アウディRS 3セダン(4WD/7AT)
「3」は小粒でぴりりと辛い 2021.12.09 試乗記 ニュルブルクリンク北コースで7分40秒748のラップタイムをマークし、コンパクトクラス最速記録を更新した「アウディRS 3」が上陸。そのパフォーマンスを味わうべく、日本屈指の高速サーキット富士スピードウェイでステアリングを握った。基幹モデルのホットバージョン
当初、ブランドの末っ子という位置づけでモデルラインナップに加えられた「アウディA3」。初代モデルのローンチは1996年にまでさかのぼる。かくも長い歴史を携え、今でも基幹モデルとしての役割を受け持つA3ファミリーに身を置きながら、飛び抜けてスポーティーで、シリーズ全体のイメージリーダーでもあるのがRS 3だ。
アウディが目指す、メルセデス・ベンツやBMWなども意識したブランドイメージ構築へのこだわりもあって、ハッチバックボディーながらいわゆる“小さな高級車”というキャラクターを明確にするために、一時はV型6気筒エンジンも搭載されたA3。しかし、それらとこのRS 3とでは、もちろん明らかに一線を画している。
ちなみに「RS」の称号が与えられる特別なアウディ各車を手がけるのは、かつてのクワトロ社改め、2016年11月末からはモータースポーツとの関連性をよりダイレクトに連想させる名称へと変更を行ったアウディスポーツ社。
クワトロの名が、アウディが得意とする4輪駆動方式に由来するネーミングと考えるならば、当初はすべてが4WDバージョンであった同社謹製の「R8」に後輪駆動仕様が追加設定されたことや、後述するように最新のRS 3に後輪のみへのエンジントルクの伝達を可能とする、いわゆるドリフトモードの設定が行われたことなどとも「問題なく整合性がとれる」改名ということになるのかもしれない。
そんなアウディスポーツが擁するRSモデルを主役とした、“Audi Sport Circuit Test Drive”と銘打つイベントが行われた。会場は富士スピードウェイのレーシングコース。前出の新型RS 3を目玉に、R8や「RS 6アバント」、そして最新のEV「RS e-tron GT」と「e-tron GT」も顔をそろえるという、豪華大盤振る舞いのイベントである。
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最後のRS 3に?
RSファミリーのなかで最も新しいRS 3は、試乗日の3日前に日本導入が発表されたばかりのホットなモデル。今回ステアリングを握るRS 3セダンは、ボディー後端に独立したトランクスペースを有し、ホイールベースは「スポーツバック」と呼ばれるハッチバックと同じでありながら、両車を比較すれば、こちらのほうが明らかに重々しく見える。だが、従来型での実績や欧州仕様車のデータから察するに、その重量差はわずかだと推測できる。
実際、2017年3月にアラビア半島は中東・オマーンで開催された、従来型の国際試乗会の場でも、ボディー違いによる乗り味の差は感じられなかったという経験がある。したがって、あらためてパワーユニットや駆動系に対するリファインが伝えられる新型においても、その部分には関しては大きな違いは発生していないだろうと、おおよその見当は成り立つ。
そんなことを考えながら従来型の印象の記憶をひも解いていると、「それにしても、まだあの時からさしたる年月はたっていないのに……」と、ふとそんな思いが浮かんでくることに。
従来型のRS 3は2017年7月に日本でも発売されたが、その後すぐに販売が中断された。それもあって、2020年8月にスポーツバック、そして同じく9月にセダンが再導入されたのが、両モデルの実質的な本格販売のスタートという印象だった。そこからカウントすれば、ベースのA3シリーズが世代交代したことを受けて刷新された最新のRS 3に対して、「もうモデルチェンジしちゃったの!?」と思うのも無理はないだろう。
かくして、この先“希少車”としても記憶されることになりそうな従来型に対すると、最新モデルはより長く安定した販売が期待される。ただし、忘れてはならないのは時節柄、これが“純エンジン搭載”の最後のRS 3となりそうなことと、下手をすればいつカタログ落ちしてもおかしくないモデルでもあるということだ。
そんなRS 3をサーキットでドライブできるとはいうものの、今回のプログラムでは、いや応なしにスタート後はホームストレートの通過ナシでピットロードに戻ってこなければならない。なにしろ試乗車は1台だけなので、そんな制約にも納得するしかない。内外観のチェックもままならない慌ただしさのなかで、RS 3のコックピットに収まる。
アクセルペダルを踏み込むと、3秒台という0-100km/h加速タイムが納得の、まさに背中がシートバックへと押さえ込まれるような強烈な加速力とともに、あの官能の5気筒サウンドが全身を包み込んだ。
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トルクベクタリングの効果は絶大
