シボレー・コルベット クーペ3LT(MR/8AT)
隕石級の衝撃作 2021.07.08 試乗記 ミドシップ化や右ハンドル仕様の設定など、あまたのトピックで注目を集めている“C8”こと8代目「シボレー・コルベット」が、いよいよ日本の道を走りだした。“コルベット史上初”の新機軸が多数盛り込まれた新型の実力をリポートする。ハンドルが右にある!
待望のC8コルベットが日本上陸。ナンバーもついたので早速借り出して取材に……と段取ったその日は、梅雨前線が活発化し、いつもの山坂道は通行止め。高速道路は事故で渋滞と、絶好にも程がある日和になってしまった。こんな日に限って……とは、この仕事をしていてままあることなので仕方がない。日本の地を走り始めたこの個体も、この後はしばらくお座敷に引っ張りだことなるので、ともあれできることをやろうと傘を片手に端々を眺めてみる。
並行モノの「ダッジ・バイパー」に乗る編集部のH君は、ナンバーステーの台座がきちんとできていることにいたく感心の様子。いやいやかつての正規バイパーも並行みたいなもんだったから……というツッコミは引っ込めつつ、GMは昔から仕向け地の法規には割と真摯(しんし)に対応してきたほうではないかと思う。「左ハンドルばっかり売っている」とツッコまれると、返す言葉はないのだが。
……と、そんなGMの物件にしてハンドルが右にある。C8コルベットの重大な関心事のひとつはこれだろう。エンジンが後ろに引っ越したおかげで、前軸側の構造物を自由に取りまわせるようになったことが大きな理由だろうが、この右ハンドルの設定により、日本のみならずスポーツカーの愛好家が多いイギリスでも、コルベットは大手を振って販売できるようになった。
そこで気になるのが、ドライビングポジションがきちんととれるのかということだ。MRやRRは、FRと違って前輪とキャビンの位置関係が近いため、タイヤハウスの張り出しがフットスペースを侵食し、ペダルの置き場が割を食うことが多い。その場合、左ハンドルならばフットレストが泣くことになるが、右ハンドルではその影響がアクセルペダルを直撃。ブレーキペダルごと車両中央側に追いやられることになる。今日び、そういうクルマ(=MRやRRの高性能スポーツカー)のインターフェイスは3ペダルでなく2ペダルが主流であり、以前よりはペダルレイアウトに余裕ができているのは確かだが、それでも思慮なくつくれば大惨事となることは言うまでもない。
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ライバルにも引けを取らない静的質感
果たして、右ハンドル車をつくり慣れていないGMのクルマにして、コルベットのそれはほとんど違和感のないレイアウトとなっていた。ステアリングは完全にドライバーの中央正面にあり、左右の“足置き”も自然で、腰から下がねじれるようなことはない。アメリカでは標準体形となる大柄大足の自分的には、「ブレーキペダルの位置がもう少し左奥でもいいかな」と思う場面もあったが、これは個人差の範囲であって、総じて運転環境はかなりクリーンに仕上がっていると思う。
過度にタッチパネルに頼らず、主要な操作系については物理スイッチを残した点は、「誰でも乗れること」に対するプライオリティーが高いアメリカ車らしい配慮だが、ハザードスイッチが天井に押しやられてしまったのは、それを多用する日本的には残念なところだ。
インテリアの印象は、米本国で試乗したときから変わらない。試乗車は上級トリムの「3LT」だったこともあり、棚田のようなダッシュアッパーや陣地を分かつ断崖のような空調コンパネの端々にも表皮が巻かれているものの、その造形はちょっとビジーで大人げない。運転席から見るインパネまわりの情景はなんとも未来的で、コラムから左右に生えるウインカーとワイパーのレバーが、むしろ不釣り合いだ。総じて、静的質感はこのクラスの水準点。開発のベンチマークであっただろう「ポルシェ911」あたりと比べても遜色はない。勇ましい形状ながらベンチレーターも配されており、長時間の着座でも疲れを感じないシートの出来もまた、911あたりと比べるに値するクオリティーが感じられる。
ミドシップの常である後方視界の悪さは、このクルマも然(しか)りだが、それを補うべく高精細カメラによるマルチビューシステムが全グレードで標準化されている。一方で前方視界は、カウル高が低くフェンダーの両峰も一目瞭然と、情報量が多い。見た目の印象では車体の後ろ側が大きく広がっているように見えるが、料金所の通過や狭道でのすれ違い時などにバックミラーでクリアランスを確認する限りは、前方視界から得られる車幅感覚で運転しても問題はなさそうだった。また“狭い”つながりで言えば、ドア形状やサイドシルの太さはやはり狭所に優しいものではなく、他のミドシップスーパースポーツ系と同様、乗降時には注意や配慮が求められる。
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グランドツアラーとしても素質は十分
悪天候のおかげで激しい渋滞にも巻き込まれたが、車内環境は至って平穏だった。Bluetoothの接続レスポンスはすこぶるよく、あっという間に手持ちのスマホがリンクされ、BOSEのプレミアムオーディオで音楽を楽しめる。このあたりは、さすがGAFAの国のクルマだ。
と、変なところで感心させられつつも、ちょっと気になるところもあった。自製にして初出の8段DCTのマナーは、ATモードでも自然吸気の6.2リッターV8 OHV「LT2」の出力特性を滑らかにカバーするなど総じてかなりよくできているが、10km/h前後のごくごく低速域を保持し続けるのが難しい。6km/h程度でクリープ走行するためのアイドルアップ制御と、ドライバーのアクセル操作によるわずかなスロットル開度とが干渉し合って、回転が揺らいでいるような印象だ。微細なアウトプットもリジッドに反映してしまうDCTのクセがクルマを揺する。“重箱の隅”的な話だが、日本の場合は使う場面も少なくない領域ゆえ、リファインを期待したいところだ。
一方で、発進から穏やかに加減速を繰り返す“普段乗り”的なシーンでは、速度コントロールのしやすさやブレーキバランスのよさなど、文句のつけようがない。その領域では、搭載されるLT2のマナーは至って上質。回転の粒立ちなどは先代にも増して滑らかになった感がある。音量に関しては、路面からのスプラッシュノイズがひどかったためなんとも言えないが、音質についてはアメリカンV8らしい低く落ち着いたものだった。
