日産GT-RプレミアムエディションT-spec(4WD/6AT)
進化と熟成 ここに極まる 2021.12.15 試乗記 「日産GT-R」の2022年モデルに設定された数量限定のスペシャルモデル「プレミアムエディションT-spec」。内外装の意匠に加え、足まわりにも手が入れられたという同車の走りは、第3世代GT-Rの集大成と表しても過言ではない仕上がりとなっていた。限られた数に応募が殺到
2022年秋に施行される車外騒音規制の達成難易度の高さから、生産終了もうわさされている日産GT-R。その2022年モデルに新たに設定されたのがT-specだ。
GT-Rで“T”といえば思い浮かべるのは人の名前……というのは事情通な方々だと思うが、田村宏志CPS(チーフ・プロダクト・スペシャリスト)によると、その意は四駆を武器とする第2世代以降最大の特徴を表した「トラクションマスター」、もしくは常に性能的指標を更新してきた「トレンドメーカー」の頭文字だという。いずれであれ、ここにも集大成的な意味合いを感じてしまうのは僕だけだろうか。
T-specにはカタログモデルの「プレミアムエディション」をベースとしたグレード、そして「トラックエディションengineered by NISMO」をベースとしたグレードの2つがあり、当初は前者が63台、後者が37台の合計100台を抽選販売するとされていた。が、くだんの生産終了のうわさも追い風となり、2022年モデル全体の受注状況が盛り上がっていたこともあってだろう、その発表会上で台数の積み増し検討が表明され、結果的に国内では120台程度が販売されたようだ。それでも抽選倍率は軽く20倍以上だったというから、当選者の喜びはひとしおだろう。他に米国や豪州向けなども含めると、T-specの総生産台数は約300台になるという。
ちなみに今回の取材車は日産が所有するもので、プレミアムエディションをベースとしたT-specになる。ボディーカラーは「ミレニアムジェイド」。計6色の選択肢のなかでも、「ミッドナイトパープル」とともに用意された専用色となる。その名を聞いてピンときた方もいらっしゃるだろう第2世代GT-Rを象徴するこの2つの塗色だが、当時の色そのものではなくT-spec用にあらためて特別配合されたものだ。
多岐にわたる標準モデルとの違い
T-specに共通する専用仕様としては、前後に「T-spec」エンブレムが追加され、カーボン製リアスポイラーが装着され、エンジンルームカバーがゴールドベースのものとなり、ブレンボ製のカーボンセラミックブレーキがおごられる。
トラックエディションはさらにルーフパネルやトランクリッドなどもカーボン製となり、約18kgの軽量化を達成。一方プレミアムエディションの側は、「GT-R NISMO」が用いるレイズ製の鍛造アルミホイールを専用塗色で採用。サスペンションにも専用のセットアップが施されるほか、フロントホイールの幅が10Jとなったことに合わせて、フロントフェンダーや下部プロテクターも拡幅仕様となった。さらに内装も専用トリムの組み合わせとなり、ルーフライナーにもステッチ加飾が施されるなど、なかなか凝った仕様となっている。
専用トリムの内装は、プレミアムエディションに設定されるファッショナブルインテリアがベースとなっている。恐らくセミアニリンなめしを用いているだろうレザー部は肌触りがしっとりとしていて質感はかなり高い。シートはボルスターなどサポートの縫い込み部に軽くギャザーが入るようにしつらえられていて、体への当たりや沈み込みは柔らかいが、中央部にはパールスエードファブリックを用いることで、滑りにくさも確保している。
とりわけ緑好きの僕にとっては、このレザーのシックな発色とミレニアムジェイドの組み合わせはあまりにドンズバすぎて、思わず当選者に嫉妬してしまう。NISMO譲りのダッシュボードに貼り込まれたアルカンターラもGT-R離れした上質感にひと役かっているという印象だ。
これまでのとは明らかに違う
早朝からの撮影に向かおうと走り始めるや、昨夜からの雨は季節外れのゲリラ豪雨と化し、東名高速は多摩川橋や横浜青葉など、標高の低いところでは巻き上げられた水が方々からブッかかる、とんでもないコンディションになってしまった。ラジオの交通情報は、渋谷区内の幹線の水没を伝えている。なんか今年は、よりによってこのクルマでこれ……という天気が多かったなぁと振り返る余裕がまだあるのは、T-specのアシがすこぶる柔軟に路面に追従してコンタクトの状況をリアルにドライバーに伝えてくれるからだろう。恐らく他グレードのGT-Rでは突き進むに手に汗握る状況だったに違いない、そういう場面で今までにない優しさが垣間見えた。