ピットロードが終わり、そのままタイトな右1コーナーへとなだれ込む。この場面ですでに最新のRS 3が、これまで経験のない狂気とも思えるほど暴力的な加速性能を有していることを思い知らされた。
「Sトロニック」と呼ばれる7段DCTとの組み合わせで2.5リッターのターボ付き5気筒直噴ユニットからシームレスに引き出されるのは、従来同様の400PSという最高出力と、従来型のデータを20N・m上回り、500N・mという大台に乗った最大トルク。それでも、メルセデスAMGには「世界一パワフルな4気筒ターボ」をうたう2リッターにして421PSを発生するエンジンがあることを思い出せば、ある程度インパクトが薄まるのは確か。
しかし、もはやとても2つの駆動輪だけではまかないきれない出力を発していることは実感できる。と同時に、なりふり構わずにもっとピークをかさ上げしようとすれば、まだもう少しはいけるんだろうな……と、そんなことすら考えさせられるのが昨今のターボ付きエンジンのすごさと怖さでもある。
今回のサーキット試乗では“ドリフトモード”の使用が禁止され、前述の通り満足に1周することすらかなわないという制約ゆえに、走行モードは“DYNAMIC”の一択。技術的トピックの筆頭にも挙げられる、湿式多板クラッチ式の本格的なトルクベクタリング機構の新採用もあり、タイトなターンでもアンダーステアを感じさせないコーナリング時のフィーリングは特筆すべきものだった。
一方、他のRSモデルと同様のノリでペダルを踏み込むと、唐突に利いてどうしても“カックンブレーキ”になりがちだった「セラミックブレーキ」の制動Gの立ち上がり特性には、ちょっとばかり閉口した。
もちろん、慣れればよりふさわしいコントロールが可能となるであろうし、ばね下の軽量化やダスト汚れが低減できるといったメリットも存在するのは承知のうえで、しかし果たして街乗りがメインという使い方であれば、これをオプション装着すべきか否かは、考える余地がありそうだ。
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RS 3の集大成
それにしても、スポーツモデルには受難という今の時代に、しかも近い将来の“EV専業化”をほのめかすアウディから、再度このような純エンジンを搭載するRSモデルの末っ子にして“激辛マシン”がローンチされてきたことにはちょっと驚く。
「ニュルブルクリンクでコンパクトクラス最速ラップレコードを記録」と、この期に及んであらためてライバルに挑戦状をたたきつけるかのようなコメントとともに、サーキット走行でセミスリックタイヤの使用を前提とした走行モードの設定までを行ったRS 3は、見方によっては「ここまできたら、もはやなんでもアリ!」という、いわば集大成的モデルへと仕上げられているようにも感じられた。
果たして、実際にこれが“最後のRS 3”となるのか否かはもちろん定かではないものの、少なくとも今のように内燃機関をその動力源の主体としたRS 3の伝統や血筋がこの先も生き残り、より魅力的に進化した次世代モデルが姿を現す可能性は、残念ながら極めて小さいのではないか。
そんなことを考えながら、もはやこれ以上は常識では考えられないだろうとさえ思える狂気のスピード性能を有するに至った、最新で最強のRS 3セダンのドライバーズシートを、後ろ髪を引かれる思いで離れることになったのであった。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
アウディRS 3セダン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4540×1850×1410mm
ホイールベース:2630mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直5 DOHC 20バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:400PS(294kW)/5600-7000rpm
最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/2250-5600rpm
タイヤ:(前)265/30ZR19 93Y/(後)245/35ZR19 93Y(ブリヂストン・ポテンザ スポーツ)
燃費:8.2-8.7リッター/100km(約11.5-12.2km/リッター、欧州複合モード)
価格:818万円(※市販モデルの価格)
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:249km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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