トヨタ・ランドクルーザーGRスポーツ(4WD/10AT)
身も心も揺さぶられる 2021.11.10 試乗記 14年ぶりのフルモデルチェンジでフレームシャシーからすべてが刷新された「トヨタ・ランドクルーザー」。ランクルの本質とされる信頼性と耐久性、悪路走破性は最新装備によってどれだけ強化されているのだろうか。「GRスポーツ」のディーゼルモデルに試乗した。ワークスラリーのベース車両
トヨタ公式ウェブサイトで新型ランドクルーザー(ランクル300)のページを開くと、いきなり「納期目途に関するご案内」がトップに表示される。それによると「お車をお届けするのに多大な時間を要する見通し」で、今からの注文だと納期は2年以上の見込み、注文済みでも場合によっては2年以上……と書かれている。2年という目安が一応は書かれているが、これは事実上「現時点での納期はまったくの未定」ということだろう。
ランクルの価格や性格から考えて、いきなり大量のバックオーダーを抱えようと、最終組み立てを担当するトヨタ車体としてはいきなり大量生産体制を敷くわけにいかないだろう。先代(ランクル200)の実績では、売り上げ全体の6割が中東向けで、豪州やロシアがそれに続き、日本市場は1割にも満たない。いかに自国市場といえども、貴重なタマをすべて回すわけにもいくまい。
今回の試乗車は新型ランクルで初めて設定された役物スポーツモデルのGRスポーツである。ただ、これは舗装路でゴリゴリにぶっ飛ばすことを想定したものではなく、むしろ正反対。専用部分はすべて砂漠を含む悪路走破性を高めるためのもので、2023年以降のトヨタ車体ワークスのダカールラリー車両も、このGRスポーツがベースになるという。
というわけで、GRスポーツ本来の想定顧客は筋金入りのオフロードマニアであり、ライトな一般顧客層には豪華快適装備満載の「ZX」か、それより装備は少し落ちるが「操舵アクチュエーター付き油圧パワーステアリング」(と、それによる車線維持支援機能)を備えた「VX」あたりが無難だろう。しかし「フロントグリルの“TOYOTA”ロゴに『60』や『80』、『70プラド』といった歴代ランクルの面影を感じ取って、悪路は走らないけど、あえてGRスポーツを選ぶお客さまもいらっしゃるようです」とはトヨタ担当者の弁である。
サイズとホイールベースは不変
普通のSUVよりさらに小高いランクル300のコックピットは見晴らしが素晴らしい。その下にあるV型エンジンをイメージさせるツインバルジ形状のフロントフードは、歩行者保護用のクラッシャブルストロークを稼ぎつつ、前方や左右の下方死角を確保するために先代=ランクル200の後期型から採用された特徴的な意匠だ。さらに、センターディスプレイも含めて水平一直線に見せるダッシュボードもあって、車両感覚はドンピシャに把握しやすいが、テールランプの角がサイドミラーで視認できなくなったのはちょっと残念だ。
全長や全幅、ホイールベースは従来値を維持(GRスポーツのみ全幅が10mm大きい)して、独立ラダーフレームやリアリジッドアクスルを含む基本レイアウトも先代から継承されている。
求められる実用性と悪路走破性を守るには、このサイズとホイールベースは変えようのない“黄金律”だそうである。また「どこへでも行き、必ず帰って来られる」というランクル最大の存在意義に対しては、頑強で修復性が高く、さらに「万が一上屋が破壊されても、走ることだけは可能」な独立ラダーフレーム構造を捨てるわけにはいかない。
サイズや基本構造はこれまでどおりでも、ランクル300は「TNGA」のもとで基本骨格から新開発されている。その効果は大幅な軽量化(新旧のZXガソリン車で比較すると、300は160kgも軽くなっている)のほか、ドラポジの改善で顕著だ。より自然で無理のない着座姿勢になっただけでなく、ステアリングのリーチ調整がグッと手前まで引けるようになったのはトヨタ車ではめずらしい美点だし、左足フットレストの角度や形状もピタリと踏ん張りがきく絶妙なものになった。
“80”を上回る悪路走破性
歴代最強の悪路性能を掲げるGRスポーツのアシまわりは、(あのランクル80をついに超えたというホイールアーティキュレーションを含む)ランクル300の基本フィジカル性能に加えて、あえて18インチサイズにとどめたオールテレインタイヤと連続可変ダンパーの「AVS(アダプティブバリアブルサスペンション)」そして「E-KDSS」を備える。
