No Garage, No Life! | 達人たちのガレージライフVol.1

コミュニティーを大切にする趣味人が考えた発信基地 2021.07.05 Gear Up! 2021 Summer 広い敷地に住居と隣り合わせで建てられた大型木造ガレージ。そこには多趣味のオーナーのこだわりがいっぱい。コミュニティーを大切にするオーナーの暮らしをのぞいてみた。
ここに来ればなんでもそろうと思わせるガレージ内部。クルマ2台を収めるのがメインとはいえ、アウトドアスポーツ系のギア&グッズが詰まっている。
ここに来ればなんでもそろうと思わせるガレージ内部。クルマ2台を収めるのがメインとはいえ、アウトドアスポーツ系のギア&グッズが詰まっている。拡大
物の収納に梁(はり)や柱を利用できるのは木造ならではだ。ロードバイクはこうしてつるされている。よく見ればサーフボードもある。入川氏は多趣味なので、それぞれの趣味に応じたギアはバラエティーに富む。
物の収納に梁(はり)や柱を利用できるのは木造ならではだ。ロードバイクはこうしてつるされている。よく見ればサーフボードもある。入川氏は多趣味なので、それぞれの趣味に応じたギアはバラエティーに富む。拡大
ミニカーが置かれるのは、ガレージの定番ではある。
ミニカーが置かれるのは、ガレージの定番ではある。拡大
こちらはスノーボードコーナー。ウインタースポーツ用のクルマは札幌のガレージにあるという。入川氏いわく「クルマは遊びの数だけ増えていく」
こちらはスノーボードコーナー。ウインタースポーツ用のクルマは札幌のガレージにあるという。入川氏いわく「クルマは遊びの数だけ増えていく」拡大

300坪ほどの敷地の隅にある木造のガレージは周囲の緑とレトロな平屋の建物と相まって、なんだかいい雰囲気だ。そこには都会ではなかなか味わえないゆったりとした時間が流れている。昭和の時代にタイムスリップしたような気分になる。

まるで私たちを出迎えてくれたかのようにガレージから頭を出してたたずむクルマは、1970年代のフォード・エスコートMk.1。フェンダーが膨らんだアイボリーのボディー、4つの大きめな補助灯、ノーズからリアに走るオレンジ色のストライプ! 一瞥するだけでただ者でないことがわかる。もちろん外観だけではない。全身がコンペティションユースに仕立てられている。ボンネットの下にはコスワースのツインカムユニットが収まり、サスペンションは固められ、コックピットにはロールケージが備わる。かつてWRC(世界ラリー選手権)を戦った、オリジナルのナンバーLVX981Jのフォードのワークスカーそのものなのだ。

このラリー・エスコートのオーナーは入川ひでと氏。誰あろう、2012年から始まったクラシック&ヒストリックカーによる本格的なラリーイベント、ACCR(アルペン・クラシックカー・ラリー)の仕掛け人である。運営に関わるだけでなく、自身もエスコートやポルシェ356Bを駆り参戦するエンスージアストだ。ACCRは“線踏み式”の一般的なレギュラリティーラリーでは飽き足りない、全開で走れるスペシャルステージを設けたラリーを望む人たちに支持されている。

驚くべきは今やJAF全日本ラリー選手権のオープンクラスとして公認されていること。さらに発足10年目となる2021年のACCRはWRC(ラリージャパン)と併催するかたちのイベントになるもようで、つまりはWRCカーと同じコースをACCRのヒストリックカーたちが駆け抜けられるのだ。入川氏の並々ならぬ情熱と行動力がイベントを発展させてきたといえるだろう。「若い頃にイギリスやベルギーで見たWRCで活躍していたラリーカーが走れるイベントを日本でもやってみたかった。特に頑張ったわけではなくて、夢を語っているうちにかなったみたいなものです」と語るが、そんなパワフルな入川氏だからこそ、ワークス・エスコートが似合う。

