メルセデス・ベンツA250eセダン(FF/8AT)
驚速の大盛りカー 2021.07.28 試乗記 メルセデス・ベンツのFFセダン「Aクラス セダン」にプラグインハイブリッドモデルが登場。その環境性能に期待しつつ試乗した清水草一は、エコカーとは思えない、野蛮なほどのスポーティーさに驚かされたのだった。ニーズがないのにはワケがある
欧州の自動車業界は、プラグインハイブリッドとピュアEVの2本柱で、2035年までを生き抜こうとしている。現状、最低でもプラグインによる充電で25km以上走れないと、CO2排出量で、ほぼEUの課徴金の対象になってしまう。逆に“プラグインハイブリッド以上”なら多額の補助金(国によって異なります)が出る。つまり、プラグインハイブリッドが最低ライン。そこより上じゃないと生き残れない。開発に熱心なのは当然だ。
といってもそれは欧州での話で、日本の政策とは方針が異なる。日本はハイブリッド技術で世界を圧倒していることもあって、プラグインでない通常のハイブリッド車も“電動車”に含まれ、2035年以降も新車を販売できる。つまり日本では、「充電可能なクルマ」にしなければならない予定がない。よってプラグインハイブリッドへの欲求が圧倒的に低い。
かくいう私は、自宅でソーラー発電を行っていることもあって、プラグイン車には魅力を感じているが、それで節約できる金額を考えると急激になえる。災害による長期の停電に備えるため、「V2H(ビークルトゥホーム)」まで実現しようとすると、まるで割に合わない出費を強いられる。補助金を積まれてもまずペイしない。需要がないからコストも下がらない。そういう循環になっている。
これは欧州でも同様だと思うが、プラグインハイブリッドは、EV同様、まだなんらかの後押し(あるいは強制)がなければ需要がない商品だ。
日本におけるプラグインハイブリッド車のシェアは、2019年でわずか0.4%にすぎない。これはEVを下回り、通常のハイブリッド車の100分の1以下だが、まったく自然なことである。
プラグインハイブリッドとは思えぬスペック
そんななか、欧州の各メーカーは、続々とプラグインハイブリッド車を日本市場に投入しているが、正直、誰が買っているんだろう。値段も高すぎるし、全然割に合わないのに。EVに比べれば現実解のはずだけど、現実解なだけに中途半端さもあるという谷間にはまっている。
そこに登場した、メルセデス・ベンツAクラスのプラグインハイブリッドモデルが「A250e」だ。基本はセダンで、ハッチバックは注文生産になっている。今回試乗したのも、A250eセダンである。
Aクラス セダンのデザインは、よく言えばほほ笑ましいし、悪く言えばカッコ悪い。「なんでわざわざセダンにしたの?」と言いたくなるような、おまんじゅう体形だ。私は見た瞬間、トヨタの「プラッツ」や「ベルタ」(ともに絶版)を思い浮かべた。カッコ悪すぎて、逆に愛らしく感じた小型セダンたちである。つまり、A250eセダンも「愛らしい」ということになる。
そんな愛らしいA250eセダンだが、スペックを見ると驚かされる。エンジンは1.3リッターターボなので、ベースは「A180」のソレだが、エンジンのパワー/トルクが大幅に増強されている。パワーは136PSが160PSに、トルクは200N・mが250N・mにアップだ。本来CO2排出量の節約が目的のはずのプラグインハイブリッド車が、こんなにパワーアップしてるなんて! これはつまり、EVモードで50km以上の航続距離があれば、CO2排出量が3分の1にカウントされるがゆえの余裕である。
モーターの出力がまたすごい。102PS/300N・mだ。つまり、エンジンとモーターのパワー比率はおおむねイーブン。フロア下に搭載されるリチウムイオンバッテリーの容量は15.6kWh。EVモードによる航続距離は70.2km(WLTCモード)。24kWまでの直流急速充電(CHAdeMO規格)にも対応している。それでお値段は567万円。これは意外とお安いのではないだろうか?