ちなみに、ホイールアーティキュレーションとは、サスペンションの前後逆位相でのストローク量=タイヤの路面からの浮きにくさのことで、伸び側ストロークをたっぷり確保できるリジッドが絶対的に有利となる。しかし、ランクル300はフロントが独立懸架式となって以降のランクルとしては初めて、前後リジッドの80のそれをついに超えたという。
今回初登場のE-KDSSは先代の「KDSS(キネティックダイナミックサスペンションシステム)」と同様に、悪路では邪魔になるスタビライザーを必要に応じて、いわば“脱臼”させて無効化する機能である。
従来のKDSSは前後のスタビを油圧で連関させて、前後同方向(=同位相)にロールしたときには“オンロードで旋回中”と判断してスタビを利かせるいっぽうで、前後逆方向(逆位相)にロールしたときには“オフロード”だと判断してスタビをキャンセルする機構だった。対して、新しいE-KDSSでは、前後スタビは独立して完全電子制御化された。
E-KDSSはマルチテレインセレクトやドライブモードセレクト、トランスファーなどの設定のほか、路面状況や舵角、クルマにかかるGなどの情報も使いつつ、リアルタイムでキメ細かく制御される。だから、過酷な悪路でスタビがキャンセルされるのは当然だが、普通の舗装路でも、たとえば直進時などはスタビがキャンセルされるという。
一長一短のガソリンとディーゼル
今回の試乗では残念ながら悪路らしい悪路に踏み入れることはできなかったので、そっち方面の話は先日のオフロード試乗リポートにゆずる。しかし、オンロードの乗り心地においても、GRスポーツはZXその他のグレードより快適といっていい。それには穏当なタイヤサイズやAVSに加えて、E-KDSSの効果も大きいと思われる。街なかでより軽快に動くのは20インチのZXだが、動きが素直で快適なGRスポーツのほうが、トータルでは好印象だ。
また、ステアリングフィールも大幅に改善しており、舗装路ではフロント・ダブルウイッシュボーンのしなやかな接地感が鮮明に伝わってくる。パワステもはっきりと軽い。
GRスポーツも含めた上級グレードでは、信頼性と耐久性が実証済みの油圧式に、コラム電動アシストを上乗せした操舵アクチュエーター付きパワーステアリングを使う。その主たる目的は電動で緻密に制御する「レーントレースアシスト」のためだそうだが、同時に悪路でのキックバック低減や、通常時のステアリングフィールの改善、交差点などでの戻し側のアシストにも使われているらしい。
ロードノイズを観察すると静粛性がかなり向上しているようだが、良くも悪くも頼もしい(≒騒々しい)ディーゼルサウンドはどうしても目立つ。トヨタ広報部によると、先代からの代替需要が多い現時点での国内オーダー状況は「ZXのガソリン車が全体の半分以上」というが、クルマの性格や経済性を考えると、日本ではディーゼルが主力になっていくと考えられる。
ただ、実際に乗り比べると、静粛性や回転の滑らかさ、さらに過給ラグの少ないリニアなレスポンスなど、悪路も含めてガソリンターボの完成度にも光るものがある。はっきりいうと、走行性能だけなら個人的にはガソリン車に軍配を上げたいところで、実際に購入するとなると、かなり悩ましい。
ホンモノは甘くない
このGRスポーツが(ランクルとしては)いかに乗り心地よく、舗装路で洗練されたといっても、市井の乗用車ベースのSUVとは出自と存在意義が異なるのは、ステアリングを握っていればいや応なく伝わってくる。
乗用SUVと比較すると、操作に対してクルマが0.5テンポほど遅れて動くのは、独立フレーム構造では避けられない。整った路面ではフワリと滑らかなフットワークも、連続して蹴り上げてくるような凹凸に遭遇すれば、とたんにゴトつくのはリジッドアクスルの宿命だ。
AVSを柔らかな「コンフォート」モードにすれば、良路では確かにしなやかになるが、連続する凹凸ではズンズンという突き上げが隠しきれないし、全体に動きが鷹揚すぎる感もある。そこでドライブモードを「ノーマル」や「スポーツS」、そして「スポーツS+」と引き上げると、上下動は確かに減る。ただし、突き上げもズンズンからドコドコ、そしてズドドド……と素直に強まっていく。市街地や高速では、AVSを引き締めるほどただ乗り心地が悪くなるだけにしか思えない(笑)。
もっとも、山坂道だとコンフォートでは動きが緩慢すぎるので、AVSを引き締めるほどターンインが速まり、コーナリングを楽しめるかどうかはともかく、少なくとも走るのがラクになる。ここでもロールが印象的に小さいのは、E-KDSSがきちんと働いている証拠だろう。
