羽生永世7冠もびっくり!? ホイールのハブボルト締結化でクルマはどう変わるのか?
2021.07.14 デイリーコラムレクサスが採用拡大するボルト式
この2021年6月12日に世界初公開となった新型「レクサスNX」で、ちょっと興味深いのは「スタッドボルトとハブナット締結からハブボルトによる締結に変更」されたというホイール締結方法である。
ここでいう「スタッドボルトとハブナット締結」とは、ホイールを外したときにハブからボルトが突き出ていて、ナットでホイールを固定するタイプのことだ。ここではそれを“ナット式”と呼ぶことにする。いっぽうの「ハブボルトによる締結」とは、ネジ穴が開いているハブにボルトでホイールを固定するタイプのことを指しており、ここでは“ボルト式”と呼ぶことにする。
つまり、新型NXではホイールの固定方法が、従来のナット式からボルト式に変更されたのだ。これは地味だがけっこう根本的な路線変更である。ちなみに、2020年6月に大規模マイナーチェンジが実施された「IS」のそれも、同様にボルト式に変更されている。これでレクサスの新型車は2台連続でホイール固定方法を変更したわけで、少なくともレクサスは今後ボルト式に統一されていく方針と思われる。
知っている人も多いように、新しいIS以前に開発されたレクサスはもちろん、現在の日本車はほぼすべてナット式である。クルマ好きの間では「輸入車はボルト式」といわれがちだが、実際には国ごとにちがうことが多い。たしかにドイツ車、フランス車、イタリア車は伝統的にボルト式だが、アメリカ車は日本車同様にほぼすべてナット式である。
また、メーカーの国籍だけで分類できるわけでもない。英国車だとジャガーやランドローバーはナット式だが、MINIはドイツの技術的影響からかボルト式となっているし、スーパーカーのマクラーレンもボルト式だ。またスウェーデンのボルボもかつてはナット式だったが、最新世代はボルト式となっている。さらにいうと、日本のホンダでも、専用ラインでハンドメイドされる現行「NSX」だけはボルト式である。
レーシングドライバー山野哲也の視点
レクサスがあえてボルト式を採用した理由を、ISのプレスリリースでは「締結力の強化と質量の低減を図ることで、気持ちのいいハンドリングとブレーキングを実現」すると、そして新型NXのそれでは「高剛性化とばね下の軽量化(ハブナット締結時比約0.7kg減)により、すっきりとした手応えのある操舵フィールと質感の高い乗り心地に貢献」すると説明されている。いずれにしても、レクサスは“ホイール固定部分の剛性の高さ”と“軽量化”をボルト式のメリットと考えている。
それぞれの構造を考えれば、理屈そのものは容易に理解できる。ナット式はハブに裏側から長いボルトを差し込んだうえで、ホイールをナットで固定する。つまり異なる部品同士が締結される部分が“ハブ+ボルト”と“ボルト+ナット”という2カ所にある。対してボルト式の締結部分はボルトをハブにねじ込む部分の1カ所のみ。剛性(や強度)低下の要因になりやすい締結部分が少ないボルト式のほうが、おのずと高剛性・高強度になるというわけだ。また、ネジ部分の長さが短く、部品点数も少なくなるボルト式のほうが、当然ながらナット式より軽量化もしやすい。
こうした事実をもって「アウトバーンなどの高速性能を重視したドイツ車が採用しているボルト式こそ、高性能でエラい」と信じるマニア筋も多い。とはいえ、それが実際の乗り味において、どれほどの実効果があるかについては意見は分かれるところだ。
「思考するドライバー」としてwebCGでもおなじみのプロレーシングドライバーの山野哲也氏は、ナット式とボルト式でクルマの動きの差を感じたことは「ない」と断言する。山野氏はさらに「ホイールの締結方式で差が出るのは、ひとつがボルトの“強度と本数”、もうひとつがボルト(もしくはナット)とホイール、ハブ面という3点の“面積と剛性”だと思っています。単純にボルト式が高性能なのであればレーシングカーでも使われるはずですが、レーシングカーの大半はホイールを1個の大きなナットで締結しています」と続けた。いっぽうで、レクサスは前記のようにボルト式による乗り味のメリットも明確にうたっており、そこには賛否両論がある。
日本でもボルト式が主流となるか
ただ、ナット式には誰の目にも明らかなメリットがひとつある。それはタイヤ交換のしやすさだ。ボルト式のタイヤ交換をやったことがある人はお分かりのように、重いタイヤ&ホイールを抱えながら、ネジ穴を合わせてボルトを差し込むのは重労働だし、タイヤを落としてしまう危険もある。逆にいうと、ボルト式の明確なデメリットはそれだけで、それ以外の性能は同等、もしくはより高い可能性もありながら、コストは安い。
日本車で最初にナット式が定着した理由はタイヤ交換の容易性だが、その後ずっと変わらなかったのは“前例と慣習”の部分が大きい。一度、定着した様式はよほどの不都合が起きないかぎりは変わらないものだからだ。ただ、最近はタイヤの性能が上がり、ユーザーがタイヤを交換する機会は激減しているし、スペアタイヤを積まない新車も増えている。そう考えると、今の時代はボルト式のほうが総合的なメリットが大きいともいえそうだ。
レクサスがボルト式に移行しつつあるのも、そうした総合的な判断からだろう。いっぽうで、この部分をイジると日本全国の整備工場でのサービス性だけでなく、メーカー生産ラインのタイヤ組み付け工程にも影響を及ぼすだろう。内部ではそれなりの抵抗もあったと想像されるが、そういう従来の“しがらみ”をスパッと断ち切ってみせるのも、最近のトヨタの強さのひとつである。とはいえ、こういう地味だが根本的な変更は周囲に与える影響も甚大なので、このまま本丸のトヨタブランド車でもボルト式を拡大していくのかは不明だ。
ただ、トヨタが動くと業界全体が動くのが、よくも悪くも日本のクルマ産業の“あるある”である。今後の日本車のホイールが急速にボルト式に転換していく可能性もなくはない?
(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車、フォルクスワーゲン グループ ジャパン/編集=藤沢 勝)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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