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日産GT-R NISMOスペシャルエディション(4WD/6AT)

頂を超えた先にあるもの 2021.12.24 試乗記 佐野 弘宗 「日産GT-R NISMO」の特別仕様車「スペシャルエディション」に試乗。組み立て精度の高いエンジンと徹底的に磨き上げられたシャシー、カーボンパーツを惜しみなく使用したボディーが織りなすその走りは、感動的なほどに濃厚でまろやかだった。

オーダーの99%がスペシャルエディション

GT-Rの2022年モデルは「現行型としてはこれで打ち止めの最終進化版か?」とウワサされることもあり、その動向はこれまで以上に衆目を集めている。カタログモデルは現在「世界的な半導体不足や部品不足」を理由に新規オーダーが停止されているものの、これで終わりというわけでもないらしい。ただ、先日に渡辺敏史さんによる試乗リポートをお送りした「T-spec」は最初から数量限定で、その抽選販売も終了した。つまり完売である。

完売という意味では今回のNISMOも同じだ。2022年モデルのなかでもNISMOだけは特別で、2021年4月に価格未定のまま先行公開されて予約受注も開始。続く8月に正式価格の発表と同時に「予定販売台数を超えたため」とオーダー受け付け終了が告げられた。これらはすべて、ほかの2022年モデルが発表される以前の話である。

GT-R NISMOの2022年モデルではスペシャルエディションが初めて用意されたのが最大のトピックだ。同モデルではカーボンエンジンフードが下地丸見えのクリア塗装となり、ホイールにレッドリム加飾が施されるほか、ピストンリング、コンロッド、クランクシャフトなどに“高精度重量バランスエンジン部品”が使われる。通常NISMOの44万円高だが、案の定、国内受注の99%がスペシャルエディションだったそうだ。

というわけで、日産がメディア取材用に用意したGT-R NISMOのデモカーは、ご覧のとおりスペシャルエディションである。その外板色もNISMO専用新色「NISMOステルスグレー」で、最終的に300台超となった国内オーダーの約半数が同色で占められたそうだ。すなわち、この取材車の内容が、国内で走るGT-R NISMO 2022年モデルでもっとも人気の高い……いや、すでに完売してしまったので高かった(涙)仕様ということになる。

2021年4月の先行公開・予約注文受け付け開始に続き、同年8月に価格が発表された「日産GT-R NISMOスペシャルエディション」。価格発表時には、すでに予定していた販売台数を超えていたため、オーダー受け付けが終了していたという人気である。車両本体価格は2464万円。
2021年4月の先行公開・予約注文受け付け開始に続き、同年8月に価格が発表された「日産GT-R NISMOスペシャルエディション」。価格発表時には、すでに予定していた販売台数を超えていたため、オーダー受け付けが終了していたという人気である。車両本体価格は2464万円。拡大
クリア塗装を施したカーボン製のNACAダクト付きエンジンフードが採用された「GT-R NISMOスペシャルエディション」。軽量化や冷却性能の向上も、同車の開発コンセプトに掲げられている。
クリア塗装を施したカーボン製のNACAダクト付きエンジンフードが採用された「GT-R NISMOスペシャルエディション」。軽量化や冷却性能の向上も、同車の開発コンセプトに掲げられている。拡大
リムが赤く飾られたレイズ製の専用20インチ鍛造アルミホイールは、「GT-R NISMOスペシャルエディション」の専用アイテム。前255/40ZRF20、後ろ285/35ZRF20サイズの「ダンロップSP SPORT MAXX GT 600 DSST」ランフラットタイヤを組み合わせている。
リムが赤く飾られたレイズ製の専用20インチ鍛造アルミホイールは、「GT-R NISMOスペシャルエディション」の専用アイテム。前255/40ZRF20、後ろ285/35ZRF20サイズの「ダンロップSP SPORT MAXX GT 600 DSST」ランフラットタイヤを組み合わせている。拡大
「GT-R NISMOスペシャルエディション」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4690×1895×1370mmで、ベースとなった「GT-R」よりも全長が20mm短い設定だ。
「GT-R NISMOスペシャルエディション」のボディーサイズは全長×全幅×全高=4690×1895×1370mmで、ベースとなった「GT-R」よりも全長が20mm短い設定だ。拡大
日産 GT-R の中古車