そうした印象は気のせいではなく、天候が回復し、路面状況がよくなってくると、T-specのライドフィールがこれまでのどのGT-Rとも異なることが際立ってみえてくる。ともあれアシの動きのしなやかさや路面アタリの丸さは、大幅にストリート寄りに振られた2017年型以降のプレミアムエディションも大きく上回るものだ。橋脚ジョイントなどの目地段差、舗装の補修痕など、日常的に出くわす凹凸の通過時にも痛い突き上げはほぼ感じ取れず、その後のバネ下の動きの収まりもすっきりしている。わだちに対する耐性も向上し、路面の荒れが続くような場面でもタイヤのバタつきはやすやすとは現れない。
旋回のごく初期からのゲインの立ち上がりは精細度が高まり、タイヤのねじれとともに高まる横Gがねちっと伝わってくる、その饒舌(じょうぜつ)な操舵フィールがGT-Rとの会話数を今まで以上に高めてくれている。公道レベルの曖昧な入力にもしっかり反応しながら、曲がる際に姿勢をつくっていけるほど動いてくれるクルマに化けるとは、よもや想像していなかった。
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第3世代GT-Rの完成形へ
前述の通り、プレミアムエディションベースのT-specは足まわりのセッティングの変更を受けているが、実は乗り心地方面に直接的に効きそうなバネやスタビ、タイヤ構造といったところはベース車と同じだ。異なるのは、ホイールとブレーキによって得られた1輪あたりで約4kgの軽量化と減衰力制御で、後者はハードウエアの変更を織り込んだうえで、公道走行向けに最適化したものをリプログラミングしているという。同じバネ下構成であるNISMOのデータを活用することも考えられたが、それとはタイヤのケース剛性が異なることもあり、制御の組み立てはゼロからの作業になったそうだ。
とはいえ、GT-Rは登場当初からビルシュタインの電子制御ダンパー「ダンプトロニック」を採用しており、アストンマーティンやポルシェと並び、そのノウハウは長期蓄積し続けている。経験値の高さがこの設定に役立ったことは想像に難くない。加えて、ステアリングダンパーのレート変更によりキックバックを抑えながら操舵応答をよりスムーズなものとしている。
熟成に熟成を重ねて14年余。もちろんハコやアシといった、今でも十分一線を張れる基本骨格が前提にあったとはいえ、ぶっきらぼうな速さだけでなく、しつこく味わいを追求し続けたエンジニアリングがT-specではついに結実したという印象だ。そういう意味では車名の“T”は“Totally”、つまり“完全に”と受け止めてもいいのかもしれない。果たして、これをもって第3世代の完走宣言となるのか否かは、今のところ日産のみぞ知る……ということになる。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
日産GT-RプレミアムエディションT-spec
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4710×1895×1370mm
ホイールベース:2780mm
車重:1760kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.8リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:570PS(419kW)/6800rpm
最大トルク:637N・m(65.0kgf・m)/3300-5800rpm
タイヤ:(前)255/40ZRF20 101Y/(後)285/35ZRF20 104Y(ダンロップSP SPORT MAXX GT 600 DSST CTT)
燃費:7.8km/リッター(WLTCモード)
価格:1590万4900円/テスト車=1641万7769円
オプション装備:ボディーカラー<ミレニアムジェイド>(16万5000円)/SRSサイドエアバッグ<運転席・助手席>&SRSカーテンエアバッグ(7万7000円)/プライバシーガラス<リアクオーター+リア>(3万3000円) ※以下、販売店オプション 日産オリジナルドライブレコーダー(8万3934円)/ウィンドウはっ水12カ月<フロントウィンドウ1面+フロントドアガラス2面>(1万1935円)/NISSAN GT-R専用フロアカーペット<プレミアムスポーツ、消臭機能付き>(13万2000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:3192km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:351.1km
使用燃料:48.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.3km/リッター(満タン法)/8.4km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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