フェラーリ812GTS(前編)

2021.08.05 谷口信輝の新車試乗 谷口 信輝 今回レーシングドライバー谷口信輝が試乗するのは、12気筒エンジンを積むフェラーリのオープンスポーツカー「812GTS」。ワインディングロードにおける、ファーストタッチの印象は?

このユルさにはワケがある

「うわあああ、真っ赤っかだあ!」

フェラーリで最もゴージャスなV12エンジン搭載スパイダーである812GTSを目の当たりにしたとき、谷口信輝は思わずそう口にしていた。
「ボディーカラーは結構渋めのガンメタリックじゃないですか。だからインテリアも渋い色かなあと予想していたんですが、超ど派手な赤だったんですね。すっごい意外でした」

谷口が驚くのも無理はない。試乗車のインテリアカラーはまさに“真っ赤っか”。それもフェラーリでなければ到底、発色できない鮮やかな赤というか、少し朱色がかった赤一色で染め上げられているのだ。しかも、ごく一部のインテリアパーツがガンメタリックであることを除けば、どこもかしこもこの独特の赤で彩られている。思わず「真っ赤っかだあ!」と口にした谷口の気持ちはわからなくもない。

その、なんとも派手なキャビンをのぞき込みながら、谷口はこんなことを語り始めた。
「見るからにパフォーマンスが高そうなスポーツカーなのに、室内のスペースはわりと余裕があるというか、広いんですね。反対に、ここまで広いとヒザとかを車内に押しつけて体を固定するのが難しそうですね。ハードコーナリングするときは、そうやって体を落ち着かせるのが重要で、だからこそスポーツカーのコックピットって少しタイトめにつくられているんです」

続いて、谷口は812GTSのシートに滑り込んでから、こう語り始めた。
「このシート、見た目はホールド性が高そうだけれど、実際に座ってみると意外とゆったりしている。これも、ハードコーナリング中に体を支えてもらうには少し不利かもしれませんね。あと、センターコンソールのところにギアボックスのモードを選択するボタンが並んでいる部分がありますが、ここが浮き上がっていて裏側にすき間が設けられているのも、僕がイメージするスポーツカーとはちょっと違うなあ」

谷口が頭に思い描いているのは、おそらくスパルタンなスーパースポーツなのだろう。その種のモデルのインテリアは、機能的ではあるものの少し武骨で、スペースも限られている。つまり、走りだけに特化されたデザインで仕上げられていることが多い。いっぽう812GTSは、フェラーリ・ロードカーのなかでも最上級のパフォーマンスを誇るものの、実際はもっとゴージャスで優雅な使い方を想定しているように思う。ドライビングダイナミクスで有利なミドシップをあえて選ばず、キャビンのスペース効率の点で有利なフロントエンジンレイアウトを採用しているのは、まさにそうした理由からだと推測されるのだ。

 
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