第7回:EV化も自動運転も“力ずく”で進めるボルボの次世代戦略(前編)
2021.07.20 カーテク未来招来 拡大 |
製品ラインナップの劇的なEV(電気自動車)化を計画しているボルボ。販売拡大と製品のローエミッション化を同時に推し進める彼らの戦略の全容とは? ボルボが思い描く次世代のプレミアムカーとは? 新たに発表された中期戦略から読み解く。
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販売と利益率に見る目標の高さ
2030年に全車種をEV化すると公言しているスウェーデンのボルボが、いよいよその戦略を具体化し始めた。2021年6月30日に開催したオンライン発表会「ボルボ・カーズ・テック・モーメント」では、完全電動化のロードマップ、ソフトウエア開発の内製化、電子アーキテクチャーの刷新、自動運転技術の導入計画などを明らかにし、将来のEVの方向を示すコンセプトカー「Volvo Concept Recharge(ボルボ・コンセプト リチャージ)」を発表した。
次世代のEVは航続距離が現在の2倍以上になり、充電時間も大幅に短縮される。さらに所有コストと充電コストの両方も低くなるという。2020年代の半ばまでに年間120万台の世界販売台数を目指し、そのうちの少なくとも半分をEVにする。この販売目標は、ボルボの2020年の世界販売台数が約66万台であることを考えれば、非常に野心的だといえる。
さらに注目されるのは、2020年代半ばまでに、営業利益率を8~10%にすることを目標として掲げたことだ。一般に、EVはバッテリーなどのコストがかさむため、エンジン車よりも収益性が低下すると言われている。ボルボの2020年通年の営業利益率は約3.2%であり、また業績が急回復して過去最高となった2020年下期だけを取り出しても6.3%であることを考えると、この目標もまた非常に高いといえる。今後は、これから説明するように、新規開発案件や投資案件がめじろ押しであることを考えるとなおさらだ。
現行車種とは大きく異なる印象のコンセプトカー
まず今回発表されたコンセプトカーから見ていこう。外観から受ける印象は、現行のボルボ車から大きく変わった。ボルボはこのクルマを「次世代EVのマニフェスト」と位置づけているので、2022年にも登場すると見られる“次世代EV”の第1弾車種は、このデザインを反映したものとなるはずだ。そして、その次世代EVの第1弾車種は、今日における最上級SUV「XC90」の後継モデルとして登場することになっている。今回のコンセプトカーと現在のXC90を比較すると、デザインの方向がかなり異なっているのが見て取れる。
最も大きな変化はプロポーションだ。現行のXC90は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)のレイアウトを基本にするにもかかわらず、フロントフードが長く、フロントドアとフロントホイールの距離も長くとったFR(フロントエンジン・リアドライブ)ベースのクルマのようなプロポーションが大きな特徴だった。プレミアムカーとしては、たとえFF(ないしFFベースの4WD)であっても、FR車のような伸びやかなプロポーションが必要だとボルボは考えたのだろう。
しかし、新しいコンセプトカーではこの考え方が一変した。フロントフードは短く、キャビンは長くなり、リアオーバーハングも大幅に短くなっている。またフロントにエンジンがないメリットを生かし、フロントフードの高さも非常に低くなった。ボルボ車のデザイン上の特徴である、ショルダーを強調したウエストラインや、フロントグリルも見当たらない。もしもトールハンマーと呼ばれる独特なT字型のヘッドランプや、伝統の斜めのラインとともにフロント中央に配置されたロゴマークがなければ、ボルボ車だと判別するのが難しいほどだ。この新しいデザインによって、ボルボは広い室内空間と優れた空力特性を実現するとしているが、古典的なプレミアムカーとは異なる新しいプロポーションの提案が、ユーザーに受け入れられるかどうかは賭けの要素もある。
ただはっきり言えるのは、EVだからこそこうした新しいプロポーションを実現できるということだ。 先にも触れたが、EVはフロントにエンジンがないため、フロントフードを低く、短くできる。
驚くほどシンプルなインテリア
ボルボの新世代EVは、外観において従来のプレミアムカーとは一線を画すイメージとなっているが、その印象は室内に入っても続く。バッテリーを床下に搭載するぶんフロアの厚みは増すが、4輪駆動仕様でもプロペラシャフトがないので、床面はフラットな形状にできる。現行のXC90などに採用されるプラットフォーム「SPA(Scalable Product Architecture)」は、電動車両とエンジン車の両方に対応するため、中央の盛り上がったフロア形状を採用していた。電動車ではここにバッテリーを積み、4WDのエンジン車ではプロペラシャフトを通していたのだ。それが次世代EVは専用のプラットフォームを採用するため、エンジン車のことを考える必要がなくなり、EVに最適化できた。
インテリアのシンプルなさまも大きな特徴で、インストゥルメントパネルには、中央に配置された15インチの大型タッチパネルとドライバー正面の小型のメーターパネルのほかには、ほとんど何もない。この考え方は米テスラにも通じるものがある。また、イラストでは分からないが、インテリアには天然素材を多く用いることを想定しているようで、「スカンジナビアのリビングルームのような雰囲気を演出している」(ボルボ)という。
最後に、あらためて外観に戻ると、このコンセプトカーではルーフの前端中央に、LiDAR(Light Detecting and Ranging、レーザー光を使ったセンサー)が搭載されているのが目を引く。LiDARはすでに日本車でも最新の「ホンダ・レジェンド」や「レクサスLS」などに搭載車種が設定されているが、どちらもフロント監視用のLiDARはバンパーに目立たないように搭載されている。しかし、本来LiDARで広い視野を監視しようとすれば、高い位置に置くほうが望ましい。ボルボは、自社の次世代EVについて、米Luminar製のLiDARと米NVIDIA製の高性能半導体を搭載することも特徴として挙げているのだが、筆者にとってはこの選択も驚きだった。なぜ驚きだったのかは次回に解説したい。(次回に続く)
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=ボルボ・カーズ/編集=堀田剛資)

鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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