DS 7クロスバックE-TENSE 4×4グランシック(4WD/8AT)
乗れば納得 2021.06.07 試乗記 マクロン大統領も公用車として愛用する「DS 7クロスバック」に、新たにプラグインハイブリッドモデル(PHEV)が登場。このフランス発のラグジュアリーSUVは、電気の力を得たことで絢爛(けんらん)豪華なだけではない新たな魅力を手にしていた。内装も外装もパール
DSにおける「E-TENSE(イーテンス)」とは、“電動化車両”全般を表す商品名だそうだ。コンパクトな「DS 3クロスバック」のE-TENSEは純粋なバッテリー式の電気自動車(EV)だが、DS 7クロスバックの場合はPHEVである。で、それに続く「4×4」という記号のとおり、駆動方式はリアにモーターを搭載する四輪駆動となる。
そのパワートレインは先に国内発売された「プジョー3008 GTハイブリッド4」とまったく共通と考えていい。フロントには最高出力200PSの1.6リッターターボを中心に、トルクコンバーターを油圧多板クラッチに換装した8段ATと同110PSのモーターを搭載。いっぽうリアには112PSのモーターを置く。後席下のリチウムイオン電池は13.2kWhの容量をもっており、システム全体の出力は300PS、最大トルクは520N・m。……といったハードウエア構成と各性能値はすべて3008ハイブリッド4のそれと同じだ。唯一の差異点といっていい満充電あたりのEV航続距離が8km短い56km(WLTCモード)となっているのは、3008より60kg重い車重とより大きな前面投影面積によるものだろう。
通常のDS 7クロスバックには7種の車体色が用意されるが、E-TENSEには4種。そのうち、今回の試乗車にも塗られていた「クリスタルパール」はE-TENSE専用色という。トリムや装備のグレードは「グランシック」のみとなるので内装はレザー仕様で、小庶民にはちょっと汚れが気になるパールグレーの内装カラーもE-TENSE専用あつかいだ。
シームレスなモード切り替え
センターコンソールのボタンで選択できるドライブモードには「エレクトリック」と「4WD」、そして「コンフォート」「ハイブリッド」「スポーツ」という計5種のモードがある。
最初の2つはご想像のとおりパワートレイン制御に特化したモードだ。通常のハイブリッドモードでも電池残量があるうちはEV走行を優先するし、アクセル開度や路面状況に応じてけっこう積極的に4WDになるのだが、エレクトリックモードではよりEV志向に。悪路や雪道で選ぶことを想定した4WDモードは“前エンジン+リアモーター”、もしくは“前後モーター”という4WD状態を可能なかぎりキープする。
続くコンフォート、ハイブリッド、スポーツの各モードは、パワートレイン制御だけでなく、DS 7自慢の「DSアクティブスキャンサスペンション」の設定を抱き合わせで変えることで、クルマ全体の乗り味をより総合的に切り替える。
標準となるのはハイブリッドモード。電池残量があるうちは可能なかぎりEV走行するように調律されており、ゆるやかに加速していくと、最高135km/hまでエンジンを使わずに到達するという。システム的には、エンジン停止、もしくはエンジンが発電に徹する完全なモーター4WD走行も可能だが、通常のEV走行はリアモーターによる後輪駆動を基本とする。ただ、アクセルペダルを大きく踏み込むと電池残量があってもエンジンが始動して、最大の加速力を発揮。このあたりの制御はエレクトリックモードでも同様である。
見た目の電池残量が底をつくとエンジンの稼働頻度がグッと高まるが、実際には一定の電力量が維持されており、その走行マナーは日本でおなじみのフルハイブリッド車そのものだ。停止からの転がりだしは基本的にリアモーターによるEV発進だし、減速時にはエンジンを止めて回生、低負荷での巡航走行でも頻繁にモーターのみ、シリーズハイブリッド、そしてエンジン+モーターアシスト……といったあらゆる駆動パターンを使い分ける。
ただ、その制御は非常に複雑で「こういう場合なら、こう」と断定的にいえるような単純なものではないのが欧州車らしからぬ(?)ところで、いろいろな駆動パターンへの行き来も感心するほど滑らかでシームレスだ。
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目指したのはシトロエンとプジョーの中間
エンジン停止状態で走ることも多い電動車は静粛性のハードルも上がるが、その点では3008ハイブリッド4よりも印象的なほど優れている。そして、乗り心地も輪をかけて素晴らしい。路面からのアタリをソフトに包み込みつつも、上下動はほぼ一発で収束させてオツリめいた動きをほとんど出さないのは感心する。ステアリングは正確だがほどよくマイルドで、意識せずとも、同乗者にも優しいゆったりとした走りに自然とおさまるのがうれしい。
これに比べるとシトロエンは大げさな上下動をあえて許容したフワリ感重視といえる調律だし、プジョーはさらにステアリングの利きが強力で、動きもタイトだ。つまり、いわばシトロエンとプジョーの中間ともいえる方向性が、DSの狙いどころなのだろう。
