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日産&三菱が軽EVの投入を発表 “短距離・低価格”はEV普及の起爆剤となるか?

2021.09.10 デイリーコラム 佐野 弘宗

発表の内容から新型軽EVの姿を読み解く

日産と三菱は2021年8月27日、共同開発中の軽自動車(以下、軽)規格の新型電気自動車(EV)を、2022年度初頭に発売すると発表した。軽乗用EVとしては、「三菱i-MiEV」に続く史上2例目となる。発表によると、新型軽EVの車体サイズは全長×全幅×全高=3395×1475×1655~1670mm、電池容量は20kWh、2021年度と同額の補助金を想定した実質購入価格は、約200万円……とされている。

新型軽EVも、全長と全幅は当然のように軽規格枠いっぱいである。そのうえで全高が1655~1670mmということは、基本プロポーションは「日産デイズ」や「三菱eKワゴン/eKクロス」と同等のハイトワゴンであることを意味する。

かつてのi-MiEVは16kWhの電池を積んで、一充電航続距離はJC08モードで最大180kmをうたっていた。新型軽EVの電池容量は20kWhなので、低電費技術の向上も見込むとWLTCモードで200km弱といったところか。

EVなどに支給される基本的な補助金(CEV補助金)は、航続距離や外部給電機能の有無に応じて、クルマごとに決まっている。厳密な計算式は公表されていないが、実例を見ると航続距離100kmあたり10万円前後(で、最大40万円)、さらに外部給電機能が付くと2万円上乗せとなっている。

三菱のプレスリリースに「新型軽EVにも日常での走行に十分な容量を確保するとともに、万が一の際は、蓄えた電力をV2H機器を介して家庭へ供給するなど、非常用電源としても活用できます」とあるので、外部給電機能が少なくともオプションでは用意されるのだろう。となると、想定されるCEV補助金は20~22万円。それを差し引いた実質価格が約200万円ならば、新型軽EVの本体価格は220万円強になるようだ。

日産が2019年の東京モーターショーで発表したコンセプトカー「IMk」。軽ハイトワゴンのEVだった。
日産が2019年の東京モーターショーで発表したコンセプトカー「IMk」。軽ハイトワゴンのEVだった。拡大
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本当にEVを必要としているユーザーは?

もっとも、CEV補助金は全国共通の“基礎補助金”ともいうべきもので、ほかにも自治体独自の補助金や、同時に充放電設備や再エネを導入した場合の購入補助制度が存在する。居住地域や購入時期によっては数十万円レベルの補助金や優遇を上乗せできる可能性もあり、うまく立ち回れば、実質購入価格を150万円以下にできるかもしれない。

i-MiEV最終型の本体価格は300万円をわずかに超えており、2021年度のCEV補助金は15万1000円だった。現在、一般購入できるEVでもっとも手ごろなのは「日産リーフ」の最安価グレード「S」で、本体価格332万6400円(本年度CEV補助金は38万8000円)である。こうして見ると、新型軽EVはなるほど破格の安さといっていい。

ただし、新型軽EVのカタログ航続距離が予想どおり「WLTCモードで200km弱」なら、エアコンやヒーターを普通に使っての実質航続距離は100km強から150km程度といったところか。やれ一充電で500kmだ600kmだと争っている最新高性能EVとは比較にならないし、従来型のファーストカーとしては明らかに物足りない。そもそも、現在のエンジン車やハイブリッド車と単純比較されて、「航続距離が~、充電時間が~」といわれるうちは、おそらくEVは普及しないだろう。

しかし200万円以下、まして150万円で買える軽EVが出てくれば、話はちがってくる……と筆者個人は考える。おそらく、今の日本で最初にEVを切実に必要とするのは、都市からはなれた地方や離島のユーザー、そして高齢者だろうからだ。

