ルノーが中国ジーリーとハイブリッド車の開発で提携 協業の裏にあるしたたかな戦略とは?
2021.08.20 デイリーコラムルノーがアライアンスの約束をほごにした?
「なんでやねん」と思った人がいるかもしれない。2021年8月9日、ルノーが中国の浙江吉利控股集団(ジーリーホールディンググループ)と、ハイブリッド車(HEV)の合弁会社設立に向け枠組み合意したという発表についてである。
ルノーは日本の日産自動車および三菱自動車とアライアンスを組んでいることは説明不要だろう。そのアライアンスでは昨年(2020年)、特定の地域を「レファレンス地域」に指定する枠組みに合意している。具体的には、ルノーは欧州・ロシア・南米・北アフリカ、日産は中国・北米・日本、三菱はASEAN・オセアニアでそれぞれリーダー役を務めることになった。なのに、今回はルノーが単独で中国企業と提携を結ぼうとしているのだ。
しかも内容はHEVである。ルノーも欧州では「ルーテシア」にHEV、「キャプチャー」にプラグインハイブリッド車(PHEV)を設定しているが、経験からいけば日産や三菱のほうが豊富。なぜ日本の技術を使わないのか? という疑問を持つのは自然だろう。
ただ、これまでのアライアンスの経緯を見ても、プラットフォームの共用は進めた一方で、パワートレインについては臨機応変に開発を進めてきたことを思い出す。当初はガソリンエンジンを日産、ディーゼルエンジンをルノーが開発するという分担だった。しかしダイムラーとの提携が決まり、フォルクスワーゲンのディーゼルゲート事件が明るみに出、欧州のEVシフトが進むなかで状況が変わっていく。
現在、ルーテシアやキャプチャーが積んでいる1.3リッターターボのガソリンエンジンは、ルノーとダイムラーの共同開発だ。逆に日産の「e-POWER」は完全に日産側の独自開発である。ルノーと日産の企画や開発の担当者が、提携する相手の側で仕事をする機会が多いことは、主にルノーの取材で何度も教えられてきた。その結果、欧州と日本ではクルマの乗り方・使い方が違うことに気づき、パワートレインについては独自性を重んじる体制に変わっていったのかもしれない。
拡大 |
中国企業とHEVを共同開発することの合理性
また、今回の枠組み合意は中国と韓国を念頭に置いたものとのことだが、この2カ国でルノーの戦略がうまくいっていないことにも触れておくべきだろう。
中国では日産に続いて東風汽車グループとの合弁事業を始めたものの、結果を出せず、昨年提携を解消したばかりだ。しかし世界一のマーケットから撤退という決断を下すより、他のパートナーと組んで再出発しようという考えに至ったのではないか。
一方韓国は、日本ではあまり報道されていないが、現政権の労働組合を優遇する政策が裏目に出て多くの業界でストライキが頻発。GMが撤退を示唆するほどで、ルノーサムスンも大幅に生産台数を減らしている。とはいえ、減ったぶんを日産や三菱の輸出でまかなうのは、現在の日韓関係を見れば難しいのは明白であり、中国からの輸出に切り替えようという判断もまた納得できるものだ。
ルノーの電動化戦略といえば、2021年6月に発表した「Renault Eways ELECTROPOP(ルノー・イーウェイズ・エレクトロポップ)」と呼ばれる電動化戦略のなかで、HEVやPHEV向けの薄型モーターをスタートアップと共同開発する説明があった。しかしその後、欧州委員会が2035年にHEVはおろかPHEVまで含めたエンジン車の新車販売禁止を目標に掲げた。
一方の中国も、2035年をめどに新エネルギー車(EVとPHEV、燃料電池車)の普及を進めるものの、その販売比率は50%で、残りはHEVに代表される低燃費車としており、HEVの活躍の場はある。日本には日産や三菱がある以上、自身の技術を生かすのは中国ぐらいしかない。それに、中国や一部の新興国で販売するには“低価格”は不可欠要素であり、日本や欧州で開発・生産していてはパワートレインは高コストのまま、という危惧も感じているだろう。
そもそもフランスは、枠組みをつくるのがうまい。クルマの世界で言えばFIAがそうだし、欧州のEVシフトのきっかけになったのも、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)のパリ協定だ。
ルノー・日産・三菱のアライアンスも、そのひとつだと思っている。ガチガチの枠組みはなく、業界や社会の変化に対して柔軟に対応するし、支配するか否かというドイツ流と比べれば、メンバーが自主的に活躍できるフィールドは大きい。けれども主導権は自分(=ルノー)にある。そんなバックグラウンドを踏まえ、現在のルノーが置かれた状況を考えたとき、今回の報道に納得している自分がいることもたしかなのである。
(文=森口将之/写真=ルノーグループ、ジーリーオートグループ/編集=堀田剛資)
