ホンダ・フィットe:HEVモデューロX(FF)
新種あらわる 2021.07.21 試乗記 「ホンダ・フィット」にこだわりのコンプリートカー「モデューロX」が登場。そのキモは日常の速度域でも体感可能な空力効果をもたらすというエアロパーツと、専用セッティングの足まわりの2つである。モデューロならではの走りの味わいをリポートする。パワートレインは標準モデルと共通
今なお続くコロナ禍が、パンデミックを宣言される直前というタイミングで、辛くも開催されたのが2020年の「東京オートサロン」。そこに、まだコンセプトモデルという扱いで出展されていたフィットのモデューロXが、いよいよ発売となった。
すでに“オーダーストップ”が伝えられた「S660」を筆頭に、純正用品メーカーであるホンダアクセスが開発した専用カスタマイズパーツを量産過程で装着し、新車として販売されるコンプリートカーブランドであるモデューロX。そのS660を除くと、フィット モデューロXの発売前に用意されていたのは「フリード」「ステップワゴン」の2タイプ。2013年に初代「N BOX」に初のモデューロXが用意されて以来、それがフィットに設定されるのは初めてということになる。
高速クルージング時にエンジン駆動力を直接用いる“直結モード”も備えるものの、基本的には日産の「e-POWER」と同様、モーターの力によって駆動が行われる1.5リッターエンジンを組み込んだ2モーター式ハイブリッドシステムと、1.3リッターユニットにCVTを組み合わせた純エンジン仕様という2つのパワーユニットを用意する現行フィットだが、モデューロXに用意されるのは前者のみ。
また、そんな心臓部の違いを問わずFWD仕様と4WD仕様のチョイスが可能ななかで、モデューロXはやはり前者のみの設定。そうしたパワーユニット/パワートレインをベース車と完全な同一仕様とするのは、各モデューロXに共通する「約束事」でもある。
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空力性能と質感を追求
これまでのモデューロX各車は「誰がどんな道で乗っても安心して気持ちよく走れる!」をコンセプトに、専用チューニングの足まわりや、街乗りシーンでも効果を発揮する“実効空力”を意識したエアロパーツを採用。ベース車両以上に快適かつ上質なテイストの走りを追求してきた。
そうした走行性能の向上にも寄与しつつ、相応の対価を支払うことへの強い動機づけとなる“所有する喜び”を感じさせるエクステリアやインテリアのデザインも、モデューロXならではのこだわりの部分だ。
シリーズ中でも特に充実した装備を備える「リュクス」グレードをベースとするフィット モデューロXの場合、前後のエアロバンパーやテールゲートスポイラー、フロントグリルなどが、前述の“実効空力”に貢献する機能性を踏まえつつ、よりスポーティーで上質な雰囲気の演出も狙ってデザインされた専用のアイテム。
加えてインテリアには、本革とスエード調素材を用いた専用コンビシートを筆頭に、ステアリングホイールやパワースイッチ、フロアマットなどに至るまで、専用の上質な仕上げが施されている。
SUPER GTに参戦する「Modulo NSX-GT」のホイールにインスパイアされたデザインを採用しながら、標準装備品比で一本あたり約2.9kgの大幅な軽量化を実現。加えて“しなり”をコントロールするなど剛性のバランスにも配慮しながら開発したという専用のアルミホイールも重要な見どころ。そもそも、ホンダアクセスが手がける走りのチューニングは、オリジナルホイールの開発からスタートしてきたことも踏まえれば、こうして足元にも力が注がれるのは当然かもしれない。
すぐに分かる走りの進化
今回のテストドライブは、高速道路(関越自動車道)とモデューロX開発時の“ホームコース”のひとつでもある、群馬サイクルスポーツセンターの6kmフルコースがその舞台。後者での走りはわずか2周ずつに限られたが、標準車のリュクスグレードと乗り比べるカタチでチェックを行うことになった。
実は、ベースである現行フィットの走りの性能や快適性は従来型よりもはるかに高く、世界のコンパクトカーと横並びで考えても、侮れないポテンシャルであることはすでに確認済み。それゆえ、興味の対象は「そんな高い実力を持つフィットが、モデューロX化によってさらにどれほどの走りと質感を味わわせてくれるのか」という点に集約されることとなった。
実際、高速道路をクルージングするノーマルフィットの走りは、「コンパクトなファミリーカーとしては」などといったエクスキューズなしでも十分に満足できるもの。荒れた路面や舗装の継ぎ目に差しかかるとそれなりの振動が伝えられるが、基本的には「特に大きな文句のつけようがない」というのが、その仕上がりに対する評価になる。
