納期拡大が深刻な自動車業界 販売の最前線でいま起きていること
2021.12.15 デイリーコラム部品調達安定化のメドは立たず
新車を購入する時の納期(契約から納車されるまでの期間)は、従来は一般的には1カ月から2カ月だった。近年はクルマの売れ行きが下がった一方で車種数は依然として多いから、一部の人気車を除くと販売会社では在庫を持たない。従って基本的には契約内容に応じてメーカーに発注するが、納期は長くても2カ月前後に収まり、特に不都合は生じなかった。
ところが今は違う。各販売店ともに「納期は大半の車種で3カ月以上を要する。2カ月で納車できれば短い部類に入る」という。
納期が延びた理由は、新型コロナウイルスの影響で、部品の調達に滞りが生じていることだ。販売店によると「不足している部品は、当初は主に半導体だったが、今はワイヤーハーネスなども含めて多岐にわたる」とのこと。
しかもいつになったら部品の調達状況が改善されるのか、明確なメドは立っていない。販売店では「少数の在庫車を除くと、契約する時に、正確な納期をお約束できない。生産計画が立った段階でお伝えする」と述べている。
下取り車がある時も面倒が生じる。「お客さまから下取りする車両の査定も、納車が近づいた時点であらためて行う。納期が長く、登録されてからの期間も長引けば、買い取る時の金額が下がる」からだ。
ただし、逆の傾向も生じているという。「新車の納期が延びて、短期間で納車できる中古車を希望するお客さまも増えた。そのために中古車の需要が流通台数に対して増加傾向にあり、直近では買い取り額も高まっている。そのために今は好条件で販売できるが、新車の需要が回復すると、一気に中古車価格が下がる可能性もある。高額で下取りするにはリスクも伴い、見極めが難しい」という。
新型コロナウイルスの影響も複雑だ。東南アジア地域では感染拡大が続いており、その一方では、新型コロナウイルスが終息に向かって経済活動を活発化させている地域もある。半導体などの生産が滞りながら、需要は増加傾向にあり、供給不足が深刻化してきた。
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車検満了にはどう対応する?
ちなみに今は、新車として売られるクルマの約80%が乗り換えに基づく。クルマの納期が長期化すると、新車が納車される前に、下取りに出す車両の車検期間が満了を迎えてしまう。
そうなればユーザーとしては、愛車を先に手放してクルマを持たずに納車を待つか、あらためて車検を取り直すしかない。このあたりの販売店の対応も尋ねてみた。
「納車が間近に迫っている時は、下取り車を受け取り、納車までは販売店の試乗車を使っていただく場合もある。昔と違って、いわゆる代車はないから試乗車を貸し出す。しかし納車までに1カ月以上を要する時は、試乗車の提供も難しい。この時はなるべく安く車検を取り、納車まではご自分のクルマに乗っていただく。車検を取れば、ある程度は高く買い取ることもできるので、そこで埋め合わせをする」
ユーザーは、どのように対応すればいいのか。
「愛車を下取りに出して新車を買う時は、なるべく早めに商談を開始してほしい。納期が予想外に長引く場合もあるからだ。販売店としても、付き合いのあるお客さまには、愛車が車検を迎える1年くらい前に納期が延びている事情をお伝えする。このように打診しないと、納期が車検満了に間に合わず、結局は車検を取って乗り続けることになってしまう。お客さまは新車に乗り換えられず、販売店は販売ができない。この事態は避けたい」
今は納期が半年以上に遅延している車種も少なくない。搭載されているパワートレインやグレード、さらにボディーカラーによっても納期に差が生じる。新車への乗り換えを考えているなら、なるべく早い時期に車種、グレード、装着したいオプション、ボディーカラーなどを決めて、納期を確認しておきたいところだ。そのうえで安全な購入スケジュールを立てるのが好ましい。
(文=渡辺陽一郎/写真=トヨタ自動車、本田技研工業/編集=藤沢 勝)
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渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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