こだわるオーナーへの次なる一手! ホンダが軽のサブブランド「Nスタイル+」を旗揚げした理由
2022.01.07 デイリーコラム 拡大 |
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唯一ともいえる弱点を克服
先日発表された「ホンダN-BOX/N-BOXカスタム」の一部改良は、一見すると派手なものではない。エクステリアデザインは従来どおりで、選択できるボディーカラーが変更されただけだ。しかし、商品力が大幅に向上する機能が追加されている。足踏み式だったパーキングブレーキが、電動式になったのだ。これにより、30km/h以上でなければ作動しなかったアダプティブクルーズコントロール(ACC)が全車速対応型&停車時ブレーキホールド機能付きになり、渋滞時にも使えるようになった。
N-BOXは2017年に2代目となり、当初は先進安全装備「ホンダセンシング」を全車に採用し、ACCを標準装備したことがアドバンテージになっていた。マーケットの先駆けとなったのはよかったが、その後ライバルたちは全車速対応のACCを採用。低速域では使えないACCの機能性が、盤石に見えたN-BOXのほとんど唯一の弱点になっていた。Nシリーズのなかでも「N-WGN」と「N-ONE」はすでに電動パーキング&全車速型ACCになっていて、N-BOXの進化が強く望まれていたのだ。
販売面では、最近ちょっとした異変が生じていた。N-BOXは、軽自動車の販売台数で6年連続、登録車を含む国内販売台数でも4年連続ナンバーワンの実績を誇る。今年に入っても軽自動車月間販売ランキングで1位を守ってきたが、10月は3位に転落したのだ。前年比46.4%という急速な落ち込みである。半導体やワイヤーハーネスが不足していることに加え、一部改良を控えての生産調整もあったのだろう。一時は納期未定とアナウンスされていたが、ようやく状況は好転したらしい。これからは1カ月から2カ月で納車されるそうだ。
今回は改良に合わせ、もうひとつの発表があった。特別仕様車「N-BOXカスタム スタイル+ ブラック」の設定である。フロントグリルやエンブレム、ホイールなどを黒で統一し、インテリアではメタルスモーク偏光塗装のパーツをあしらった。シックで大人っぽいイメージを追求している。単発のモデルではなく、ホンダは今後、Nシリーズ全体において「Nスタイル+」をサブブランドとして展開していくという。
ユーザーのさらなる要望に応えるために
デザイン違いの特別仕様車というのは珍しいものではない。「ルノー・カングー」に多様な特別色のモデルがあるのは有名だ。マツダは2015年に「デミオ」の特別仕様車として「ミッド・センチュリー」と「アーバン・スタイリッシュ・モード」という2モデルを鳴り物入りで発表した。特別仕様車というわけではないが、N-BOXも2代目がデビューした際に「北欧スタイルコレクション」や「クールプレミアムスタイル」などのカスタムプランを用意している。ただ、Nスタイル+は単にカタログモデルと異なるコーディネートを提案するというだけではない。「Nシリーズが持っているイメージと、少し違うスタイルを用意する」という意図がある。
ことN-BOXに関しては、これは苦肉の策でもある。なにせ売れすぎているのだ。毎年ほぼ20万台を売り上げており、累計販売台数は200万台を超えている。Nシリーズ全体では300万台以上だ。たくさん売れるのはメーカーにとってはありがたいが、ユーザーは複雑な感情を抱くだろう。お隣さんと同じクルマというのはできれば避けたいと思うからだ。高速道路のサービスエリアやイオンモールの駐車場では、N-BOXが何台も並ぶ光景が珍しくない。
人気のモデルに共通する悩みである。トヨタの売れ筋ミニバンの「ヴォクシー」も、歴代モデルに“煌”という特別仕様車を設定し、それが人気を博している。「他人とかぶるのが嫌なアナタに、“ちょいワル”系の見た目はいかが?」というのは、箱型グルマでは鉄板の手のようだ。ディテールを黒で統一したN-BOXカスタム スタイル+ ブラックも、趣は違えど意図は同じ。こちらは主に40~50代の男性をターゲットにしているという。
ただ、それでは他のNシリーズでも同じコンセプトで特別仕様車を仕立てるのかといえば、そうではない。N-ONE、N-WGN、「N-VAN」と、モデルによって異なるイメージを持っており、それぞれにまったく別のスタイル+が設定されるという。N-BOXについては、今のところスタイル+ ブラックだけで、例えば「スタイル+ ホワイト」といったモデルの追加は予定されていない。
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もはや“N”はブランドだ!
今回の発表が行われたのは2021年12月16日。そのちょうど10年前が、初代N-BOXの発売日である。後のNシリーズの先駆けとなったこのモデルは、「NEW NEXT NIPPON NORIMONO」というキーワードを掲げ、“ミニバン的な広さと使い勝手”をアピールして登場した。それまではホンダの軽自動車はあまり目立つ存在ではなかった。現在N-BOXのLPL(ラージプロジェクトリーダー)を務める宮本 渉氏によると、当時のホンダはグローバルで勝負することを重視していて、日本だけで販売される軽自動車は優先度が低かったそうだ。シャシーもエンジンも前世代のものを使い続けていたので、商品力が落ちていったのは必然である。
N-BOXの開発では、自転車を簡単に収納できることをミッションとして設定した。自転車通いの子供の帰りが遅くなった時、迎えに行くと子供の自転車をクルマに載せる必要がある。ユーザーの切実な要望に応えようとしたのだ。技術先行型だったホンダとしては、大きな発想の転換である。コンパクトカーの「フィット」で培ったセンタータンクレイアウトが強みとなり、広大なスペースを確保する。新開発のエンジンは従来型より高出力なのに燃費もよく、商品力アップに貢献した。
2017年に2代目が登場すると、「N for Life」というキーワードを提示。“本当につくりたいのは、いいクルマじゃなく、いい生活”と主張して、子育て層をターゲットに使い勝手の向上を図った。見た目はあまり変わらなかったがシャシーとエンジンも一新し、追いすがるライバルを突き放して人気を保ったのだ。「ゼスト」や「ライフ」が迷走していた時代からすると、隔世の感がある。
発表会では、Nシリーズのオーナーアンケートにおける「次もまたNシリーズのクルマを購入したい」という回答の割合が紹介された。72%という驚異の数字である。他ブランドに比べて圧倒的に高く、実際に今日におけるブランド内での乗り換え比率は35%に達している。10年間で“N”というブランドが確立され、高いロイヤルティーを誇るようになったのだ。Nスタイル+の設定は、ホンダが“N”のブランド価値をより堅固で盤石なものにするための布石なのかもしれない。
(文=鈴木真人/写真=webCG、本田技研工業/編集=堀田剛資)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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