勝者はトヨタ……ではなくダイハツ!? 2021年上半期の国内販売にみる自動車業界の“今”
2021.07.23 デイリーコラム登録車のランキングはトヨタが上位を独占
2021年上半期(1~6月)の国内新車販売は合計246万4586台だった。これは前年同期比でいうと約12%のプラスと、数値的には大きな回復を見せた。前年にあたる2020年の上半期といえば、新型コロナウイルス感染症によって国内経済がもっとも大きな打撃を受けた時期に重なる。よって、回復すること自体は事前に予想されたことではあった。
ただし、専門用語でいうブランド通称名=いわゆる車名別の販売ランキングでは、ちょっとした異変が起きている。まず、軽自動車(以下、軽)を除く登録車の販売トップ10とその台数(カッコ内は前年同期比)は以下のとおりとなる。
1位:トヨタ・ヤリス 11万9112台(+147.5%)
2位:トヨタ・ルーミー 7万7492台(+106.0%)
3位:トヨタ・アルファード 5万6778台(+55.1%)
4位:トヨタ・カローラ 5万3864台(-5.9%)
5位:トヨタ・ハリアー 4万8271台(+250.6%)
6位:トヨタ・ライズ 4万7965台(-18.0%)
7位:日産ノート 4万6879台(+12.4%)
8位:トヨタ・ヴォクシー 4万1101台(+21.5%)
9位:ホンダ・フリード 3万5551台(-8.5%)
10位:トヨタ・シエンタ 3万3753台(-16.0%)
なんとトップ6までをトヨタ車が占め、しかもトップ10のうち8台がトヨタ車となった! ちなみに昨2020年の同期だと、トップ10内のトヨタ車は7台であり、3位には「ホンダ・フィット」、5位に「日産ノート」がランクインしていた。こうして見ると、もともと圧倒的なシェアをもっていたトヨタの強さに、ここ1年でさらに拍車がかかった感がある。それがひとつめの異変だ。
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軽自動車を含めても「トヨタ・ヤリス」がナンバーワンに
続いて軽の販売トップ10である。
1位:ホンダN-BOX 11万0551台(+9.0%)
2位:スズキ・スペーシア 7万8698台(+20.5%)
3位:ダイハツ・タント 6万9262台(+11.3%)
4位:ダイハツ・ムーヴ 5万7761台(+19.6%)
5位:日産ルークス 5万0055台(+109.9%)
6位:スズキ・ハスラー 4万8221台(+28.9%)
7位:スズキ・アルト 3万6359台(+18.9%)
8位:ダイハツ・ミラ 3万6159台(-4.6%)
9位:ダイハツ・タフト 3万2191台(+533.8%)
10位:日産デイズ 3万1558台(-42.9%)
10位の「日産デイズ」のマイナスが目立つが、これは「デイズ ルークス」が昨年3月のフルモデルチェンジを機に、車名を「ルークス」に改称。デイズの販売台数からルークスの分が外れたことが大きい。
で、登録車と軽を合わせた実際のトップ10は以下となる。
1位:トヨタ・ヤリス
2位:ホンダN-BOX
3位:スズキ・スペーシア
4位:トヨタ・ルーミー
5位:ダイハツ・タント
6位:ダイハツ・ムーヴ
7位:トヨタ・アルファード
8位:トヨタ・カローラ
9位:日産ルークス
10位:トヨタ・ハリアー
注目すべきは、2020年まで4年連続で新車販売のトップに君臨していた「ホンダN-BOX」が、この上半期の販売で「トヨタ・ヤリス」に1位を奪われたことだ。まあ、ヤリスの販売台数は5ドアハッチバックのヤリスに加えて、「ヤリス クロス」「GRヤリス」も含んだ数字なので、反則の疑念(笑)もなくはないが、いずれにしても、長きにわたるN-BOXの優位がくずれたことも、今期の異変のひとつである。
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“全店舗全車種とりあつかい開始”の影響は?
加えて注目するべきは、4位の「トヨタ・ルーミー」である。新型車でもないのに前年同期比で100%以上のプラス=2倍以上という急成長を見せているが、お気づきの向きも多いように、これにはウラがある。かつてのように双子車、三つ子車に販売台数が分散しなくなったか
このタンクの廃止は、トヨタが2020年5月にスタートさせた「全販売系列での全車種とりあつかい」の一環と考えていい。そんなルーミーだけでなく、昨年後半からの国内販売ランキングでトヨタの強さに拍車がかかったように見えるのは、こうした販売戦略の変更によるところが大きい。同じく新型車ではない「アルファード」が5割以上伸びたのも、双子車である「ヴェルファイア」の今期の急落(-54.7%)を見れば、その分のシェアを取り込んだからと考えるのが自然だ。
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国内市場に本気で取り組むダイハツの地力
ところで、ルーミーは実際の企画から開発、生産まで、クルマづくりのすべてをダイハツが担当する裏ダイハツ車(?)でもある。というわけで、ルーミーをあえてダイハツ車とすると、軽を含む新車販売トップ10のうちで、ダイハツ車はルーミー、「タント」「ムーヴ」と3台もランクインしていることになる。しかも、トヨタ・ルーミーの実績にダイハツ版である「トール」の今期販売台数(8289台)も加えると8万5781台(厳密には「スバル・ジャスティ」も加えるべきだが今回は割愛)となり、実質的には「スズキ・スペーシア」をぬいて3位となるのだ。
その意味でいえば、昨年上半期に飛ぶ鳥を落とす勢いだった「トヨタ・ライズ」も、ルーミーと同じ裏ダイハツ車だ。昨年の勢いがすごかった分だけ今期は-18%と落ち込みが大きく、ランキングは登録車の第6位。……少しさみしい気もするが、同じくダイハツ名義の「ロッキー」の販売台数(1万1220台)を加えると、今期は合計で5万9185台。裏ダイハツ車に配慮した実質販売ランキング(?)では、登録車で3位。全体でもタントとムーヴに割って入る6位だ!
こうして見ていくと、国内市場におけるトヨタの圧倒的な強さには、ダイハツの隠れた貢献が見た目以上に大きいことが分かる。それと同時に、軽も含めた実質国内販売ランキングを見るに、「ダイハツ強し!」と素直に思ってしまう。考えてみれば、今のダイハツの海外事業は実質的にインドネシアとマレーシアのみであり、彼らにとって国内市場はマジで生命線。ここで負けてはダイハツという企業の存続にかかわるということだろう。
最後に、昨年同期と比較すればV字回復に見える国内市場だが、さらに前年の2019年上半期と比較すると、依然としてマイナスのままなのが気になる。その最大の原因は半導体不足によってすべての自動車メーカーが生産調整を強いられているからだ。本来なら今期のランキングトップ10に飛び込んでいたはずの新型「ホンダ・ヴェゼル」の名前が見当たらないのも、じつは半導体不足のせいらしい。新型コロナに半導体……早く正常に戻ってほしいなあ。
(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車、ダイハツ工業、日産自動車、本田技研工業、webCG/編集=堀田剛資)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。