このスペックを「プリウスPHV」と比較すると、エンジン/モーターの出力&トルク、バッテリー容量ともに、2倍まではいかないけれど、8割増しくらいのレベルにある。プリウスPHV(「Aプレミアム」グレード)の価格は401万円。パワーを考えれば、A250eはお買い得という計算になる。
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加速力はテスラのごとし
で、実際乗るとどうなのかというと、野蛮なほど速かった。
これだけパワフルなクルマがFFというだけで、今どきかなり野蛮だが、スペック通り、いやそれ以上の加速をみせる。
ドライブモードは6つも用意されていて、どれを選べばいいのかわからなくなるが、デフォルトは C(コンフォート)。それをあえてECO(エコ)に変更し、モーターでの走行を優先させても、発進ではモーターのみで軽くホイールスピンをかましてくれる。
S(スポーツ)に入れれば、そこにブーストアップされたエンジンのパワーも加わって、信号からの発進のたびに、映画『ワイルドスピード』のワンシーンみたいにもできる! エンジンフィールは、A180同様、ザラザラしていて気持ちよくはないが、ザラザラを感じさせるほど回す必要があるシーンはめったに、いや下手すると一生ないかもしれない。それくらい、モーターのトルクは強烈だ。
特に強烈なのが発進時だ。このフィーリングはまるでテスラ。テスラが全世界(日本を除く)で絶好調なのは、発進のたびにムチ打ちになるようなトルクの大きさがウケているのだと推察するが、それに学んだセッティングなのだろうか。こんなにホイールスピンするなんて、ひょっとしてグリップの低いエコタイヤを履いているのか? と思えば、サイズは225/45R18、銘柄は「ピレリ・チントゥラートP7」だった。
車両重量は1690kg(パノラミックスライディングルーフ装着車は1720kg)。A180の1370kgに比べると、実に320kgも重いが、加速に関しては、重さなどみじんも感じない。同時に試乗した「プジョー508SW GTハイブリッド」(同じくプラグイン)が非常に重く感じるクルマだっただけに、あまりにも対照的だった。
戦略的なエコ性能
コーナリングやブレーキングでは、そこそこ重さは感じるが、リアにバッテリーを積んでいて重量バランスは良好だ。ボディーや足まわりも、この重量をそれなりにうまくこなしている。
EL(Electric)モードに切り替えると、自動的にセーリングが使えるようになり、文字通りの滑空感を堪能できる。そのままモーターのみで140km/hまで出せるのは、130km/h制限がスタンダードな欧州向けらしい心遣いだ。
実際、A250eは、モーターのみで十分パワフル。エンジンは発電用に徹してもいいんじゃ? という気さえした。
しかし、それでは商品としての魅力に欠けると、メルセデスは判断したのだろう。プラグインハイブリッド車を積極的に買ってもらうためには、欧州での補助金込みの価格を想定したうえで、「このお値段で中身は大盛り!」に仕上げて勝負、ということではないだろうか。
EVでアウトバーンを飛ばすのは、航続距離が大幅に短くなるので無理筋だが、コイツならそれが十分可能。それでいてESG(環境・社会・企業統治)的にも投資適格になる。ということで、このおまんじゅうの大盛りカー、EUのカンパニーカー市場では、かなりの競争力を発揮しているのだろう。
で、燃費だが、満充電から163.8km走行し、バッテリーを使い果たしたうえで、約20km/リッターだった。欧州では「一日の平均走行距離は40km」なので、それはEVでカバーできるが、純粋なハイブリッド車としての燃費は10km/リッター強。いかに日本製ハイブリッド車の燃費がいいかを、あらためて痛感させられた。
(文=清水草一/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツA250eセダン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4560×1800×1460mm
ホイールベース:2730mm
車重:1720kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:160PS(118kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/1620-4000rpm
モーター最高出力:102PS(75kW)/--rpm
モーター最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)225/45R18 91W(ピレリ・チントゥラートP7)
ハイブリッド燃料消費率:16.1km/リッター(WLTCモード)
価格:567万円/テスト車=652万9000円
オプション装備:メタリックペイント(7万2000円)/ナビゲーションパッケージ(19万1000円)/AMGレザーエクスクルーシブパッケージ(21万3000円)/アドバンストパッケージ(21万3000円)/パノラミックスライディングルーフ<挟み込み防止機能付き>(17万円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:592km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:163.8km
使用燃料:8.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:20.0km/リッター(満タン法)/21.7km/リッター(車載燃費計計測値)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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