日本の一般ユーザーにとって、ランクル300の悪路性能ははっきりいって宝の持ち腐れであり、そのために乗り心地や燃費、操縦性など犠牲になっている部分も少なくない。つまるところ、このクルマを購入して普段使いするのは、ニュル最速スーパースポーツを街乗りするのと基本的に同じ行為といっていい。まあ、ミドシップスーパーカーやセミレーシングカーみたいなシロモノよりは、ランクルのほうが利便性や世間体、信頼性ははるかにマシではあるが……。
ただし、ランクル300、しかもこのGRスポーツの現時点での注目度たるや、そこいらのスーパーカーの比ではない。今回の取材中も高速のSA/PAに短時間止めておくだけで囲まれてしまうこと複数回、そして周囲からの視線が常に痛かった。購入希望の向きは納期だけでなく、その点も覚悟しておくべき?
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
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テスト車のデータ
トヨタ・ランドクルーザーGRスポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4995×1990×1925mm
ホイールベース:2850mm
車重:2600kg
駆動方式:4WD
ンジン:3.3リッターV6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:10段AT
最高出力:309PS(227kW)/4000rpm
最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)/1600-2600rpm
タイヤ:(前)265/65R18 114V M+S/(後)265/65R18 114V M+S(ダンロップ・グラントレックAT23)
燃費:9.7km/リッター(WLTCモード)
価格:800万円/テスト車=895万5350円
オプション装備:ボディーカラー<プレシャスホワイトパール>(5万5000円)/タイヤ空気圧警報システム<TPWS>(2万2000円)/ITS Connect(2万7500円)/マルチテレインモニター+T-Connectナビゲーションシステム<12.3インチディスプレイ[トヨタマルチオペレーションタッチ]+FM多重VICS[VICS WIDE対応]+オーディオ[Blu-ray、DVD、CD、microSD、AM/FM(ワイドFM対応)、サラウンドライブラリー、USB入力端子、地上デジタルTV]+スマートフォン連携[SDL(Smart Device Link)、Apple CarPlay、Android Auto対応]+T-Connect[ヘルプネット、eケア、マイカーサーチ]+ETC 2.0ユニット[VICS対応]+Bluetooth対応[ハンズフリー・オーディオ]+音声認証、Miracast対応、Wi-Fi対応>+JBLプレミアムサウンドシステム<14スピーカー/JBL専用12chアンプ>(45万7600円)/ルーフレール<ブラック>(3万3000円)/リアエンターテインメントシステム<後席11.6インチFHDディスプレイ×2+HDMI端子>(17万4900円)/寒冷地仕様<LEDリアフォグランプ+カメラ洗浄機能+ウインドシールドデアイサー+PTC[補助]ヒーター他>(3万1900円)/ヒッチメンバー(7万7000円) ※以下、販売店オプション カメラ一体型ドライブレコーダー(2万1450円)/GRフロアマット(3万4100円)/GRラゲッジマット(2万0900円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:4044km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:438.7km
使用燃料:55.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.9km/リッター(満タン法)/8.0km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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