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止まらない輸入車の値上げ 「原材料費の高騰」とは具体的に何が高騰しているのか

2022.03.02 デイリーコラム 林 愛子
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牛丼1173杯分の値上げ

昨年から今年にかけて、モノの価格が上昇している。吉野家の牛丼並盛りは387円から426円に改定された。松屋、すき家、丸亀製麺も定番商品を10円から数十円程度値上げし、洗剤などの消費財も上昇基調。大手消費財メーカーの一律値上げに小売店が反発し、取り扱いをやめると発表したことも話題になった。

自動車業界でも輸入車の価格改定が相次いでいる。牛丼の値上げは数十円程度だが、クルマはもともとの価格が高いので、値上げ額は万単位になってしまう。なかでも「ベントレー・コンチネンタルGT V8マリナー」は50万円アップと大幅値上げだが、新価格は3500万円なので、1.4%アップにすぎない。割合だけを見れば、牛丼よりも控えめな値上げなのだ。それでも、一庶民としては「50万円あったら並盛りが1173杯食べられるのに……」などとぼやきたくなるが、そこはぐっとこらえて、最近の価格改定について考えてみたい。

ガソリン代が高いときは産業界も厳しい?

多くのメーカーが価格改定の理由として挙げるのが、原材料費の高騰だ。牛丼の場合は主材料である輸入牛肉の価格が高騰すると原価が上がり、仕入れ負担の増大を経営努力で吸収できなくなると商品価格に転嫁する、つまり価格を改定する。

自動車業界は自動車メーカーを頂点とする巨大な産業ピラミッドで成り立ち、自動車には多数の協力会社によってつくられた膨大な数の部品が使われている。仮に一台あたりの部品が3万点だとして、およそ半分は鉄を使った鋼板が使われるので、もしも鉄の市場価格が高騰して部品1点が平均10円の値上げとなったら、自動車1台あたりの原材料費は15万円アップする。実際にはこのような単純計算ではないが、多くの部品や工程に影響する“モノ”の費用が上がれば、全体には大きな影響を及ぼすというわけだ。

そんな影響力が大きい“モノ”の一つが原油だ。2021年後半から原油価格が高騰し、市民生活にもガソリン代や灯油価格の上昇といったかたちで影響が出ているが、産業界も打撃を受けている。化学製品・プラスチック製品など、石油を原材料として使う産業では原材料費の負担が増し、加工時に多くの熱量を必要とする鉄鋼業や窯業では燃料費高騰のあおりを受けている。ある程度の価格変動は吸収できても、今回の原油高は長期化する見込みで、製品価格への転嫁を回避できないケースは今後も出てきそうだ。

シトロエン各車は値上げが繰り返されており、2022年1月1日付でも価格改定が実施された(値上げ)。例えば「C3エアクロスSUV」は2019年7月の国内導入時よりも30万円ほど高くなっている。
シトロエン各車は値上げが繰り返されており、2022年1月1日付でも価格改定が実施された(値上げ)。例えば「C3エアクロスSUV」は2019年7月の国内導入時よりも30万円ほど高くなっている。拡大

全部コロナのせい……にはできない

価格改定に影響する要素として原油を挙げたが、世界的に物価は上昇傾向にある。要因として無視できないのは、やはりCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)だ。今回のコロナ禍でサプライチェーン(SC)の脆弱(ぜいじゃく)性が露呈した。東日本大震災の際にも、特定の部品を被災地に頼っていたため完成車を出荷できないことがあった。その経験から企業ではBCP(事業継続計画)の観点で部品調達網の多様化を図ってきたが、コロナ禍は想定リスクを上回り、グローバルなSCを持ちながら対処できないケースがあった。

なかでも半導体不足は深刻だ。そもそもコロナ以前から半導体産業は活況で、需要は右肩上がりだった。そこにコロナ禍が襲いかかり生産・供給体制が不安定になる一方で、市場では感染症対策として通信機器やテレワーク関連機器の需要が拡大したため、最先端ではなく、コモディティー化した半導体製品の需給バランスが完全に崩れてしまった。

大正時代のスペイン風邪に照らし合わせて100年に一度のパンデミックと表現することもあるが、専門家によれば“次”は100年を待たずに起こる可能性が高い。そうなると、企業としては“次”に備えてSCの強化や代替部品の開発など、BCPをより強化していかなければならない。テスラは半導体を自前で調達できる体制を敷いていたため、今回の半導体不足の影響をほぼ受けていないという。そこまでの投資ができる企業は多くないだろうが、多かれ少なかれ新たな投資が必要になる。こうしたことも製品価格に影響する要素の一つである。

ほかにも円相場や地政学、法改正なども影響するわけだが、原材料費高騰をそのまま製品価格に転嫁すれば、顧客の離反を招きかねない。そのため企業は個々の変動に左右されないようにリスクを分散するとともに内部留保をもって対処するのが一般的だ。しかし、変化をチャンスに転換することもできる。例えば、「チロルチョコ」はオイルショックのときに原材料費が高騰したため、小型の正方形にして低価格を維持したことが、現在の商品コンセプトの基盤になっている。きっかけは原材料費高騰でも何でもいい。それを起点により良い製品を開発し、世に送り出すことこそ企業の果たすべき使命だ。輸入車メーカーの価格改定が単なる値上げにとどまらないことを願っている。

(文=林 愛子/写真=グループPSAジャパン、FCAジャパン/編集=藤沢 勝)

「ジープ・ラングラー」も値上がり顕著な一台だ。現行のJL型が国内導入された当時(2018年7月)は459万~494万円だったが、2022年3月1日付で704万~743万円に改定された。
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林 愛子

林 愛子

技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。

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