第654回:凍結路面での安心感がアップ ヨコハマの新型スタッドレスタイヤ「アイスガード7」の実力を体感
2021.07.29 エディターから一言![]() |
横浜ゴムは乗用車用スタッドレスタイヤ「iceGUARD(アイスガード)」の新商品「アイスガード7(iG70)」を、全89サイズ展開で2021年9月1日から順次発売すると発表した。アイスガード7は、「ヨコハマのスタッドレスタイヤ史上最高の氷上性能」をうたうアイテム。報道関係者向けに実施された、プリプロダクションモデルによる雪上試走会の模様をリポートする。
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史上最高性能をアップデート
ヨコハマのスタッドレスタイヤにおいて第7世代に位置づけられ、同時にアイスガードブランド誕生20周年の節目を飾るのがアイスガード7である。同社初のスタッドレスタイヤは1985年に誕生した「GUARDEX(ガーデックス)」だが、その技術をベースに「吸水ゴム」の新採用により氷上性能を大幅に向上させた「アイスガード」が2002年にデビュー。以来アイスガードは、綿々と進化を遂げてきた。
参考までにヨコハマの乗用車用スタッドレスタイヤの歴史を振り返ると、ガーデックス(1985年/第1世代)がガーデックスK2(1993年/第2世代)に進化し、その次の世代としてネーミングも新たに今に続くアイスガード(2002年/第3世代)が生まれた。
以降アイスガードは、アイスガードブラック(iG20/2005年/第3.5世代)からアイスガードトリプル(iG30/2008年/第4世代)へと進化。アイスガードトリプルプラス(iG30/2010年/第4.5世代)、アイスガード5(iG50/2012年/第5世代)、アイスガード5プラス(iG50/2015年/第5.5世代)、アイスガード6(iG60/2017年/第6世代)、そして今回のアイスガード7(iG70/2021年/第7世代)へと代を重ねてきた。
アイスガードというネーミングからもわかるように、このスタッドレスタイヤにおいてヨコハマがデビュー当初から注力してきたのは氷上性能である。第6世代となる先代のアイスガード6では「氷に効く」という性能に加え、「永く効く」「燃費に効く」がうたわれていた。その進化版たるアイスガード7では、先代の性能を基に、氷上性能と雪上性能をさらに進化させたという。
「安心感」を数値化
より具体的には、新デザインのトレッドパターンによるアイスガード史上最大となる接地面積とブロック剛性の確保、そして新開発された「ダブルエッジマイクログルーブ」が氷上性能をアップ。さらに新しい「マルチダイアゴナルグルーブ」と「トリプルライトニンググルーブ」で、こちらも歴代トップとなるエッジ量を確保。雪上性能をアップさせている。
スタッドレスタイヤで重要となる吸水性については、新開発のアイスガード7専用「ウルトラ吸水ゴム」の採用により、マイクロレベルの吸水効果をアップ。アイスガード6に使用されていた「プレミアム吸水ゴム」との比較では、吸水率が7%向上したと説明されている。
紹介されている性能数値の伸び幅は、氷上制動で14%、同発進で15%、同旋回で7%アップ、雪上制動で3%、同発進で3%アップ、同旋回で従来型と同等レベルとなる。「永く効く」では配合されるオレンジオイルSが4年後もゴムの柔らかさと摩擦力を維持し、加えてトレッド部分の50%摩耗時に表面に現れるサイプが太くなるよう形状が工夫されている。
さらにヨコハマでは「安心感」という、従来では数値化するのが難しかった要素を、開発指標に盛り込んだ。不安や驚きが軽減された状態を安心感の向上と位置づけ、AIによる乗員の表情分析や心拍数分析、心理分析などを導入して評価。安心感の向上を目指したと説明している。
その性能を試すために、アイスガード7の発売に先駆けて訪れたのが、北海道・旭川にあるヨコハマの「北海道タイヤテストセンター(TTCH)」である。同所を中心にアイスガード7のプリプロダクションモデルを用いて行われた試走会では、TTCHの氷上評価施設で発進・制動テストが、一般路を模した構内の雪上コースや一定間隔でパイロンが設置されたスラロームコースでハンドリングや加減速時の挙動を確かめることができた。
