メルセデス・ベンツC220d 4MATICオールテレイン(4WD/9AT)
車高も上がれば気分もアガる 2021.12.02 試乗記 「Eクラス」に続き登場した「Cクラス オールテレイン」。メルセデス・ベンツ伝統のステーションワゴンフォルムとSUVの走破性を融合させたというクロスオーバーモデルの走りを、日本上陸を前にドイツ本国で確かめた。都市部での使い勝手も良好
今でこそ水も漏らさぬSUVラインナップを敷くメルセデスだが、彼らのレジャービークルの歴史を語るうえで外せないのがステーションワゴンだ。
その源流は「ポントン」と呼ばれた50年代のW121にさかのぼり、60年代のW110や70年代のW114などにもワゴンボディーは存在していた。が、それらの多くはカロッセリー(ドイツ語でカロッツェリアの意味)が手がけたものであり、メルセデスが型式名称を与えて自ら開発から手がけるようになったモデルは、1977年に登場したS123が最初だといわれている。
以来、ミディアムクラスからEクラスへと名前が変われど、ステーションワゴンの系譜は守り続けられてきた。そして1994年にはCクラスにもステーションワゴンが設定され、現在に続くフォーメーションが出来上がったというわけだ。
そのステーションワゴンをベースに、最低地上高を上げて悪路走破の適性を高めたオールテレインがEクラスに設定されたのは2017年のこと。「スバル・レガシィ アウトバック」や「アウディ・オールロードクワトロ」、「ボルボV70 XC」などが先駆けたコンセプトを遅ればせながら採用した理由は、もちろんSUV的な選択肢をより強固なものとするということだろう。が、一方で、さしものメルセデスもSUVに食われて先細りするワゴン市場に、老舗としてなんらかの一手を打ちたいという思いがあるのかなという気もしなくもない。
そして恐らくはフルモデルチェンジを待っていたのだろう、いよいよCクラスにもオールテレインが設定された。まずはそのサイズだが、ベースとなったS206型ステーションワゴンと比べてみると全長が4mm、全幅が21mm、全高が39mm、おのおの大きい。が、それでも全幅は1850mm、全高は1550mm以内に収まっているため、都市部の比較的新しい立体駐車場なら収められるかもという寸法だ。
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充実のオフロード向け電子デバイス
搭載されるパワートレインは、既に日本仕様の新型Cクラスに用意されているものだ。ガソリン版はM254型の1.5リッター直4直噴ターボで204PSを発生。ディーゼルは最新世代のOM654M型の2リッター直4直噴ターボで200PSを発生する。
この両方に加わるのが、20PS/200N・mの出力を持つ48Vのインテグレーテッド・スターター・ジェネレーター=ISGだ。これがエンジン始動だけでなく低速域のトルクアシストや常速域のパワーアシストを行う、つまりマイルドハイブリッドということになる。ちなみに日本仕様はディーゼルの「C220d 4MATICオールテレイン」みの設定となる予定だ。
このパワートレインに組み合わせられるトランスミッションは「9Gトロニック」と呼ばれる9段AT、ドライブトレインは前後駆動配分45:55の4MATICとなる。ドライブモードには「オフロード」と「オフロード+」という独自のプログラムが載せられており、前者はフラットダートのダイナミクスを、後者はそれよりも大きな凹凸路を中低速で走破することを前提に、変速やアクセル、ESPなどのマネジメントが最適化される。
オフロード+ではヒルディセントコントロールがデフォルトで働くだけでなく、急勾配の下り速度を4~18km/hの間で任意設定できるうえ、登りきれない急勾配の途中から後退を余儀なくされる際にもスピードコントロールが作動しドライブに余裕を与えてくれる。
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納得できる乗り味
前後バンパーやサイドエプロン、フェンダーアーチなどに無塗装の樹脂を用いることでラギッド感を打ち出すあたりの手法は、Eクラス オールテレインに倣うものとなっている。内装はCクラスに準拠しているが、オーナメントやトリムなどにオールテレインならではの施しも用意されているようだ。が、これらがどこまで日本仕様に反映されるかは未定だ。
装着タイヤ径で20mm、足まわりのキャリブレーションで20mmと、都合40mm地上高が上げられたオンロードにおけるCクラス オールテレインの走りは、ベースモデルにも増して上質さが際立っていた。半導体不足等による生産遅延で、現状は日本仕様の試乗がかなりスポーティーな「AMGライン」でしかかなっていないこともあるだろうが、それと比すれば低中速域での乗り心地に丸さががぜん違う。
11月以降はウインタータイヤが義務化されているドイツの法規に合わせて、試乗車が18インチの「ミシュラン・パイロットアルペン」タイヤを履いていたことは差し引いて考えなければならないが、すこぶる滑らかな足の動きはタイヤの差だけでないことは明らかだ。
いまだにCクラスの核心はつかめないでいるものの、オールテレインの乗り味はしっかり納得できて多くの人に薦められる、そういうメルセデスらしい優しさがある。
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必要十分な悪路走破性能
この乗り心地のよさに加えて、ベースモデルとほとんど見劣りのない運動性能が確保されているというところが、オールテレインの真骨頂なのだと思う。言い換えれば、大きく重く高重心な上屋を持つSUVに対して、物理的な優位性が絶対的に高いということだ。
真っすぐ走るぶんはともあれ、ハンドリングについてはそれが顕著で、操作と動きの遅れとかヨーの収束とか制動姿勢とか、そういうところでの動的資質の違いはうるさいことを言い始めれば高速道路の車線変更ひとつでもしっかり感じ取れる。
そのぶん、最低地上高や前後端の形状的に悪路性能は譲るところもあるわけだ。今回は悪路を走る機会もあったが、斜度15度という不整路の上り下りでも車体を擦ることはなかった。
オフロードを走り慣れた方ならおわかりのとおり、普通のドライバーにとって15度といえば並のSUVでもちょっとためらう崖。これが30度になると安全の担保されたアトラクションでもなければほぼお手上げの壁という印象だからして、このクルマについては週末のレジャーレベルで出くわす悪路を走れないという心配は無用と考えて差し支えないだろう。
必要以上に悪目立ちせず日常もこなせるたたずまいにして、遊びの引き出しのみならず平時の上質な振る舞いも備わったクルマ。そんな印象のCクラス オールテレインは来春、日本にも上陸の予定だという。
(文=渡辺敏史/写真=ダイムラー/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツC220d 4MATICオールテレイン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4755×1820×1494mm
ホイールベース:2865mm
車重:1875kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:200PS(147kW)/3600rpm
エンジン最大トルク:440Nm(44.9kgm)/1800-2800rpm
モーター最高出力:20PS(15kW)
モーター最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)
タイヤ:(前)245/45R18 100V/(後)245/45R18 100V(ミシュラン・パイロットアルペン)
燃費:4.9-5.6リッター/100km(約17.8-20.4km/リッター、WLTP複合モード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2021年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。