第212回:宇宙の果ての向こう側
2021.08.02 カーマニア人間国宝への道ついに新型「アクア」登場
「トヨタ・アクア」というクルマは、カーマニアから最も遠いところに位置している。webCG読者で、アクアに熱視線を送っている方はほとんどいまい。つまり、宇宙の果ての向こう側だ。
が、私は違う。アクアにずっと熱い思いを抱いている。「フェラーリ328」と「ランボルギーニ・カウンタック」と「BMW 320d」と「ルノー・トゥインゴ」と「ダイハツ・ハイゼット トラック ジャンボ」を所有しつつも、アクアの動向は大いに気になっていた。
だから、「アクアは『ヤリス』と統合されるので次はない」という観測には、ひそかにココロを痛めてきた。それは、地元の駄菓子屋が閉店するような寂しさだった。
なにしろ私は10年前、発表と当時にアクアを新車で買い、4年半乗った男である。いや、発表前、予約受け付けが始まる当日、ディーラーの開店前に並んで予約したほど入れ込んだ。
いったいナゼ?
当時の私は、燃費に燃えていたからだ。
「プリウス」より小さくて軽いアクアは、プリウスより燃費がいいはず。つまり燃費世界一のはず! 世界一を手に入れずにおらりょうか! うおおおお!
デザインはどうにもダサく、内装はセンスゼロだったが、燃費のためならその他の要素はすべて犠牲にしても悔いはなかった。
そしてやってきたオレンジ色の初代アクアは、実は低重心で、驚くべきシャープなハンドリングを持つクルマだった。それは、当時私が乗っていた「フェラーリ458イタリア」と同種のもの。
私以外にアクアのハンドリングを高く評価したのは、私の知る限り、あの黒沢元治氏だけである。自慢。(注:アクアはマイチェンでサスをフニャフニャにした時期があったので、すべてのアクアのハンドリングが458イタリア似ではありません)
ディーラーにアクアを見に行く
実燃費ではプリウスにかなわず、世界一ではなかったが、私はアクアのハンドリングを愛した。愛した割に、家人がボディーをボコボコにぶつけまくっても、そのまま直さず乗り続けたが、それは、ボディーがボコボコでも、ハンドリングには影響がなかったからである。おかげで“ボコちゃん”というステキな愛称もついたのだった。
そんなアクアの新型がついに登場した。消える消えると言われていた割にはアッサリと、9年半にしてついにフルチェンジが行われた。
果たして新型アクア、どんなカッコなのか!?
写真を見た瞬間、私は「ええ~~~~っ!?」と絶叫した。ほとんど変わってないじゃないかぁ! 9年半ぶりの新型なのに超キープコンセプトかよぉ!!
9年半もあれば、フェラーリなら2回はフルモデルチェンジし、まるで違う形になる。実際458イタリアは「488GTB」になり「F8トリブート」になったが、新型アクアは先代アクアをほうふつとさせるのみ。ガックリ。あのデザイン、そんなに好評だったのかねぇ……。
しかしそれでも私は、10年前、朝イチで並んでアクアを買った男である。今回も遅まきながらディーラーに行ってみなければ男がすたる。
担当者に電話を入れると、試乗車はまだないけれど、ショールームに展示車があるという。人もクルマも見た目が8割。まずは初対面を果たそうじゃないか。
近所の東京トヨペット改めトヨタモビリティ東京のショールーム2階に上がると、そこにはブルーの新型アクアが待っていた。お花とかフーセンの飾りつけで顔がよく見えないが、間違いなくアクアだ。
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待ってろアクア!
担当者の「ハンコはお持ちいただけましたか?」等の発言を黙殺し、ボディーをいろいろな角度から観察したが、サイドパネルの抑揚を増し、スピード感をより強調している割に、全然速そうに見えないとでも申しましょうか。ボディーカラーも、ものすごく平凡なブルーで、なんともさえない。
ほかにどんな色があるのかとカタログを眺めれば、ステキな色が全然ない! どれもこれも地味で堅実で面白みゼロ! 初代にはオレンジや黄色があったのに、そんなの影も形もナイ! 唯一許せそうなのは「アーバンカーキ」だが、実車での確認が必要だ。
インテリアは黒一色で、これまた絶望的なほどフツー。超絶ウルトラつまらない。
しかし、しかしだ。このクルマは、ヤリス ハイブリッドとほぼ同じパワートレインを積み、燃費でも迫り、バイポーラ型ニッケル水素電池の採用によって40km/hまでEV走行を可能にしている。全高はヤリスより15mm低いので、重心も低いはず。なによりもヤリスみたいな毒虫顔じゃないのが、私としては加点対象である。
100V(合計1500W)の給電システムも標準装備。トヨタセーフティセンスも標準装備。サイドをボコボコにするのを防止する装置(周囲静止物対応パーキングサポート)も付けられる。アクアなら、老後のカーライフをほぼ完璧にサポートしてくれそうだ。コイツなら絶対的な抑えとして、ガソリンスタンドが消滅するまで働けるはず……。
エクステリアやインテリアの凡庸さにすぐ慣れるのは、初代アクアで経験済みだ。逆にそのダサさがかわいくて仕方なくなるのも経験済み。カーマニアがあえてウルトラ凡庸なイメージのクルマに乗るのも、意外性があってインパクトがデカい。すべて経験済みである。
とにかく、試乗しなくては! 待ってろアクア! 老後の友となるか否かは、オマエのハンドリング次第だぜ!
(文=清水草一/写真=清水草一、フェラーリ/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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