第33回:マイカーにも自動運転を! 半導体大手モービルアイが掲げた明確なビジョン
2022.01.25 カーテク未来招来 拡大 |
オミクロン株の感染急拡大で、リアルな出展企業数が例年の半分程度にとどまった「CES 2022」。しかしその中身はかなり充実していた。ひとつは自動運転関連で重要な発表が相次いだことだ。今回と次回は、米インテルの子会社であり自動運転用半導体大手のイスラエル・モービルアイの戦略を取り上げる。
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多数の自動車メーカーが採用するモービルアイの技術
アタマのいい人の話は聞いていて気持ちがいい。事実に裏打ちされない美辞麗句がなく、論旨が整然としていて理解しやすい。現在の自動車業界では、米テスラCEOのイーロン・マスク氏、そしてモービルアイCEOのアムノン・シャシュア氏がその双璧だと筆者は思っている。
そのモービルアイがCES 2022で盛りだくさんな発表をした。これまでもモービルアイの技術を使ってきた独フォルクスワーゲン(VW)は、ADAS(先進運転支援システム)である「Travel Assist」の新バージョン「Travel Assist 2.5」に、モービルアイのデジタル地図生成技術である「REM」(Road Experience Management)を活用すると発表した。REMは、車載カメラの画像データやGPSデータをクラウドに収集し、自動運転用のデジタル地図を自動生成する技術である。このREMを活用することで、Travel Assist 2.5では車線のない道路でも運転支援が可能になる。
同じく、これまでもモービルアイの技術を活用してきた米フォード・モーターも、自社のADAS「BlueCruise」の将来バージョンにREMを活用することを発表した。BlueCruiseは高速道路など限定された道路環境での手放し運転を可能にするADASで、REMを活用することにより、やはり車線のない道路でも運転支援が可能になるという。
これらは“人間の監視下で動作するシステム”の高度化だが、より注目されるのが“自動運転”に関する技術で、今回のCESでは「2024年に自家用車向けの“レベル4”の自動運転技術を実用化する」という発表がなされた。中国吉利控股集団のプレミアムEV(電気自動車)ブランド、ZEEKR(ジーカー)の製品にモービルアイの自動運転システム「Mobileye Drive」を搭載し、レベル4の自動運転車両として個人向けに提供する計画があることを明らかにしたのだ。
目的と用途に応じた3つの新しい半導体を発表
個人向けの自動運転車については、ホンダが2025年にレベル4の実用化を目指すことを先に公表しているが、ZEEKRはそれよりも1年早い実用化を目指していることになる。ただし、ホンダのそれが高速道路限定と予測されているのに対し、ZEEKRのレベル4がどういった条件下での使用を前提としているかは、まだ明らかになっていない。
またモービルアイは、こうしたADASや自動運転を実現する要素技術でも新たな発表をした。ひとつは自動運転システムの中核となる半導体だ。モービルアイは以前から、カメラで読み取った画像から物体を認識する画像処理半導体を「EyeQ」としてシリーズ化してきた。最新世代の「EyeQ5」は、独BMWの「7シリーズ」に搭載され、2022年にも“レベル3”の自動運転を実現すると予測されている。
今回のCESで発表された新世代の画像処理半導体は3種類ある。「EyeQ6 Light」「EyeQ6 High」、そして「EyeQ ULTRA」である。数字(および数字+アルファベット1文字)ではない名称がEyeQシリーズに付いたのは初めてだし、これまで数字が増えるほど高性能になってきたEyeQシリーズの伝統が、EyeQ6では崩れたのも目新しい点だ。EyeQ6 Lightは消費電力の低減や低コスト化を狙った製品で、演算能力自体はEyeQ5よりむしろ低い。
もう一度整理して紹介すると、EyeQ ULTRAはレベル4の自動運転機能を1チップで実現できる能力を備えたSoC(システム・オン・チップ)で、演算能力は176TOPS(1秒間に176兆回)と、EyeQ5の高性能バージョン「EyeQ5H」(12TOPS)のおよそ15倍。2023年第4四半期からサンプル出荷を始めるという。他方で、EyeQ6 Highは“手放し運転”などを可能にする高性能ADAS向けの半導体だ。演算能力は34TOPSとEyeQ5Hの約3倍だが、消費電力は25%増で済んでいるという。サンプル出荷の時期は2022年第4四半期が予定される。
そしてEyeQ6 Lightは、演算能力は5TOPSとEyeQ5Hの半分以下だが、「EyeQ4」の普及バージョンである「EyeQ4M」に比べると4.5倍であり、しかもパッケージのサイズは45%小さくなっている。日産自動車の「プロパイロット2.0」がEyeQ4で実現できていることを考えれば、十分高性能なSoCといっていいだろう。こちらのサンプル出荷時期は2022年の第2四半期と発表されている。
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自動運転の性能は半導体の性能だけでは決まらない
興味深いのは、モービルアイがEyeQ ULTRAの演算性能を176TOPSに“とどめた”ことだ。というのも、ライバルとなる米エヌビディアの最新自動運転用半導体「NVIDIA DRIVE ORIN」の演算能力は254TOPSだし、EyeQ ULTRAと同じく2023年からサンプル出荷が予定される次世代SoC「NVIDIA DRIVE ATLAN」は1000TOPSを標榜(ひょうぼう)している。新たに自動運転用半導体に参入した米クアルコムのADAS/自動運転用SoC「Snapdragon Ride Platform」も、ADAS用の10TOPSから自動運転用の700TOPSまで幅広い性能を実現できるのが特徴だとしている。TOPSの数値だけを見れば、エヌビディアやクアルコムの半導体の性能は、段違いだ。
ただし、こうした「TOPS競争」から、モービルアイは一歩引いた姿勢をみせる。その理由は、自動運転の性能は半導体の演算能力だけでは決まらないという思いがあるからだ。モービルアイは同社の自動運転技術を支える4つの柱として、「目的に合わせて最適化されたSoC」「ソフトウエアで機能を定義するイメージングレーダー」「計算量の削減」「REM」を挙げる。このうち、ひとつ目の「目的に合わせて最適化されたSoC」がEyeQシリーズであり、たとえ数値上の演算能力が低くても、3番目の「計算量を削減」する手法によって自動運転の実現に十分な性能を発揮できるとモービルアイは自信をみせる。
そこで次回は、モービルアイが計算負荷を低減するために、どのような手法を採っているか。そして同社が考えるセンサー戦略について取り上げる。(つづく)
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=モービルアイ、Newspress、CES、エヌビディア、クアルコム/編集=堀田剛資)

鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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