スバル・レヴォーグSTI Sport R EXプロトタイプ(4WD/CVT)
間違いなくベスト 2021.11.27 試乗記 スバルの中核モデルとなったワゴン「レヴォーグ」に、2.4リッターエンジンを積む高性能バージョンが登場。「既存の1.8リッターモデルのオーナーは知らないほうがいい」と思えるほどの、走りのクオリティーとは?特筆すべきはバランスの良さ
新型「WRX S4」の試乗に合わせて、会場の袖ケ浦フォレストレースウェイに用意された、1台のレヴォーグ。これにはWRX S4と同じパワートレインが搭載され、「STI Sport R」というグレード名が与えられていた。
レヴォーグといえばこれまでのトップグレードにも「STI Sport」の名が冠されていたが、これと「R」との最大の違いは1.8リッター直噴ターボ「CB18」エンジンが2.4リッターの直噴ターボユニット「FA24」へと置き換えられていることである。この高出力化に伴って、CVTも強化型に。また、その4WD制御もセンターデフを持つVTDとなった。つまり、WRX S4の中身をまるっと移植した、スペシャルなレヴォーグというわけである。
さてそんなレヴォーグSTI Sport R(プロトタイプ)をサーキットで走らせたわけだが、WRX S4よりむしろこちらが今回の主役ではないか? と思えるほどの仕上がりの良さだった。
自分で「スペシャルなレヴォーグ」なんて言っておいてなんだが、その加速感は驚くほどではない。ちなみにそのアウトプットはWRX S4(最高出力275PS/最大トルク375N・m)と全くの同値なのだが、これがシャシーと実にうまくバランスしているのである。
空は快晴ながら路面はたっぷりとぬれている、ダンプなコンディション。この難しい路面でレヴォーグSTI Sport Rは、アウトラップからいきなり高い接地感を発揮した。アウト/インラップ含めて4周しかない状況のなか、筆者はいきなり「スポーツ」モードでダンパーの減衰力を高めてコースに出たのだが、1コーナーに向かうピットレーンから、ゆっくりとハンドルを切り始めただけで、タイヤが路面をつかむ様子がよくわかったのだ。
そのハンドリングは、コースに出ても変わらなかった。ブレーキングからターンインにかけて、例えばWRX S4なら荷重が素早く移動し過ぎて、リアがスーッと流れていくような場面でもレヴォーグのSTI Sport Rは、その動きがとても穏やかである。それどころかハンドルを切り込んでいくほどに手応えが増し、走りの上質感が高まる。たとえ、リアが突然滑り出すスナップオーバーステアが出ても、その流れ出しが緩やかだから、アクセル操作で姿勢を整えていくことができる。
この優しい操縦性には、ひとつはセダンであるWRXに比べてボディー剛性がやや低いことが起因している。剛性が低いことが良いわけではなく、そのボディーに対して、足まわりとタイヤの剛性バランスがぴったり合わせ込まれている点が良いのである。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
まさにスポーツワゴン
過渡領域における4輪制御も、思わず顔がにやけてしまうほど優秀だ。欲を言えば「スポーツ+」モードではもう少し後輪への伝達トルクを引き上げて、アクセルで大胆に姿勢をコントロールしていければ面白いが、ともかく4輪すべてを使って絶妙なスリップアングルを保つことができる。そして不要なオーバーステアを出さず、前へ前へと進んでいく走りが、スバルの思想なのだと実感する。
このすべての動きがつながっている感じは、たまらなく上質である。そしてこれは、単にシャシーの出来の良さによるものでなく、電子制御でリニアリティーを高めたターボと、新型CVTの連携が実現させている面もある。アクセルの開閉にトルクをきちんと追従させて、ペダルを踏み切っても唐突にブーストを上げることなく、しかし有段のシフトフィールでメリハリのある加速が実現できている。
こうしたレスポンスとパワーの両立も、スポーツカーであるWRXであれば当たり前のこととして評価されるだろう。しかしステーションワゴンであるレヴォーグでこれを体感すると、とってもぜいたくに感じられる。
これは1.8リッターのSTI Sportを購入したオーナーが乗り比べたら、かなり悔しい思いをするのではないだろうか。当然価格には違いが出るが、これは間違いなくレヴォーグのベスト。その走りはかなり洗練されたけれど、「レガシィツーリングワゴン」の消滅により絶えていたスポーツワゴンの復活といっていい。
欲を言えば、北米市場では展開されている6段MTもラインナップされていると、さらにいい。数が見込めないというのならば、受注生産でもいいだろう。こういうのは、メーカーのやる気が大切なのだ。
(文=山田弘樹/写真=スバル、荒川正幸/編集=関 顕也)
![]() |
【スペック】
全長×全幅×全高=4755×1795×1500mm/ホイールベース=2670mm/車重=1630kg/駆動方式=4WD/エンジン=2.4リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ(最高出力:275PS/5600rpm、最大トルク:375N・m/2000-4800rpm)/トランスミッション=CVT/燃費=11.0km/リッター(WLTCモード)/価格=477万4000円(※市販車両の車両本体価格)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。