トヨタ・ミライZ“エグゼクティブパッケージ アドバンストドライブ”(RWD)
ミライの先にある未来 2021.12.28 試乗記 「ミライ」は燃料電池車であると同時に、トヨタ車としては初めて手ばなしが可能な半自動運転を実現したクルマでもある。さらには、システムアップデートによって、購入後に機能が進化するようになっているのも特徴だ。2021年末時点での実力を試してみた。高精度3Dマップをフル活用
最新のミライ(と「レクサスLS500h」)に搭載車が用意される「アドバンストドライブ」は、トヨタ最高峰の高度運転支援システムにして、国内で現在入手可能なそれとしては、自動運転にもっとも近い技術といえる。これまでの国内販売例としては「ホンダセンシングエリート」がさらに踏み込んだ自動運転レベル3を実現しているが、それを搭載した「レジェンド」は100台限定リース販売にとどまり、今では注文することもできないからだ。
ホンダセンシングエリートのようにドライバーが前方から目線を外すことは許容しないアドバンストドライブは、いわゆる自動運転のレベル分けではレベル2にあたる。ただ、ご承知のように、このレベル2の範囲が異常に広いのが現実だ。なにせアダプティブクルーズコントロール(ACC)となにかしらの車線維持アシストの両方が備わっていればレベル2となるので、現在売られている新車の大半がレベル2相当ということになる。
トヨタのアドバンストドライブは「日産プロパイロット2.0」とならんで、レベル2はレベル2でも、自動運転にかぎりなく近い機能をもつ。ともに高精度3D地図のデータを使い、高速道路でのハンズオフ運転やカーブでの自動アクセル制御、目的地に向けた車線変更アシストなどをおこなう。
高精度3D地図は本格自動運転に向けて、日本全国ほぼすべての高速や自動車専用道をcm単位の精度でデータ化したものだ。そこには単純な道路形状だけでなく、車線数やカーブ、傾斜角、ジャンクションの構造や道路標識データも網羅されており、国内外の自動車メーカーに有償で提供される。ちなみに、アドバンストドライブやプロパイロット2.0以外にも、スバルの「アイサイトX」や「日産ノート」の「ナビリンク機能付きプロパイロット(通称:プロパイロット1.5?)」が高精度3D地図を使っている。
アドバンストドライブは進化する
ミライの場合、アドバンストドライブが手に入るのは上級の「Z」系グレードで、55万円の追い金で搭載車が選べる。現時点でのアドバンストドライブのハードウエアは、一般的なミリ波レーダーやステレオカメラに加えて、ロケーター望遠カメラや前方LiDAR(ライダー:レーザースキャナー)といった専用のセンシングデバイスを追加した構成となっている。外部からだと、前後バンパーやサイドフェンダーの“小窓”が搭載車の識別点だ。フロントには前方LiDARが内蔵されており、サイドやリアバンパーのそれもLiDAR用という。
今回の取材は2021年11月中旬におこなったものだが、このときに試乗したミライのアドバンストドライブは、2021年4月の新規発売時からソフトウエアがアップデートされており、各機能の精度がより高められていた。アドバンストドライブでは今後も随時アップデートが実施されて、すべての既納車にアップデートサービスが用意される。そこもアドバンストドライブの大きな売りである。
アドバンストドライブ車で高速を走っていると、条件が整えば、意外なほどすみやかにハンズオフドライブ……つまり、高速の同一車線内であれば手ばなしで“半自動運転”が可能となる。また、前走車に追いつけば追い越しを、走行車線がなんらかの理由で絞られる場合には隣車線への車線変更を、ナビで目的地を設定しておけば、なかなか絶妙なタイミングで分岐に向けた車線変更や分岐・合流を、クルマ側から提案してくる。
こうした基本機能は日産のプロパイロット2.0によく似ている。そして、車線変更をともなう半自動運転を遂行する場合、ドライバーがステアリングを握ったうえで“承認”する動作が必要となる点も両者で共通する。
滑らかな“運転”
ただ、その承認の動作がウインカーやOKボタンといった“操作”ではなく“目くばせ”だけでイケるのが、アドバンストドライブの特徴だ。そのためのドライバーカメラは前方確認や居眠りを感知するために、運転手の“目”を精密に監視している。よって、承認動作もおおげさに顔を向けたり目を見開いたりする必要はない。クルマが移動する側のサイドミラーに視線をちらっと送るだけで、クルマ側がグイグイと積極的にアシストしていってくれるのだ。
ハンズオフでの車線トレース、カーブに合わせた加減速やステアリング制御、車線変更の滑らかさ、周囲の走行車とのタイミング取り……各種所作の“機微”や“味わい”も、アドバンストドライブが得意とするところだ。最新アドバンストドライブの運転は、プロパイロット2.0より明らかにうまい。今回は帰宅渋滞がはじまりかけの首都高での試乗だったが、ヒヤリとする瞬間は基本的になかった。
しかも、アドバンストドライブは今後も成長していく。そこがいかにも今っぽい。今回試乗したミライには、前記のようにフロント以外にもLiDAR用の小窓が備わるが、取材時点ではそこはまだ“空っぽ”だった。しかし、レクサスLSは2021年10月下旬の一部改良で、ついにリアやサイドにもLiDARを搭載することとなった。合わせて、ミライを含む既納車でもソフトウエアのほか、LiDARを追加するハードウエアの無償アップデートがスタートしているようだ。
もっとも、最新のソフトウエアでもリアやサイドのLiDARを活用するプログラムにはなっていないそうで、現時点でのLiDAR追加は今後に向けた準備でしかない。これらLiDARがフル稼働するようになると、いよいよレベル3領域に足を踏み入れるのかもしれない。それにしても、かりに筆者がミライのオーナーだったら、すぐにでも追加LiDARがほしいというマニア心がうずくと同時に、いきなり性能が変わらないのなら急ぐ必要もない……という、じつにアンビバレントな精神状態に置かれてしまうだろう。アドバンストドライブとはなんとも罪つくりである(笑)。
(文=佐野弘宗/写真=荒川正幸/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