拡大 |

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
ホンダの「スーパーONE」はどんなカスタマーに向けたBEVなのか?NEW 2026.3.18 ホンダが2026年に発売を予定している「スーパーONE」は「N-ONE e:」をベースとした小型電気自動車だ。ブリスターフェンダーなどの専用装備でいかにも走りがよさそうな雰囲気が演出されているが、果たしてどんなカスタマーに向けた商品なのだろうか。
-
いまこそ、かき回したい! 新車で買えるおすすめMT車はこれだ! 2026.3.16 改良型「トヨタ・ヤリス」に、新たに6段MTモデルが設定された。現実的にMT車はレアであり、消滅する可能性もある時代だが……。これを機に、いま新車で買えるMT車のなかで、特におすすめできるモデルをピックアップしてみよう。
-
ルノーから新型車「フィランテ」が登場 仏韓中の協業が生んだ新たな旗艦はどんなクルマ? 2026.3.13 ルノーが韓国で新型クーペSUV「フィランテ」を世界初公開! 突如発表された新たな旗艦車種(?)は、どのようないきさつで誕生したのか? フランス、韓国、そして中国の協業が生んだニューモデルの概要と、そこに込められたルノーの狙いを解説する。
-
新型「リーフ」は日産の救世主になれるか BEVオーナーの見立ては? 2026.3.12 日産自動車は3代目となる電気自動車(BEV)「リーフ」の受注台数が、注文受け付け開始から約4カ月で6000台を超えたと明らかにした。その人気の秘密や特徴を、自らもBEVを所有するモータージャーナリスト生方 聡が解説する。
-
新型「RAV4 PHEV」が実現した「EV走行換算距離151km」を支える技術とは? 2026.3.11 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッドモデルではEV走行換算距離(WLTCモード)が前型の約1.5倍となる151kmに到達した。距離自体にもインパクトがあるが、果たしてこれほどの進化をどうやって実現したのか。技術的な側面から解説する。
-
NEW
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)/RAV4アドベンチャー(4WD/CVT)【試乗記】
2026.3.17試乗記「トヨタRAV4」が6代目へと進化。パワートレインやシャシーの進化を図ったほか、新たな開発環境を採用してクルマづくりのあり方から変えようとした意欲作である。ハイブリッドの「Z」と「アドベンチャー」を試す。 -
NEW
クルマの内装から「物理スイッチ」が消えてタッチパネルばかりになるのはどうしてか?
2026.3.17あの多田哲哉のクルマQ&A近年、多くのクルマの車内では、物理的なスイッチが電気式のタッチパネルに置き換えられている。それはなぜなのか? トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんに理由を聞いた。 -
いまこそ、かき回したい! 新車で買えるおすすめMT車はこれだ!
2026.3.16デイリーコラム改良型「トヨタ・ヤリス」に、新たに6段MTモデルが設定された。現実的にMT車はレアであり、消滅する可能性もある時代だが……。これを機に、いま新車で買えるMT車のなかで、特におすすめできるモデルをピックアップしてみよう。 -
第331回:デカいぞ「ルークス」
2026.3.16カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。首都高で新型「日産ルークス」の自然吸気モデルに試乗した。今、新車で購入される軽ハイトワゴンの8割はターボじゃないほうだと聞く。同じターボなしの愛車「ダイハツ・タント」と比較しつつ、カーマニア目線でチェックした。 -
ポルシェ・タイカンGTS(後編)
2026.3.15思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「ポルシェ・タイカン」に試乗。後編ではコーナリングマシンとしての評価を聞く。山野は最新の「GTS」に、普通のクルマとはだいぶ違う特性を感じているようだ。 -
アストンマーティン・ヴァンキッシュ ヴォランテ(FR/8AT)【試乗記】
2026.3.14試乗記英国の名門、アストンマーティンの旗艦車種「ヴァンキッシュ」に、待望の「ヴォランテ」が登場。5.2リッターV12エンジンを搭載した最上級コンバーチブルは、妥協のないパフォーマンスと爽快なオープンエアのドライブ体験を、完璧に両立した一台となっていた。