乗り心地の進化は驚くほど

このNISMO 2022年モデルについては、メカニズム内容は基本的に2020年モデルと同じである。NISMOの2020年モデルといえば、webCGではこれまた渡辺敏史さんが試乗リポートで「金字塔」と評しておられた。つまり名作ということだ。

筆者個人としてはGT-RのNISMOに乗るのは、ひと世代前の2017年モデル以来だ。で、この史上最強にして、おそらく最終進化形となるであろうGT-Rには心底驚いた。いや感動した。すごい。すごすぎる。

走りだした瞬間から、まるでレーシングカーのように武骨な変速マナーは相変わらずだ。「ドガシャン!」という変速ショックとパワートレインのメカノイズに加えて、エンジン音はもちろんロードノイズも盛大なのは、以前のNISMOと変わりない。

GT-Rの生産終了が取りざたされる最大の理由は、厳格化される車外騒音規制への対応が危惧されているからだ。もちろん、こうして市街地をゆっくり移動するときの車内と、規制される車外騒音はちょっと別の話だが、「これだけ騒々しいなら仕方ないか?」と妙に納得してしまうくらいにはうるさい。

いっぽうで、乗り心地が飛躍的に良くなっていることにまずは驚く。しかし、それは“柔らかくなった”とか“しなやかになった”という一般的な感覚とは少しちがう。路面のアタリそのものは「コンフォート」モードでも芯のある硬さは残っており、いかなる基準をもってしても揺すられる乗り心地ではある。

ただ、以前のような硬いバネとコンフォートモードの低い減衰が釣り合っていないようなフワつく上下動は、明らかに減少した。それどころか、高速道に乗り入れると明らかに落ち着きが増して、100km/hに達すると、硬いのに滑らかでヒタリと吸いつくフラットライドになる。これはちょっと感動的なほどだ。

「GT-R NISMO」の予約注文においては99%が「スペシャルエディション」で占められ、ボディーカラーは約半数の車両で、今回の試乗車両と同じNISMO専用の新色「NISMOステルスグレー」が選択されたという。
「GT-R NISMO」の予約注文においては99%が「スペシャルエディション」で占められ、ボディーカラーは約半数の車両で、今回の試乗車両と同じNISMO専用の新色「NISMOステルスグレー」が選択されたという。拡大
「GT-R NISMOスペシャルエディション」のインストゥルメントパネル。センターコンソール中央上部に位置する8インチワイドディスプレイに、ブースト計や油温・油圧計、水温系などが切り替え表示できる。
「GT-R NISMOスペシャルエディション」のインストゥルメントパネル。センターコンソール中央上部に位置する8インチワイドディスプレイに、ブースト計や油温・油圧計、水温系などが切り替え表示できる。拡大
センターコンソール下部に、ドライブトレインやサスペンション、スタビリティーコントロールの制御切り替えスイッチが備わる。いずれも「R」モードが最強の設定となる。
センターコンソール下部に、ドライブトレインやサスペンション、スタビリティーコントロールの制御切り替えスイッチが備わる。いずれも「R」モードが最強の設定となる。拡大
カーボン調のメーターパネルに組み込まれた340km/hスケールの速度計と、8000rpmまで刻まれたエンジン回転計。赤いエンジン回転計は「NISMO」専用のデザインだ。ステアリングホイールのチルト機構と連動しメータークラスターが上下するため、メーターの視認性は良好である。
カーボン調のメーターパネルに組み込まれた340km/hスケールの速度計と、8000rpmまで刻まれたエンジン回転計。赤いエンジン回転計は「NISMO」専用のデザインだ。ステアリングホイールのチルト機構と連動しメータークラスターが上下するため、メーターの視認性は良好である。拡大

本物の空力性能

ダンピングモードを「ノーマル」そして「R」へと引き締めていくと、揺り戻し的な上下動が減少するかわりに、突き上げは素直に鋭くなっていく。いっぽうで、もっとも硬いRモードでも以前のようには背骨に響かない。さらに、ワンダリングが明らかに軽減したことも2020年モデル以降のNISMOの美点といっていいが、これには丸みを帯びたショルダーをもつ専用タイヤのおかげもあろう。

曇天下での撮影を終えて、箱根に足を延ばすと、無情にも雨が降り出した。心が折れかけるが、意を決していつもの山坂道にアシを踏み入れると、一瞬にして気持ちが高揚した。この濃厚きわまりない接地感はなんだ!

