KTM 890アドベンチャー(6MT)/890アドベンチャーR(6MT)/250アドベンチャー(6MT)
喜びに妥協なし 2021.06.26 試乗記 ダカールラリーを18連覇するなど、オフロードを得意とするKTM。そのラインナップのなかから、ミドルクラスの「890アドベンチャー」とエントリーモデルの「250アドベンチャー」に試乗。オンロードとオフロードの両方で、その走りを確かめた。スペック以上に軽く感じる
アドベンチャーモデルの人気が高まるなか、注目されるようになってきたのが排気量1000cc以下のミドルクラスだ。リッターオーバーのような余裕のパワーこそないものの、軽量な車体を生かして高いオフロード走破性を発揮。ストリートでも扱いやすい。
今回紹介するKTM 890アドベンチャーも、そんなミドルクラスにカテゴライズされるマシンだ。このクラスとしては軽量な車体に最高出力105PSを発生するエンジンを搭載し、よりオフロードに特化した「890アドベンチャーR」には、トラベル量を240mmに伸ばしたサスペンションとブロックパターンのタイヤが装備される。
890アドベンチャーの特徴は、スペックを見ればわかりやすい。ライバルの車両重量とエンジン性能を見てみると、ヤマハの「テネレ700」は205kg/72PS、「BMW F850GS」は236kg/95PS、「トライアンフ・タイガー800XRx」は200kg/95PS、クラスは違うが、「ホンダCRF1100Lアフリカツイン」は226kg/102PSだ。それに対して、890アドベンチャーは200kg/105PS。メーカーによって車両重量の計測方法に多少バラつきはあるものの、それを勘案しても、エンジンのパワーに対する890アドベンチャーの軽さは明らか。もちろん走りはスペックだけで決まるものではないが、KTMの気合がうかがえる部分である。
実際にまたがると、そうしたスペック以上に軽く感じられるのはマシンのバランスがいいからだろう。加えて“軽さ”はエンジンのフィーリングにも感じられる。パラレルツインというのは、総じて低回転域からトルクがあるものだが、このエンジンはビッグツインのように力強く車体を押し出すのではなく、軽やかにスピードに乗せていく。
舗装路でも快適かつスポーティー
トップギアで100km/h巡航しているときの回転数は4000rpmで、振動はほとんどなく、とても快適だ。スロットルを開けると回転数に比例するようにパワーが出てくるが、どこかで急激にパワーが盛り上がるようなことはないため、どの回転域を使っても走りやすい。試しにレブリミットまで引っ張ってみたが、パワーの落ち込みなどもなく、気持ちよく伸びていく。
リッターオーバーのような“激しさ”はないけれど、200kgの車重に105PSの組み合わせなので動力性能も十分。ワインディングロードをスポーティーに走るときも不足はない。どんなときも扱いやすくパワフルな、とてもよくできたエンジンである。
トランスミッションのタッチも軽く、また操作感に節度がある。シフターの作動も良好で、低回転でシフトしてもショックはない。加えて、クラッチレスでのシフトを可能にするオプションの「クイックシフター+」はどんな回転域でも使用でき、ツーリングや普段使いでのライダーの疲れを低減してくれることだろう。ただし、若干シフトのストロークが大きめなので、しっかりと操作する必要がある。
オンロードでのハンドリングは軽快だ。この場面で試乗したのは標準仕様の890アドベンチャーだが、重心が高いオフロードバイク特有の軽快感と21インチフロントホイールの安定感がミックスされて、気持ちよくコーナーをクリアしていく。オンロードバイクに比べれば加減速でのピッチングモーションは大きめだが、適度なペースで走るのであれば、これもネガティブな要素にはならない。逆に、車体の姿勢変化を利用して走る楽しさがある。
オンロードでの試乗を終え、オフロード走行に際して890アドベンチャーRに乗り換える。冒頭で述べた通り、KTMのアドベンチャーモデルのなかでもハードな部類のモデルであり、しかも試乗車には、世界限定700台のハードコアモデル「890アドベンチャーRラリー」と同じ「WP XPLOR PRO」サスペンションが装備されていた。
悪条件になるほど“バランスのよさ”が光る
このサスペンションは、またがった瞬間にその素晴らしさが伝わってくる。ライダーの体重がかかって車体が沈み込む際に、滑らかで気持ちのいい動きをするのだ。オフロードコースまでの移動で舗装路を走っているときも、ストローク量は多いのにフワフワした感じはなかった。乗り心地もよく、とても上質なフィーリングである。
この日の空模様はあいにくの雨だったが、ぬれたアスファルトではオフロードタイヤはあまりグリップしないため、無理な操作は禁物。ただ890アドベンチャーRは“滑り出し”が穏やかなので、安心していられる。コーナリングABSも非常に緻密な制御をしていて、ぬれた路面で浅いバンク中に何度か作動させてみても、姿勢を崩すようなことはなかった。
こうした印象は、オフロードでも変わることがなかった。粘土質の路面がぬかるんだ状態だったこともあり、ペースはさほど上げられなかったが、ギャップが連続する場所や多少のジャンプポイントも、何事もなかったかのように走破してしまう。車体のバランスがよく、装着されていたオフロードタイヤのグリップも高いので、滑りやすい路面であるにもかかわらず、不安がない。
状況が状況だったのでパワーモードは「オフロード」にしていたけれど、これだと低開度からのレスポンスがかなり弱く、コーナーの立ち上がりでスロットルを全開にしても、リアタイヤはほとんど滑り出さない。安心ではあるが、逆にスロットルで姿勢をコントロールすることが難しい。短い時間で撮影と試乗をこなさなければならなかったために設定を変えることはしなかったが、890アドベンチャーではパワー、トラクション、ABSは細かなセッティングができる。機会があったらジックリと試してみたいところだ。今回の試乗で、唯一心残りだった点である。
高性能を追求したマシンは、条件が整わないと乗りにくいことがあるものだが、このマシンにはそれは当てはまらなかった。オンでもオフでも極めつけに乗りやすく、楽しい。その証拠に、当初はあまりの悪条件に写真撮影だけ終えたら引き上げようとしていたのに、気がついたら時間いっぱいまで、夢中で走り続けてしまったほどなのである。