アクティブスキャンサスペンションは減衰力可変ダンパーと前方カメラを組み合わせたDS専用のハイテク装備である。そのダンピング制御は“連続可変”といえるほど緻密なものではないようだが、コンフォートモードではパワートレインは標準のハイブリッドそのままにサスペンションだけが柔らかくなり、スポーツモードにすると、パワートレインがパワー志向になると同時に、ダンピングも引き締まる。そして、「カメラによって、これから通過する路面の凹凸を識別」するというアクティブスキャン制御は、柔らかいダンピングとなるコンフォートモードでのみ作動する。
コンフォートでは路面の凹凸をより柔らかにいなすが、かわりに上下動も明確に増えてしまうし、そのまま山坂道に乗り入れるとステアリングの反応遅れが気になってしまう。こうしたクセを例のアクティブスキャン機能で補正しているのだろうが、実際の路面変化には間に合っていない印象が強い。
スポーツモードにするとパワートレインがエンジン主体となって、加減速にもメリハリがつく。ハンドリングもわずかに俊敏性が高まるのは確かだが、そのぶん乗り心地も悪化する。
高価ではあるものの
しかも、こうしたドライブモードによるサスペンションの変化はさほど大きくない。スポーツモードだとパワートレインにはそれなりに効果はあるが、個人的にはサスペンションだけは標準モード固定でいいと思う。
というわけで、サスペンションの調律は標準のハイブリッドモードのバランスがアタマひとつぬけているというほかない。コンフォートやスポーツが今ひとつピンとこないのも、この標準モードがすこぶるよくできているからでもある。
全体的にはソフトタッチなのに、2t近い車重をモノともせず、その重さをそのまま重厚感につなげることに成功している。そこにPHEVならではの高い静粛性が、さらに花を添える形になっている。それは兄弟車といえる3008ハイブリッド4に似た味わいだが、より長いホイールベースと入念な騒音対策、内外装の高級な仕立て……といったDS 7特有のディテールによって、商品力としての説得力はこのクルマのほうが高くなっている。
そんなDS 7クロスバックE-TENSE 4×4の本体価格は732万円。プジョー・シトロエン系の現行市販車では最高価格の一台である。フランス車でこの価格は素直にハードルが高いといわざるをえないが、これがPHEV化のみならず、各部にコストがかかったクルマであることは間違いない。
ダッシュボードの革パッド(E-TENSEではナッパレザーが標準)やアナログ時計といった分かりやすいディテールだけでなく、細かいメッキドットがあしらわれた空調ルーバーやスポーク部にも革が巻かれたステアリングホイールなど、その仕立ては本当に手が込んでいる。また、さすがマクロン大統領も公用車として使うDS 7だからか、後席の調度も高級だ。ホイールハウストリムなどシート以外の部分もレザーがあしらわれているし、後席リクライニングはなんと電動調整式である。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
DS 7クロスバックE-TENSE 4×4グランシック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4590×1895×1635mm
ホイールベース:2730mm
車重:1940kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:200PS(147kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/3000rpm
フロントモーター最高出力:110PS(81kW)/2500rpm
フロントモーター最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/500-2500rpm
リアモーター最高出力:112PS(83kW)/1万4000rpm
リアモーター最大トルク:166N・m(16.9kgf・m)/0-4760rpm
システム最高出力:300PS(221kW)
システム最大トルク:520N・m(53.0kgf・m)
タイヤ:(前)235/45R20 100V XL/(後)235/45R20 100V XL(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック3)
ハイブリッド燃料消費率:14.0km/リッター(WLTCモード)
価格:732万円/テスト車=739万1500円
オプション装備:ボディーカラー<クリスタルパール>(7万1500円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2140km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:298.0km
使用燃料:26.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.4km/リッター(満タン法)/11.7km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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