トヨタ・ミライZ“エグゼクティブパッケージ アドバンストドライブ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4975×1885×1470mm
ホイールベース:2920mm
車重:1990kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機(永久磁石式同期型モーター)
最高出力:182PS(134kW)/6940rpm
最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/0-3267rpm
タイヤ:(前)235/55R19 101V/(後)235/55R19 101V(ダンロップSPスポーツマックス050)
燃費:135.0km/kg(WLTCモード)
価格:860万円/テスト車=878万6450円
オプション装備:ボディーカラー<プレシャスホワイトパール>(5万5000円)/ITSコネクト(2万7500円) ※以下、販売店オプション カメラ一体型ドライブレコーダー(2万1450円)/フロアマット<エクセレントタイプ>(8万2500円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:4783km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--kg(圧縮水素)
参考燃費:--km/kg

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】 2026.3.3 「GRヤリス」の新仕様として設定された「エアロパフォーマンスパッケージ」装着車に試乗。レースフィールドでの知見を交え開発したというエアロパーツの空力・冷却性能は、リアルワールドでも体感可能なのか。高速道路を経由し、郊外のワインディングロードを目指した。
-
ドゥカティ・モンスター(6MT)【海外試乗記】 2026.3.2 ドゥカティのネイキッドスポーツ「モンスター」が5代目にモデルチェンジ。無駄をそぎ、必要なものを突き詰めてきた歴代モデルの哲学は、この新型にも受け継がれているのか? 「パニガーレV2」ゆずりのエンジンで175kgの車体を走らせる、ピュアな一台の魅力に触れた。
-
フォルクスワーゲンID.4プロ(RWD)【試乗記】 2026.2.28 フォルクスワーゲンのミッドサイズ電気自動車(BEV)「ID.4」の一部仕様変更モデルが上陸。初期導入モデルのオーナーでもあるリポーターは、その改良メニューをマイナーチェンジに匹敵するほどの内容と評価する。果たしてアップデートされた走りやいかに。
-
スズキ・キャリイKX(4WD/5MT)【試乗記】 2026.2.27 今日も日本の津々浦々で活躍する軽トラック「スズキ・キャリイ」。私たちにとって、最も身近な“働くクルマ”は、実際にはどれほどの実力を秘めているのか? タフが身上の5段MT+4WD仕様を借り出し、そのパフォーマンスを解き放ってみた。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.2.26 日本で久々の復活を遂げた「ホンダCR-V」の新型に、北海道のテストコースで試乗。雪上・氷上での“ひとクラス上”の振る舞いに感嘆しつつも、筆者がドン! と太鼓判を押せなかった理由とは? デビューから30年をむかえたCR-Vの、実力と課題を報告する。
-
NEW
BYDシーライオン7 AWD(4WD)
2026.3.5JAIA輸入車試乗会2026堂々たるスタイルにライバルの上をいくパワーと一充電走行距離、そしてざっくり2割はお得なプライスを武器とする電気自動車「BYDシーライオン7」。日本市場への上陸から1年がたち、少しずつ存在感が増してきた電動クーペSUVの走りやいかに。 -
NEW
ついにハードウエアの更新も実現 進化した「スバルアップグレードサービス」の特徴を探る
2026.3.5デイリーコラムスバルが車両の機能や性能の向上を目的とした「スバルアップグレードサービス」の第3弾を開始する。初めてハードウエアの更新も組み込まれた最新サービスの特徴や内容を、スバル車に乗る玉川ニコがオーナー目線で解説する。 -
NEW
第951回:日本が誇る名車を再解釈 「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」の開発担当者に聞く
2026.3.5マッキナ あらモーダ!2026年の「東京オートサロン」で来場者の目をくぎ付けにした「ホンダNSXトリビュートby Italdesign」。イタルデザインの手になる「ホンダNSX」の“再解釈”モデルは、いかにして誕生したのか? イタリア在住の大矢アキオが、開発関係者の熱い思いを聞いた。 -
メルセデス・マイバッハSL680モノグラムシリーズ(4WD/9AT)【試乗記】
2026.3.4試乗記メルセデス・マイバッハから「SL680モノグラムシリーズ」が登場。ただでさえ目立つワイド&ローなボディーに、マイバッハならではのあしらいをたっぷりと加えたオープントップモデルだ。身も心もとろける「マイバッハ」モードの乗り味をリポートする。 -
始まりはジウジアーロデザイン、終着点は広島ベンツ? 二転三転した日本版「ルーチェ」の道のり
2026.3.4デイリーコラムフェラーリ初の電気自動車が「ルーチェ」と名乗ることが発表された。それはそれで楽しみな新型車だが、日本のファンにとってルーチェといえばマツダに決まっている。デザインが二転三転した孤高のフラッグシップモデルのストーリーをお届けする。 -
第863回:3モーター式4WDの実力やいかに!? 「ランボルギーニ・テメラリオ」で雪道を目指す
2026.3.3エディターから一言電動化に向けて大きく舵を切ったランボルギーニは、「ウラカン」の後継たる「テメラリオ」をプラグインハイブリッド車としてリリースした。前に2基、リアに1基のモーターを積む4WDシステムの実力を試すべく、北の大地へと向かったのだが……。











