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スムーズさと高回転域でのパワーが魅力
890アドベンチャーの試乗を終え、シリーズの末弟にあたる250アドベンチャーに乗り換える。今日ではいろいろなメーカーが250ccクラスのアドベンチャーを販売しており、雰囲気重視のツーリング的なモデルもあれば、本格的なオフロード走行を考慮しているものもあったりと、車両によって性格が大きく異なる。そのなかにあって、KTM 250アドベンチャーは快適性を確保しながらもスポーツ性を重視したモデルだといえる。車体にはほかの250アドベンチャーにはないカッチリとした剛性感があるし、エンジンもレスポンスが鋭く、元気がいい。
その単気筒エンジンは、同門の2気筒エンジンにも負けないくらいにスムーズかつ静かで、常用域では振動もほとんど感じられない。とても乗りやすいのだが、低・中回転域のトルクはあまり太くないため、クルージング状態から加速したいときは、シフトダウンが必要になる。このエンジンのいちばんの魅力は、おそらく同クラスで最も力強い高回転域でのパワーだ。エンジンのフィーリングが変わるのは8000rpmから。トルクが盛り上がり、気持ちよく加速していく。レブリミットの1万0500rpmまではあっという間だ。
シングルエンジンは高回転まで回したときにノイジーになるものも少なくないが、250アドベンチャーのそれはとても洗練されている。1万rpm付近で振動が急に増えるが、気になるものではなく、逆にレブリミットが近くなったことを体で感じられるのでありがたい。ストリートでも使い切れるパワーなこともあって、公道でも心地よい高回転のフィーリングを存分に楽しむことができた。
ダート程度なら遠慮なく踏み込んでいける
サスペンションの味つけはロードスポーツ的でシッカリしているから、オンロードでペースを上げても不安がない。ハンドリングも“フロント19インチ”のよさが生かされていて、軽快でありながらシットリとしたフィーリングになっており、高速での安定感も高い。
エンジン、車体とも比較的オンロード寄りなのだが、アドベンチャーモデルを名乗っているだけにオフロードの走破性も悪くはない。本格的なオフロードバイクのような速さでコースを走ることはできないが、林道レベルであれば問題ない走破性を確保していた。ツーリング先でダートを見つけたとしても、臆(おく)することなく踏み込んでいけるだろう。
クラッチやトランスミッションは軽くて操作フィーリングもよく、全体的に機械としての完成度がとても高い印象を受けるのだが、気になったのはABSの制御がやや緻密さに欠けていたこと。強くブレーキをかけると、タイヤがロック気味になってからリリースされるのだ。パニックブレーキ時のサポートとしては十分な性能を確保しているのだろうが、重要な部分だけに、もう少し繊細さがあってもいいと思った。
KTMはオフロードを得意としているメーカーだけに、アドベンチャーモデルにも非常に力を入れている。軽二輪の250からリッターオーバーの「1290」までさまざまなモデルをリリースしており、加えて車種ごとに少しずつキャラクターを変え、多くのライダーたちを満足させているのだ。そんな広範なラインナップに共通する点を挙げるとすれば、それはどのモデルであれ、常に走りの楽しさを追求していることといえるだろう。
(文=後藤 武/写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
KTM 890アドベンチャー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1509mm
シート高:830/850mm(調整式)
重量:200kg(燃料除く)
エンジン:889cc水冷4ストローク 直列2気筒DOHC 4バルブ
最高出力:105PS(77kW)/8000rpm
最大トルク:100N・m(10.2kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:4.5リッター/100km(約22.2km/リッター、WMTCモード)
価格:162万9000円
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KTM 890アドベンチャーR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1528mm
シート高:880mm
重量:200kg(燃料除く)
エンジン:889cc水冷4ストローク 直列2気筒DOHC 4バルブ
最高出力:105PS(77kW)/8000rpm
最大トルク:100N・m(10.2kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:4.5リッター/100km(約22.2km/リッター、WMTCモード)
価格:168万9000円
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KTM 250アドベンチャー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=--×--×--mm
ホイールベース:1430mm
シート高:855mm
重量:156kg(乾燥重量)
エンジン:248.8cc水冷4ストローク 単気筒DOHC 4バルブ
最高出力:30PS(22kW)/9000rpm
最大トルク:24N・m(2.4kgf・m)/7250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:3.1リッター/100km(約32.3km/リッター、WMTCモード)
価格:71万9000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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