ウエットの箱根は明らかに滑りやすく、このように暴力的に速いクルマを走らすのは細心の注意が必要である。しかし、タイヤが路面に食いついている様子がステアリングから鮮明に伝わってくるので、安心感がハンパない。そうこうしているうちに雨が上がり、ところどころにドライ部分が顔を出しはじめる。ここぞとペースを引き上げると、さらに接地感が増してじわりと安定する。これは本物の空力をもつクルマ特有のフィーリングだ。

2017年モデルのNISMOを公道で走らせるときには、グリップはすこぶる高いが、どこか乗せられているという、よそよそしさが少しあった。だから、筆者のようなアマチュアは路面ミューや旋回曲率、当日の天候や走行ペースに応じて、ダンパーモードをコンフォート、ノーマル、R……の間で細かく切り替えながら、接地感と俊敏性のバランスをとりたくなったものだ。しかし、最新のNISMOは、ムチを入れるときにはRモード一択で迷う必要はない。Rモードはバネとダンパー減衰がベストに釣り合って一体感が高まると同時に、最新NISMOならどんな状況や速度域でも濃厚な接地感が失われないからだ。

上部と後部にエアアウトレットダクトが備わる「NISMO」専用の拡幅カーボン製フロントフェンダー。専用フロントスポイラーによって増加したダウンフォース量から排出風流量を算出し、開口面積やルーバー突出量が決定されている。
上部と後部にエアアウトレットダクトが備わる「NISMO」専用の拡幅カーボン製フロントフェンダー。専用フロントスポイラーによって増加したダウンフォース量から排出風流量を算出し、開口面積やルーバー突出量が決定されている。拡大
コアフレーム構造の「NISMO」専用RECARO製「カーボンバックバケットシート」は標準で装備されるアイテム。外板色にかかわらず、シート表皮はブラックとレッドのコンビカラーとなる。
コアフレーム構造の「NISMO」専用RECARO製「カーボンバックバケットシート」は標準で装備されるアイテム。外板色にかかわらず、シート表皮はブラックとレッドのコンビカラーとなる。拡大
カーボン製ルーフは、軽量化を重視した平織りカーボン素材と低比重素材のサンドイッチ構造。PCM(Prepreg Compression Molding)工法を採用することにより、ルーフの平滑性を保ち表面品質を確保したという。
カーボン製ルーフは、軽量化を重視した平織りカーボン素材と低比重素材のサンドイッチ構造。PCM(Prepreg Compression Molding)工法を採用することにより、ルーフの平滑性を保ち表面品質を確保したという。拡大
UVカットの耐候性クリア塗装が施されたカーボン製のトランクリッドも「NISMO」専用のアイテム。アルミ製の同型製品よりも、約4kg軽く仕上げられている。
UVカットの耐候性クリア塗装が施されたカーボン製のトランクリッドも「NISMO」専用のアイテム。アルミ製の同型製品よりも、約4kg軽く仕上げられている。拡大

優しくまろやかな境地

こうなってくると、アクセルペダルにも自然と力がこもる。手組みの3.8リッターV6ツインターボは、2000rpmでも十二分なトルクを供出するが、3000rpm、4000rpmと回転上昇とともに力感と鋭さを上乗せしていく。そして5000rpm付近でさく裂したと思ったら、6000rpmからリミットの7000rpmに向けてさらに爆発する。しかも、過給ラグ的な“間”がまるで看取できないのも2020年モデル以降の特筆すべき美点で、その噛みつくようなレスポンスがまた、闘争心をかき立てる。

さらにいうと、トップエンドまで引っ張っても、ビビリ系の振動がまるで感じ取れないのは「高精度重量バランスエンジン部品」で組まれたスペシャルエディション専用エンジンゆえか。素晴らしく滑らかに回るのだ。

そういえば「ポルシェ911 GT3 RS」が積む自然吸気フラットシックスの9000rpmはすべてが溶け合った“クリーミー”な世界だった。7000rpmのGT-Rはそこまでの極致には至ってないが、少なくとも“まろやか”な肌ざわりである。突き刺すレスポンスと金属的なサウンドは本物のチューンドエンジンのそれなのに、どこかまろやかである。

