日本のモビリティーはここから変わる!? 内燃機関にこだわる5社がいま一致団結するワケ
2021.12.13 デイリーコラム急なBEV化にはネガもある
2021年11月13日、スーパー耐久レース in 岡山の会場で行われた記者会見には、スゴい顔ぶれがそろっていた。並んでいたのは川崎重工業、スバル、トヨタ自動車、マツダ、ヤマハ発動機の社長。そして発表されたのは、「内燃エンジン用の燃料の選択肢を広げる取り組みについて、共同で挑戦していく」という内容だった。
概要については既報の通りだが、要するに、各社が目指すのは、カーボンニュートラル実現に向けて、電動化を推進していくだけでなくユーザーにより多くの選択肢を提供すること。その有力な選択肢のひとつとして、さまざまな燃料を用いてカーボンニュートラル化を図った内燃エンジンが挙げられている。
実はこの5社の取り組みはそれぞれ独立している部分が多いので、項目ごとに分けて見ていこう。まずは水素エンジン。これを推進しているのは前述のトヨタ、そしてカワサキとヤマハの二輪メーカーである。
トヨタは常々、カーボンニュートラルにはマルチソリューションで対応すると公言している。何しろ年間1000万台のクルマを世界中の国と地域で販売しているトヨタである。すべての市場で一気にBEVへと転換できないことは、よく分かっている。また、急激なBEVシフトは内燃エンジンを用いたパワートレインを不要とし、しかも国内だけでは絶対的に供給量が足りないバッテリーを輸入することになれば、国内雇用が多く失われ、国富も流出する。それを避けたいというのが、まず何より前提にある。水素だけでなく合成燃料も含めて、内燃エンジンを生かす道がまだあるんじゃないかというわけだ。
さらに、モータースポーツの将来のためでもある。水素を用いることで内燃エンジンを引き続き生かすことができるならば、チームやエンジニアはいままで培ってきた知識やノウハウも生かせるし、何より内燃エンジンであれば、魅力的なエンジンサウンドを残すことができる。
実際には水素エンジン、高回転型のエンジンよりも、高負荷・低回転で回すトラック用などのほうが生かせる可能性は高いという。しかしながら、それもこれもレースという過酷な舞台でもまれれば、開発が一気に早まるというわけである。
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水素バイクはマストアイテム
二輪には、より切迫した事情があるといえる。岡山では、やや回りくどい表現だが、カワサキとヤマハが「水素エンジン開発についての共同研究について検討を開始した」と発表された。
無論、二輪にも電動化の波は押し寄せており、両社ともに電動化ビジョンをすでに発表している。例えばカワサキは2035年までに先進国向け主要機種を電動化するというかなり踏み込んだ宣言を行っており、ヤマハも2035年までには電動化比率を20%に引き上げるといった具合だ。
実際問題、例えばスクーターなどは電動化が難しくはなく、むしろメリットも大きいだろう。しかし大型バイクはどうか。大パワーの内燃エンジンを積むこれらがもたらす走りの世界を、BEVで再現するのは難しい。フィーリングの問題もあるし、何よりバッテリーが重くなりすぎて「バイクではなくなって」しまう。ここは内燃エンジンを、カーボンニュートラルを実現できるかたちで存続させるべきだと考えるのは、至極自然な流れといえる。
カワサキは水素タンクなどに豊富な技術の蓄積がある。ヤマハはすでに水素エンジンの開発に取り組んでいる。印象的だったのは日高祥博社長の「弊社は“発動機”と社名に入っているので」という話である。
この日は、続いて行われたラウンドテーブルにスズキの二輪事業本部長も参加。ホンダも含めた4社が、水素エンジン技術の共同開発で合意していると発表された。世界で圧倒的なシェアを誇る日本の二輪メーカーの集結は、あるいは四輪車以上に大きなインパクトを持つかもしれない。
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解決の手段はひとつじゃない
スバルは「スバルBRZ」で、2021年には“水素カローラ”が走ったスーパー耐久ST-Qクラスに参戦する。実はトヨタも「GR86」で同クラスに出て、ここで公開開発テストを行うという。そちらも面白い話なのだが、ここでは割愛。触れておきたいのは、ここではバイオマス由来の合成燃料を使うということだ。
モータースポーツの世界ではすでにポルシェがポルシェ スーパーカップで合成燃料を使用しており、2022年からはWRC(世界ラリー選手権)もサステイナブル燃料が100%使われることになる。トヨタとスバルは、市販車改造のこのレースを、まさに将来的にスーパー耐久全車に、あるいは市販車にまで使える合成燃料の開発に向けて活用するつもりだという。
マツダは同じことをバイオディーゼルで行う。マシンに搭載されたSKYACTIV-D 1.5ユニットに使われるのは、ユーグレナ社のバイオ燃料「サステオ」。原料は使用済み食用油とユーグレナ=ミドリムシで、現在は前者が多くを占めるが、将来的にはミドリムシの割合を増やしていき安定供給していくという。その時には価格は現状のガソリン価格程度に抑えられると言っているから、実現すればインパクトは大きい。
水素、ガソリンと置き換えられる燃料組成の合成燃料、そしてバイオディーゼル燃料と、ここに3種類のカーボンニュートラル実現を可能にする内燃エンジンがそろった。これらは少なくとも当面はそれぞれ適材適所で使われ、また開発が進められていく。ただし、それぞれのボリュームは決して大きくはないだけに、まずは協調領域となる部分は手を携えて土台をつくっていき、そのうえで競争していこうというのが、今回の5社並んでの発表の意義といえる。
日本は内燃エンジンに固執しすぎていて、このままではBEV化に突き進む世界から後れをとるなどと論じる向きは少なくない。しかし肝心なことは最初から正解をひとつに限定しないということではないだろうか。
昨今のヨーロッパのBEVシフトは、最初からゴールをひとつと定めてそこにまい進しているわけだが、技術が進んでいった先には話が180度変わる可能性だってある。また、使われ方や、使われる国や地域の事情なども、あまりに広範なのが自動車だ。少なくともBEV“だけ”へのシフトは、モビリティーの価値を等しく提供していくというSDGs的な精神に逆行することにもなりかねない。国内各社の協調を示した今回の取り組みは、まさに日本発の豊かなモビリティー社会の今後に向けた挑戦なのである。
(文=島下泰久/写真=トヨタ自動車、川崎重工業、本田技研工業、マツダ、webCG/編集=関 顕也)
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島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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