イギリスから輸入したラリー仕様フォード・エスコートの仕事場。ワークスカーなので装備は完璧。
イギリスから輸入したラリー仕様フォード・エスコートの仕事場。ワークスカーなので装備は完璧。拡大
ACCRのヒストリックカーによる本格的なラリーイベントで、今年で発足から10年になる。入川氏がACCRの仕掛け人。
ACCRのヒストリックカーによる本格的なラリーイベントで、今年で発足から10年になる。入川氏がACCRの仕掛け人。拡大
エスコートの心臓は2リッターのBDGユニット。この日、撮影のための移動では快音を響かせた。
エスコートの心臓は2リッターのBDGユニット。この日、撮影のための移動では快音を響かせた。拡大
ACCRのイベントはJAF公認である。国内ラリー選手権ではオープンクラスで参戦できる。
ACCRのイベントはJAF公認である。国内ラリー選手権ではオープンクラスで参戦できる。拡大
入川氏がぞっこんの45坪の平屋の住居。高度経済成長期に建てられた、当時としてはモダンな建物である。床から天井までの高い窓が特徴的。
入川氏がぞっこんの45坪の平屋の住居。高度経済成長期に建てられた、当時としてはモダンな建物である。床から天井までの高い窓が特徴的。拡大
広々としたリビングルームに置かれたオーディオシステム。マッキントッシュのアンプに1957年のJBL製“パラゴン”スピーカー。スピーカーはデッドストックを購入したという。
広々としたリビングルームに置かれたオーディオシステム。マッキントッシュのアンプに1957年のJBL製“パラゴン”スピーカー。スピーカーはデッドストックを購入したという。拡大
入川氏の本業は都市計画家。部屋には建築関連の書籍が目立つ。
入川氏の本業は都市計画家。部屋には建築関連の書籍が目立つ。拡大
地域をどのようにデザインすれば、人をより豊かにする街づくりができるかを目指す入川氏。取材当日もクルマ談義、ラリーカー/ラリーの話同様、コミュニティー・都市計画をテーマに熱弁をふるった。
地域をどのようにデザインすれば、人をより豊かにする街づくりができるかを目指す入川氏。取材当日もクルマ談義、ラリーカー/ラリーの話同様、コミュニティー・都市計画をテーマに熱弁をふるった。拡大

入川氏の選んだガレージは、キットの形態で販売されているシンプルな構造の木造のもの。エスコートと991型ポルシェ911タルガの2台とモーターサイクルでスペースは占められ、シャッタータイプの扉のある切妻以外の壁面はすべて入川氏お気に入りのスポーツ系ギアで埋め尽くされている。バイク、サーフボード、スノーボード、フライフィッシングとそれらに必要なヘルメット、ウエットスーツ、レーシングスーツ、フィッシングベスト等々、まるでアウトドアライフショップもかくやといった“品ぞろえ”(?)を誇る。それら一級品の一つひとつを眺めるだけで興味深く、入川氏と同様の趣味を持つ人なら時間がたつのを忘れること請け合いだ。

建築物としては何の変哲もないガレージなのだが、氏の生き方が反映されているような気もする。幅広い趣味をサポートするための巨大なトランクルームという印象であり、おそらく入川氏の描く理想のライフスタイルを実現するためのアイテムのひとつとしてガレージを捉えるのが正しいかもしれない。

クルマ好き、ラリー好きの入川氏とはいえ、じつは都市計画家の顔も持つ。コミュニティーづくりのスペシャリストである。コミュニティーのハブとして機能するユニークなカフェをいくつも生み出してきた。カフェによる街づくり、地域の活性化が狙いである。最近ではマンションを購入すれば小さな畑がついてくるような面白い企画も進めているが、人が豊かに暮らすにはどうすればよいのかがテーマだ。

加えて入川氏が注目しているのが、ちょっと古さを感じさせるというか昔を思い起こさせる郊外での生活である。都市部と田舎のそれぞれ良いところが郊外だと氏は考える。現在ガレージの建つ神奈川県の二宮に東京から引っ越してきたのは10年前、ガレージを作ったのは9年前のこと。大磯を含むこの地域には前々から住んでみたかったのだという。入川氏は語る。「日本の近代化を推し進めた著名人の暮らした場所であり、もともと古いものが好きでしたし、まだ残る近代化に関わるいろいろな文化的なものをきちんと保存したい。そのためには自分のライフスタイルもそれに合わせていきたい」 

平屋の住居はなんと築42年、高度成長時代に日本人が外国のモダンな住宅をまねて頑張って作ったもので、そうした当時の日本人の精神を後世に伝えたいがために譲り受けたのだという。きっちりリノベーションを施してはいるが、キッチンのレンジや調度品など全体の8割ほどはオリジナルの状態を保っている。これこそ日本の建築文化の継承であり、そのやり方は古いクルマを愛(め)で長く持ち続けること、古き良き時代のラリーカーを走らせることとも共通する。

入川氏のなかでは街づくりも建築も自動車趣味も互いに絡み合い、同時にそれぞれの歴史が培った文化的な意義を大切にしている。それはガレージの壁に掲げられた、「偉大な人たちが残した声に耳を傾けよう」的な意味合いの“HIS MASTER'S VOICE”の文字に表れている。

(文=阪 和明/写真=田村孝介)