いってみれば、このクルマはハンドリングもまろやかである。すべてをRモードにセットすると、全身が硬質感のカタマリと化して、グリップは強烈、身のこなしは電光石火にして正確無比、ブレーキは頭上からなにかに押さえつけられたように利く。しかし、アルカンターラ巻きのステアリングホイールやホールド性がさらに絶品となったレカロ製シートから伝わってくる接地感によって、すべてがまろやかな安心感で包み込まれるのだ。

これはおそらく、熟成きまわった車体やサスペンションに加えて、フェンダーアウトレットに象徴される、前輪も着実に接地させる空力によるところも大きいのだろう。希代の武士系スーパーカーもすべてがきわまると、優しくまろやかな境地に達するとは初めて知った。新しい発見は感動でもある。そして、これがそのまま感動のフィナーレになってしまうのかは、続報を待つしかない。

(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)

タービンブレード翼枚数の削減やブレード自体の薄肉化などで軽量に仕上げられた、IHI製「NISMO」専用GT3タービンを組み込む3.8リッターV6ツインターボエンジン。最高出力600PS/6800rpm、最大トルク652N・m/3600-5600rpmのスペックは、ベースモデルから変更されていない。
タービンブレード翼枚数の削減やブレード自体の薄肉化などで軽量に仕上げられた、IHI製「NISMO」専用GT3タービンを組み込む3.8リッターV6ツインターボエンジン。最高出力600PS/6800rpm、最大トルク652N・m/3600-5600rpmのスペックは、ベースモデルから変更されていない。拡大
ピストンリングやバルブスプリング、コンロッド、クランクシャフトなどにバランスどりされた高精度パーツを採用。組み立て精度の高い特別なエンジンの証しとして、前方に備わる「匠」のネームプレートは、アルミ製の赤文字仕様になっている。
ピストンリングやバルブスプリング、コンロッド、クランクシャフトなどにバランスどりされた高精度パーツを採用。組み立て精度の高い特別なエンジンの証しとして、前方に備わる「匠」のネームプレートは、アルミ製の赤文字仕様になっている。拡大
「GT-R NISMOスペシャルエディション」に標準で装備される、レッドセンターマーク付きのアルカンターラ巻きステアリングホイール。ルーフトリムやサンバイザーなどもアルカンターラでコーディネートされている。
「GT-R NISMOスペシャルエディション」に標準で装備される、レッドセンターマーク付きのアルカンターラ巻きステアリングホイール。ルーフトリムやサンバイザーなどもアルカンターラでコーディネートされている。拡大
控えめなボリュームだが快音を響かせてワインディングロードを行く「GT-R NISMOスペシャルエディション」。電子制御バルブ付きFUJITSUBO製チタン合金製マフラー&チタン製エキゾーストフィニッシャーも同モデルの特徴的な装備だ。
控えめなボリュームだが快音を響かせてワインディングロードを行く「GT-R NISMOスペシャルエディション」。電子制御バルブ付きFUJITSUBO製チタン合金製マフラー&チタン製エキゾーストフィニッシャーも同モデルの特徴的な装備だ。拡大

テスト車のデータ

日産GT-R NISMOスペシャルエディション

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1895×1370mm
ホイールベース:2780mm
車重:1720kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.8リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:600PS(441kW)/6800rpm
最大トルク:652N・m(66.5kgf・m)/3600-5600rpm
タイヤ:(前)255/40ZRF20 101Y/(後)285/35ZRF20 104Y(ダンロップSP SPORT MAXX GT 600 DSST)
燃費:--km/リッター
価格:2464万円/テスト車=2503万0669円
オプション装備:ボディーカラー<NISMOステルスグレー/KCEスクラッチシールド>(4万4000円)/SRSカーテンエアバッグ(7万7000円)/プライバシーガラス<リアクオーター+リア>(3万3000円) ※以下、販売店オプション 日産オリジナルドライブレコーダー(8万3934円)/ウィンドウはっ水12カ月<フロントウィンドウ1面+フロントドアガラス2面>(1万1935円)/NISSAN GT-R専用フロアマット(14万0800円)

テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:3926km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:458.2km
使用燃料:69.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.6km/リッター(満タン法)/7.1km/リッター(車載燃費計計測値)

日産GT-R NISMOスペシャルエディション
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佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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