新型も期待大! 世界中にわだちを刻む名クロカン「トヨタ・ランドクルーザー」への賛歌
2021.08.09 デイリーコラムイメージはあくまで「極地の仕事馬」
あれは昭和の終わりから平成の始まりにかけてのことだったと思うのだが、読者諸兄姉の皆さまは、日本にちょっとしたアフリカブームが起きたのをご記憶だろうか。幼少のみぎりゆえ、記者もオンタイムでそれに浸ったわけではないのだが、後に家の本棚や図書館の収蔵物などでブームを追体験。某動物写真家家族のポレポレ滞在記や、某わんぱく一家の2万km旅行記などを読んだものである……。
なんでこんな話をしたかというと、そうした本のなかにちょくちょく出てきていたのだ。「トヨタ・ランドクルーザー」が。さすがに内容はうろ覚えだが、たいていは何度も壊れながら(ことによっては壊れた状態を常態としながら)、日本人旅行家の移動を支えるべく奮闘するさまが描かれていた。思えばこれが、記者とランクルの初コンタクト(?)であり、またクルマもバイクもポンコツじゃないと気が済まない、悲しい性(さが)の遠因となっているのかもしれない。
余計な話はさておいて、上述のファーストインプレッションもあって、記者はランクルというと「デカい高級SUV」というより「極地の仕事馬」というイメージが強かった。サスペンションをだめにしながらも、土をかき分けて人や荷物を運び続ける。そんな絵面が似合うのは、ゲレンデでもジープでもなく、やっぱり「TOYOTA」マークがでーんと描かれたランクルだと思うのだ。
もちろんこれは記者の勝手なイメージなのだが、今日における実情もそんなには変わらないのではないかと思う。トヨタのブランドサイトに行けば、世界各地の「まじかよ」なエピソードが赤裸々につづられているし、テレビをつければ、「UN」や赤十字マークを掲げた白いランクルが今日もブッシュを漕(こ)いでいる。そういえば今春には、70系が世界で初めて世界保健機関(WHO)からワクチン保冷輸送車の医療機材品質認証を取得したという報もあったな。
つくづく、トヨタ・ランドクルーザーというのはスゴいクルマである。そして同時に、そんなクルマがご近所のファミリーカーとしてかいわいを走っているのを見ると、日本のマーケットって懐が深いというか、面白いなと思ったりもするのだ。
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資料に見る新型「ランクル」の本気度
さて、そんなトヨタ・ランドクルーザーだが、2021年8月2日にフルモデルチェンジ。新型の300系が誕生した。起源にあたる「トヨタジープBJ型」の誕生70周年……の、翌日のことである(なに? この微妙なタイムラグ)。モデルチェンジの内容については、事前にある程度公表されていたので読者諸兄姉ならご存じだろう(参照「トヨタが新型『ランドクルーザー』を発表」)。「日和(ひよ)ったクルマになるんじゃないの?」という一部ファンの危惧をよそに、潔いまでのキープコンセプトである。発表の数日前、ちょっと開発関係者のお話をオンラインで聞く機会があったのだが、そこでは何度も「どんな場所からも生きて帰るために」というフレーズがリフレインされていた。
車体構造は、モノコックはもちろんビルトインフレームでもなく、古式ゆかしきボディーオンフレームを踏襲。理由は「地面とヒットしてもボディーに被害が及ばないようにするため」とのことで、たとえ事故って壊れても、自分の足で帰れることが重視されているのだ。今どきマイルドハイブリッドの設定すらない件も、「どんな場所からでも生還できる安全性が担保できないから」と説明された。皆さんお察しの通り、車体の低い位置にバッテリーを搭載する電動車は、悪路走破や渡河に不向きである。これを克服する電動パワートレインは、さしものトヨタでも用意できなかったのだろう。
また多彩な電子制御についても、パワートレイン関連には過去のモデル由来の“枯れた”機器を採用。もちろん費用をケチったわけではなく、へき地でも活躍するランクルの整備性、部品調達のしやすさを考慮しての選定だそうだ。冒頭で触れた本のなかにも部品の入手で苦慮するくだりはあったし、そういえば現行型「スズキ・ジムニー」のときも、パワートレインの選定についてまったく同じ説明を聞かされた。こういうジャンルのクルマは、なんでもハイテクであればいいってもんではないのだ。
極めつけは、上級グレードに搭載される「操舵アクチュエーター付きパワーステアリング」だ。おおざっぱに言うと、なんと一台のクルマに油圧式と電動式の両方のパワーステアリングが付いているのである。なんでも、操舵支援式の運転支援システムを付けるためには、電動の操舵アシスト機構が必須→しかし電動パワステは耐久性が心もとない→だったら両方付けてしまおう。……という三段論法で行き着いた機構なのだとか。オマケで「電動パワステが壊れても油圧パワステで帰ってこられる」という“安心”も付いてきたという。なんというか、冗長性のスケールがでかすぎる。