いうまでもなく、軽はニッポンの庶民のアシだ。地方ではまさしく自転車がわりとして使われている。また、1~2人暮らしの高齢者の方々にとっては、買い物や金融機関・医療機関に出かけるためのライフラインだ。そうした典型的な軽の使い方なら、一充電航続距離は100kmでも十分すぎるほどである。

今、日本で購入できる乗用EVのなかでは、もっとも手ごろな価格の「日産リーフS」。バッテリー容量は40kWhで、一充電走行可能距離は322km(WLTCモード)。価格は332万6400円である。
今、日本で購入できる乗用EVのなかでは、もっとも手ごろな価格の「日産リーフS」。バッテリー容量は40kWhで、一充電走行可能距離は322km(WLTCモード)。価格は332万6400円である。拡大

ピーク時の半数にまで減ったガソリンスタンド

それに、おそらくは多くの皆さんが実感しているように、日本ではガソリンスタンドがどんどん減っている。資源エネルギー庁によると、ピーク時の1994年に全国で6万カ所を上回っていたその数は、2020年度末時点でついに3万カ所を割ったという。二十数年で半数以下。激減である。

ガソリンスタンドが減少した理由は明確である。少子高齢化と、自動車の平均燃費の向上だ。

戦後は一貫して右肩上がりだった国内自動車保有台数(二輪車を含む)は、ガソリンスタンド数がピークだった1994年あたりから伸びが鈍化しはじめて、7900万台を超えた2007年を境にほぼ横ばいとなった。厳密にはそこからも微増はしており、2020年のそれは約8185万台に達しているのだが、それもあと3~5年で減少トレンドに転換する……と予測する向きが多い。

2020年現在の国内保有台数は1994年比で約1.23倍なのに、ガソリンスタンドが半減しているということは、雑にいうと、世のなかのクルマの実用平均燃費が2倍以上に改善していることになるわけだ(まあ、実際には一台あたりの年間走行距離も減少しているのだが)。

急速に減少を続けるガソリンスタンド。あるいは日本におけるEVの普及は、「近所にガソリンスタンドがなくなった」という切実な理由を持つユーザーから進んでいくのかもしれない。
急速に減少を続けるガソリンスタンド。あるいは日本におけるEVの普及は、「近所にガソリンスタンドがなくなった」という切実な理由を持つユーザーから進んでいくのかもしれない。拡大

ガソリンスタンドのない場所にも電線は伸びている

いずれにせよ、ガソリンスタンドが減った直接の原因は需要の減少であり、全国でならせば需給バランスはとれているのだろう。しかし、新型コロナウイルスのワクチン不足からも分かるように、実社会では往々にしてモノは偏在してしまう。実際、都市部では給油に困ることはまずないが、山間部の高齢者などは「給油のためだけに、片道数時間のドライブを強いられる」なんてケースもあると聞く。そうはいっても、今の日本でガソリンスタンドがふたたび増える見込みはほぼない。また、知っている人も多いように、沖縄県を含めた離島のガソリン価格は総じて高い。

どんな地方や離島でも、電気だけはスミズミまで安定供給される日本である。そうした場所では間違いなく、ガソリン車よりEVのほうがはるかに便利なはずだ。なのに、これまでの市販EVは都市部の新しモノ好きを対象にしたマーケティングをしてきた。これではEVが普及しないのは当たり前?

いっぽうで、今回の新型軽EVは、そうしたEVのメリットを享受できる地方在住者や高齢者が購入したいと思う、最初のEVとなるかもしれない。その意味では、i-MiEVはちょっと登場が早すぎたか?

(文=佐野弘宗/写真=日産自動車、三菱自動車/編集=堀田剛資)

世界初の「普通の人が普通に買えるEV」として、2010年4月に発売された「三菱MiEV」。今から思えば、その登場はやや早すぎたのかもしれない。
世界初の「普通の人が普通に買えるEV」として、2010年4月に発売された「三菱MiEV」。今から思えば、その登場はやや早すぎたのかもしれない。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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