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“違い”がハッキリわかる
氷上での発進・制動テストでは、「トヨタ・プリウス」の4WD車に履かせたアイスガード6と7(タイヤサイズはいずれも195/65R15)の比較試走が行えた。「乗り比べしても新旧の差が出にくく、微妙な差だったらリポートに困りそう」という懸念は1本目のトライであっさり解消。約30km/hからのフル制動では、完全静止位置が目視できるほど手前となり、アイスガード7がうたう氷上性能14%アップの数字が大げさどころか控えめな数値ではないかと実感した。
しかし本当に感心するのはその先だった。完全静止の後、車両を発進。動き出しこそジワリという感じだが、すぐにスーッと加速しスムーズにスピードを上げていくのがアイスガード7。6は“スーッと”ではなく、徐々に加速していくという印象だった。スタート位置に戻るためコース内で旋回する際も(これはテスト項目に含まれていないものだが)、氷盤への食いつきはアイスガード7のほうが明らかにいい。その差は、例えば多くのドライバーがブラインドテストを行っても、“違い”として感じ取れるであろうものだ。
一般路を模した構内の雪上コースでは、異なる駆動方式の車両でアイスガード7の走りを確かめることができた。ステアリングインフォメーションが豊かなのは、駆動方式にかかわらないアイスガード7の美点。このセクションでの試乗車は「シトロエンC3」「プジョー508」がFF車、「スバル・レヴォーグ」「トヨタ・ハリアー」が4WD車で、個人的にはハリアーとアイスガード7との相性が抜群だと感じた。
比較的ウェイトが重く、セダンやハッチバックモデルよりも重心の高いSUVであっても、ブレーキング・旋回・加速というコーナー進入から脱出までの一連の操作が、ふらつきもなく実にスムーズにこなせたのは発見だった。
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リアルワールドでのフィーリングは?
そしてもうひとつ、例年であればTTCH内に限られた試走が、今回は半日近く一般道でも行えるというプログラムも用意されていた。ステアリングを握ったのは「トヨタ・カローラ スポーツ」の4WD車で、205/55R16サイズのアイスガード7が装着されていた。
気象条件や走行車両の影響で刻々と変化する降雪地の路面コンディションは、正直憂鬱(ゆううつ)になってしまうほどだが、スタッドレスタイヤのパフォーマンスを知るには絶好のステージである。試走の当日は、太陽が顔をのぞかせたかと思えばいきなり10m先も見えなくなるほどの吹雪に見舞われるなど、猫の目のように天候が変化した。
もちろん路面はドライからウエット、圧雪、シャーベット、アイスバーンに加え、右輪がツルツルに磨かれたミラーバーン、左輪がシャーベット状態となるわだちなどなど、その状況変化はさすがリアルワールドといった具合だったが、カローラの足取りはまったく乱れなかった。直進安定性が高く、雪道では当たり前となる路面の凸凹やうねりなどの外乱にも強い。
ノーマルタイヤと遜色のないレベルのステアリングインフォメーションや、しっかりとしたフィーリングが味わえるのもこの新作スタッドレスタイヤの特長だ。ヨコハマがアイスガード7のリリースにあたり歴代トップレベルのパフォーマンスに加え、安心感の向上を掲げるのも、むべなるかなである。
と、ここでスタッドレスタイヤにもかかわらず望外な乗り心地と静粛性が味わえていることに気づいた。ひと昔前のスタッドレスタイヤでお約束だったドライ路面における高周波ノイズや、腰くだけ感はしっかり抑えられている。気になる低燃費性能についても、転がり抵抗がヨコハマを代表するエコタイヤ「エコスES31」と同等(これは先代アイスガード6も同じ)と聞けば、そちらも期待ができそうだ。
(文=櫻井健一/写真=横浜ゴム/編集=櫻井健一)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。