佐川の反撃? 中国車の進出? 「佐川急便が中国製EVを導入!」の報道に見る違和感
2021.05.03 デイリーコラムプロジェクトの主役は佐川急便ではない?
2021年4月13日、佐川急便の本村正秀社長は電気自動車(EV)事業のベンチャーであるASFの飯塚裕恭社長とともに記者発表の場に立ち、近距離の集配に使用している約7200台の軽自動車をすべてEVに切り替える計画を語った。すでにヤマトホールディングスや日本郵便ではEVの導入が始まっていることから、インターネット上では「ついに佐川急便も!」といった意見と、車両生産が中国企業であることを否定的に捉えた意見が目立っていたように思う。
それらを眺めながら、魚の小骨が喉にひっかかったような、なんとも言えない微妙な違和感を覚えていた。日本は「2050年の温暖化ガス排出実質ゼロ」の実現を表明しており、そのためには企業各社は強力に脱炭素を推進しなければならない。計画通り7200台がEVに置き換われば、グループ全体の二酸化炭素排出量を1割削減できるというから、佐川急便にとってEV化は有効な戦略のはずだ。
しかし、4月13日の記者発表について、佐川急便のホームページには情報が掲載されていない(4月26日現在)。また、記者向けに配布された資料は佐川急便とASFのロゴが併記されているものの、情報の中身はASF視点で構成されており、佐川急便側が主導的に製作したようには見えなかった。
ちなみに、佐川急便のホームページには本件に関連する情報として『小型電気自動車の共同開発を開始する基本合意の締結について』と題したプレスリリースが2020年6月16日付で出ているのだが、内容は「佐川急便株式会社とASF株式会社(以下「ASF」)は2020年6月1日、小型電気自動車の共同開発および実証実験を開始する基本合意」に至ったと報告するもので、合意締結から2週間以上も過ぎてからの発信だった。
メディアの報道では佐川急便が主役のように思えるが、ものすごく前のめりになっているとは見受けられない。むしろASF側の強い意志のようなものが透けて見える。
本命は自動車のファブレス生産の立ち上げか?
ASFは日本国内でのEV普及促進を図るため、ファブレスメーカーとして設立された企業だ。ファブレスとは「工場を持たない」という意味。自社では企画やマーケティングなどを行うが、生産は委託先の工場にすべて任せることになる。この形態は半導体業界などで多く見られるほか、アップルや無印良品、伊藤園といった身近な企業にも事例が多い。
ファブレス生産は自社で工場を持たないぶん、投資を抑えることができるほか、市場の変化に対してダイナミックに適応できるというメリットがある。一方、委託先工場にさまざまな情報を提供するため、情報漏えいのリスクがあったり、品質管理が難しかったりといったデメリットもある。
従来の自動車業界の感覚で言えば、ファブレス生産はあり得ない選択肢だろう。しかしEVがいよいよ新たなステージに向かっているなかで、オーナーカーではなく商用車をターゲットとするならば、ファブレスメーカーにも商機があるかもしれない。
今回のプロジェクトで、佐川急便は利用者の立場から車両開発に協力している。運転室の広さや効率的な作業を支えるインテリアは当然のこととして、バッテリー使用量などを把握するための車両管理データ、配車効率に貢献するGPS情報管理データ、発進・停止情報などを記録する運行管理データなど、情報技術の面でも利用者目線が生かされている。
一方、ASFはファブレスメーカーとして佐川急便のニーズに合致する車両の開発、企画、デザイン、システム設計、そして製品保証を担う。実際に車両を量産するのは中国の五菱汽車だが、今回はファブレス生産の委託先が五菱汽車というだけで、五菱汽車製のEVではないことは書き添えておきたい。
そのASFのホームページによれば、主要株主には役員のほか、総合商社の双日株式会社と株式会社FOMMが名を連ねる。FOMMは株式会社SIM-DRIVEの東南アジア展開などに携わった鶴巻日出夫氏が興したベンチャー企業だ。SIM-DRIVEは当初、複数の企業が集まってEVの肝になる車台を開発し、車体部分は各社がオリジナルで開発するという思想で開発を進めていた。この発想はファブレスとも相性がいい。
「佐川急便がEV 7200台を導入」の報道は、「ヤマトや日本郵便に出遅れた佐川急便のリベンジ」でも、「脱炭素に向けた画期的な取り組み」でもなく(もちろんそれらの意味もあるだろうが)、「ファブレスメーカーという自動車産業の新たな1ページになるかもしれないプロジェクト」として見るほうが正しいのではないだろうか。
(文=林 愛子/写真=佐川急便/編集=堀田剛資)

林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。
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