀だから、腕利きのドライバーが本気で走らせれば、新型プラスフォーは掛け値なしに速いクルマでもある。
いずれにしても1000万円を軽くこえる高額ホビーカーゆえに、せっかくなら6気筒……という気持ちも分かるし、ほかにも本格スーパーカーをコレクションする富裕層がモーガンならではの雰囲気を気軽に味わうには、高級プロムナードカー的な魅力もあるプラスシックスのほうが好適かもしれない。しかし、モーガンをあくまでスパルタンなスポーツカーと考える好事家なら、「らしい」のは間違いなく今回のプラスフォーのほうだろう。
それはそうと、今回取材した4月上旬の某日は花冷えともいえる気候で、いかにソフトトップを閉じてサイドスクリーンを装着しても、高速ではスキマ風の冷たさが身に染みた。先代のように足もとから寒風が吹きこむような設計ではないが、サイドスクリーンの構造上、換気性能はよすぎるくらいだから、ヒーターを最強にしても肩口が冷えるのは防ぎようがなかった。これはモーガンが今のカタチである以上は仕方のない宿命で、数あるオプションのなかでも、シートヒーターだけは必須である。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
モーガン・プラスフォー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3830×1650×1250mm
ホイールベース:2520mm
車重:1013kg(乾燥重量)
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:258PS(190kW)/5500rpm
最大トルク:350N・m(35.7kgf・m)/1000-5000rpm
タイヤ:(前)205/60R15 91V/(後)205/60R15 91V(エイヴォンZV7)
燃費:38.8mpg(約13.7km/リッター)
価格:1155万円/テスト車=1315万6000円
オプション装備:15インチ ポリッシュドワイヤーホイール<5本>(53万9000円)/ブラスセンターホイールナット<真ちゅう色>(4万4000円)/ボックスウィーヴオートミール(8万8000円)/スクエアボックスステッチシートセンター(13万2000円)/ヒーティッドシート(9万9000円)/刺しゅう入りヘッドレスト - Plus Fourロゴ(5万5000円)/ダッシュボードベニアチョイス - グロスフィニッシュ<Walnut>(11万円)/センターコラムトップベニアチョイス - グロスフィニッシュ(11万円)/エアコンディショニング(22万円)/スピーカーシステム<Bluetoothインプット、ボリュームコントロール、アンプ、4スピーカー>(6万6000円)/ポリッシュドグリルメッシュ<フロントグリル内>(3万3000円)/ユニオンジャックエナメルボンネットバッジ – カラー(2万2000円)/サイドスクリーンバック – フードカラー同色(7万7000円)/ラゲージラックプリイクイップメントパック(1万1000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:3633km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:377.2km
使用燃料:25.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.7km/リッター(満タン法)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。