加えて乗り心地のよさも見事なもので、日本の道路によくある目地段差の乗り越えや、凹凸のいなしなどは、今日のスーパースポーツの水準からいっても最高レベルにある。キャビンに手荷物を置くスペースがないのは痛いが、それを補う前後の大きなラゲッジスペースは使いでもよく、カバンの形状や熱害にさえ気を使えば、長旅にも余裕をもって対応できるだろう。このあたりはGT的なユーティリティーを大切にしてきたコルベットの伝統をしっかり受け継いでいる。
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エンジンを回すほどに盛り上がる
本国試乗で得た「速いという実感が湧かない」という走りの印象は、梅雨の日本の路上でも変わらなかった。まずもって、べしゃべしゃにぬれた路面でさえしっかりとトラクションがかかり、後輪がやすやすとスリップダウンすることがない。今日びのミドシップは、例えば42:58などと、後ろにエンジンを積む割には前軸寄りな重量配分のモデルも多い。そんななかにあって、C8の車検証上の重量配分は39:61。38:62の「911カレラ」ほどではないにせよ、荷重がリア寄りであることも奏功しているのだろう。
このどっしり体形に、高回転に向かうに従ってぐんぐん盛り上がる自然吸気らしいパワーの“乗り”が重なり、回すほどに勢いを増していくのが「コルベットならではの速さ」というわけだ。下からドーンとトルクが湧き上がり、無慈悲な加速がフラットに続く今日びのターボユニットに慣らされた身は、この精緻さからくる安心感を、“遅さ”と曲解してしまうのだ。
精緻さからくる安心感という点でいえば、この手のクルマが苦手とする雨中でのコーナリングも然りだ。前述の通り、真っすぐで据わりがいいC8は、ハンドルを切り始めたごくわずかなところからの操舵ゲインの立ち上がりが穏やかで、車体の微細なヨーコントロールが苦にならない。そこからは切り込むほどにグイグイとゲインを高めていくのだが、その過渡領域の“つながり”もとても滑らかで、期待通りの動きを容易に引き出せる。直進と旋回の動きが境目なく丁寧に連続しているうえに、普通のスピードでも荷重変化をきちんと伝えてくるから、ドライバーはクルマを御することに自信を持ち続けられるわけだ。
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この内容でこの値段はバーゲンプライス
走り始めれば、延々“時速55マイル”を維持し続けることも苦にならないクルマであることは、昨年の試乗で確認していた。が、日本の路上で、しかもこの悪天候下で乗ってみても、これほどゆっくりと走ることが楽しく、上質に、饒舌(じょうぜつ)に対話できるクルマだとは想像できなかった。これと似たような感じのミドシップスポーツがあったよなぁと振り返れば、思い浮かぶのはNA1の「ホンダNSX」や986後期の「ポルシェ・ボクスター」、V8を搭載した初代「アウディR8」。いずれも個人的にはいいクルマの筆頭に挙がる銘柄だ。
今回試乗した上級グレードの3LTは1400万円。対して基本グレードの「2LT」は220万円安い1180万円だ。ただし、この両グレードでは機能的差異は無に等しく、内外装のカーボンのお化粧やトリム類、シートのしつらえなどで差がつけられている。走行機能面での唯一最大の差はノーズリフターだが、もしどうしても必要とあらば、社外品という選択肢も期待できるだろう。ちなみに、ボタンひとつでルーフが開閉できるコンバーチブルは1550万円だが、代々のコルベットと同様、C8はクーペでも屋根はリムーバブル式で、リアトランクにパネルをしまうことができる。
今回の試乗ではわからないことも幾つかある。走らせた距離と環境を思えば、「想像してたほど伸びないかも」と感じた燃費も再検証が必要だ。が、昔からアメ車と「スズキ・ジムニー」にはバイアスがかかってしまう自分を努めて落ち着かせてみても、C8のコスパは2007年に「日産GT-R」が提示した777万円以来となる、スポーツカーカテゴリーに落ちた隕石(いんせき)だと言い切ってしまってよさそうだ。
(文=渡辺敏史/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
シボレー・コルベット クーペ3LT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4630×1940×1220mm
ホイールベース:2725mm
車重:1670kg
駆動方式:MR
エンジン:6.2リッターV8 OHV 16バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:502PS(369kW)/6450rpm
最大トルク:637N・m(65.0kgf・m)/5150rpm
タイヤ:(前)245/35ZR19 89Y/(後)305/30ZR20 99Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:シティー=15mpg(約6.4km/リッター)、ハイウェイ=27mpg(約11.5km/リッター)(米国EPA値)
価格:1400万円/テスト車=1407万7000円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット(4万6200円)/ETC 2.0車載器(3万0800円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2631km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:242.5km
使用燃料:40.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.0km/リッター(満タン法)/6.1km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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