ところが、途中のパーキングエリアでモデューロXに乗り換えてスタートすると、本線へと合流する以前の段階で、早くもより滑らかなタイヤの路面追従性と、さらにフラットな乗り味を実感できることに驚いた。
そもそも、サスペンションストロークに無駄なフリクション感を伴わないのが、現行フィットの乗り味に好印象を抱いた一因。が、モデューロXではそうした美点がさらに強調されたという印象。これでクルージング中に耳に届くロードノイズのボリュームがあと一歩抑えられれば、そのフラットでしなやかな乗り味は「とてもコンパクトカーのそれとは思えない印象」とコメントできるようになりそうだ。
タイヤを履き替えたかのようだ
一方、さまざまなRのコーナーが連続し、路面状態も絶えず変化するサイクルスポーツセンターのコースへと乗り入れると、両車のフットワークの違いはより鮮明に感じられた。
まずはノーマルモデルで走り始めると、こちらもやはりなかなかのポテンシャル。走りのペースを上げても簡単に破綻をきたすような状況には陥らず、「見た目以上にタフな実力」を確認することになった。
ところがモデューロXへと乗り換えると、あたかも「よりグリップ力の高いスポーツタイヤに履き替えた」かのごとく、4輪の接地感が高まったことを実感。あいにくのウエット路面であったにもかかわらず、標準車と同じエコタイヤとはとても信じられない高いグリップ感を味わわせてくれることに。
それはもちろん“気のせい”などではない。「Cd値優先型のベース車両では、速度が高まると前傾姿勢が増してフロントタイヤにかかる荷重が増すところを、“実効空力”によるエアロダイナミクスの最適化とバウンド/リバウンド時の減衰力を均等方向に近づけた専用ダンパーの採用で、すべてのタイヤに均等荷重を与えるチューニングを行った結果の挙動」というのが、開発陣のコメントになる。
一方、ひび割れなどのある荒れた路面に差しかかると、やや硬質さを増して「タイヤ内圧を2割ほど高めたような感触」にも思えたのは事実。無駄なボディーの動きが排除されているため不快感は少ないのだが、そんな場面をゆったりとした速度で流すような場合には、好みが分かれる可能性があるのは否定できないところ。
いずれにせよ、上質なクルージングの場面からワインディング路へと差しかかると、がぜん“ホットハッチ”としてのキャラクターが色濃く顔をのぞかせるように感じられたのがフィット モデューロX。
モデューロXファミリーの一員として一本筋の通った走りのテイストを示しつつも、軽快さと俊敏さはさらに明瞭に。コンパクトカーゆえのキャラクターが魅力的な“新種のモデューロX”でもある。
(文=河村康彦/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ホンダ・フィットe:HEVモデューロX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4000×1695×1540mm
ホイールベース:2530mm
車重:1190kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5600-6400rpm
エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4500-5000rpm
モーター最高出力:109PS(80kW)/3500-8000rpm
モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3000rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ヨコハマ・ブルーアースA)
燃費:--km/リッター
価格:294万9100円/テスト車=322万3000円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ナビ&ドライブレコーダーあんしんパッケージ<9インチプレミアムインターナビ+ナビ取り付けアタッチメント+フロントドライブレコーダー+後方録画カメラ>(25万5200円)/ETC車載器<音声ガイドタイプ>(1万1000円)/ETC取り付けアタッチメント(7700円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:865km
テスト形態:ロード&トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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