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パーツの再版以外にもいろいろお願いしたい
このように、聞けば聞くほど新型ランクルは本分をおろそかにしていない。「どこへでも行けて、どこからでも帰ってこられる」ためのこだわりが徹底しているのだ。しかも、場所によっては枯れに枯れたV6自然吸気+6段AT仕様も販売するという。トヨタはよく、ランクルをして「地球が滅亡する日まで走っているクルマ」という表現を使うが、この“枯れ枯れ仕様”などは(70系と並んで)本当に地球最後の日まで走っていそうである。
しかし、どんなにタフなランクルでも、人類の滅亡を見届けるには補修部品が必須だ。そんなわけでトヨタは、新型ランクル発売の前日……こちらはBJ型誕生の“ジャスト70周年”にあたる2021年8月1日……に、「ランドクルーザー40系」の補修部品の再供給を発表した。(参照「トヨタが『ランドクルーザー40系』の部品を復刻」)
40系ランクルといえば、いまだ少なくない数が世界中に現存し、クラシックカーとしてはもちろん、現役のワークホースとしても活躍しているクロカン界の名車だ。生産期間は1960~1984年と実に24年。そのタフさから「トヨタ」と「ランドクルーザー」の名を世に知らしめ、トヨタの海外進出の橋頭堡(ほ)となった立役者である。そんなクルマをこれからも愛用してもらうべく、部品の復刻に踏み切ったトヨタの姿勢には、本当に拍手しかない。
そして同時に、オーナーでもないくせに「補修部品以外にも、いろいろ面倒みてもらえないかしらん?」なんてワガママが思い浮かんでしまった。例えば40系にはディーゼルエンジン搭載車もあるのだが、日本ではディーゼル車の運行規制によって、一部の都県で乗り入れや登録ができないのだ。トヨタが排ガス浄化キットを出してくれたら、助かる人は少なくないと思うのだが……。
この「日本における排ガス対応」というのはあくまでひとつの例なのだが、とにかくランクルは、飾っておくのが似合わない「働く姿こそ尊けれ」なクルマである。機械側の機能が損なわれていないのに、法規や環境の変化によってそれが使えなくなってしまうというのは、悲しいじゃないか。
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中古車かいわいでも聞かれる逸話の数々
件(くだん)の説明会にて、部品復刻プロジェクトを主導する小鑓貞嘉氏(長らくランクルシリーズの開発主査を務めていた御仁だ)にそれを尋ねたところ、「“数”の問題もあるが、長くクルマを使ってもらう観点でも、そうしたレトロフィットに要望があるなら取り組んでいきたい」とのことだった。
……などと書くと、「ファンの要望に耳を傾けるなんて、しょせんポーズでしょ」と斜に構える御仁もおられよう。しかし当プロジェクトに関してはさにあらず。40系ヘリテージパーツの公式ウェブサイトには、ファンやオーナーの声をすくい取るためのアンケートフォームが実際に設けられているのだ。そもそもこのプロジェクト自体、世界中のプロショップやオーナーズクラブと相談し、その結果をもとに復刻部品の準備を進めているのだとか。この辺もまた、世界各地で、さまざまなカタチで愛される、ランクルならではのエピソードといえるだろう。
あらためて、ランクルというのは他に例を見ない希有(けう)なクルマである。その血脈が次の時代に受け継がれるというだけでも、新しい300系を応援したい気分になるし、なんならちょっと欲しくなる。とはいえ、なかなかの高級車ゆえ、ひとやまいくらの民草(=記者)にはおいそれ手が出せないのも事実。仕方ないので中古車を検索してみよう。それこそ40系とか、日本だと低年式・過走行で敬遠されて安値なんじゃないの。……え? ウソ。まじでこんな高いの? ナナマルも? 先代の200系も?
最後の最後に茶番を入れて申し訳ない。ランクルは買ってもなかなか値落ちしない、オーナー孝行なクルマなのだ。かつて中古車媒体で碌(ろく)を食(は)んでいた記者も、専門店の店員さんから「過走行車でも海外に持っていけば売れる。壊れていても部品単位で値がつくから、強気で買い取れる」などという話を散々聞かされてきた。「高いクルマだし、どうしようかしら?」とためらっている御仁も、バンバン契約書にハンコを押してくださいな。
……え? この間までオーダーストップしてた? 納期がいつになるかわからない? さすがはランクル。こういうところでも希有なクルマである。
(webCGほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。