クロスドメイン統合制御で車両挙動が激変 Astemoの最新技術を実車で試す
2025.10.29 デイリーコラムアステモの「勝ち技」とは
ケーヒン、ショーワ、ニッシン……といえば、オッさん筋にはクルマというよりバイクにおいて、ホンダの走る・曲がる・止まるを支えていたブランドというイメージが強いかもしれません。それらホンダ系のサプライヤーと、日産との関係が深い日立オートモティブシステムズとが経営統合してできた「日立Astemo」が、2025年4月に「Astemo(以下アステモ)」として再発進しました。
日立の冠が外れたのは経産省所管の投資ファンド、JICキャピタルの20%資本参入に伴い、日立の減資とホンダの増資で出資比率を40%同士で合わせたためで、大勢に変化はありません。売上高2兆円超、従業員数約8万人という規模は、デンソーとアイシンに次ぐもので、日本の3大サプライヤーの一角を占めています。OEM(いわゆる自動車メーカー)の主要取引先はホンダと日産だけでなく、トヨタやゼネラルモーターズ、フォルクスワーゲンなど多岐にわたります。
そんなアステモも例に漏れずソフトウエアディファインドの波にもまれているわけで、その基となる電子プラットフォームの、現在のクラウド接続型から常時接続型、そしてクラウドネイティブへと発展させるインターネットオブビークル=IoV化を推し進めようとしています。これにより、OEMのさまざまなニーズに応える基盤を確立するというのが向こう10年前後を見通した際の長期的なビジョンです。
そのうえで、アステモの「勝ち技」(という言葉を自動車業界ではよく用います)は何なのかといえば、先述の名前をみればお分かりのとおり、走る・曲がる・止まるにまつわるハードウエアに関わってきた歴史の長さ、その開発や生産にまつわる膨大なノウハウが挙げられます。これらを単品個々ではなく多面多層的に捉えてソフトウエアでコントロールする、クロスドメイン統合制御ということになるのでしょう。ダンパーやブレーキ、ステアリングシステムやエンジンコントロールユニット、モーターなど、手がけるハードウエアの領域は多岐にわたりますが、それらの特性を理解し、横串を通した制御によって相乗効果を引き出す。そういう提案ができるのが強みということになります。
電動化時代のクロスドメイン統合制御
今回、アステモがOEM向けに毎年独自に開催しているアステモテックショージャパン2025で、その将来的な技術開発のいくつかを一部のメディア向けにも披露しました。とりわけ、持ち前のクロスドメイン統合制御を織り込んだのが、ホンダが中国で展開する電気自動車(BEV)「Ye(イエ)」シリーズをベースとしたテスト車両です。2024年に発売したばかりの「S7」をベースにステアバイワイヤ化を施し、ブレーキバイワイヤやリアアクスルステアリング、セミアクティブダンパー、さらには前後モーターアクスルなどを自前の最新ものに換装したうえで、前述のIoV化に適応した電子プラットフォームでドライブするという、そんな内訳でした。
テスト車両のアジャストレベルを知るうえでまずはベースモデルのYe S7に初めて乗ったのですが、ホンダ車としてはちょっと穏やかな味つけに仕上げられているようにうかがえました。言い換えれば大陸らしいおおらかさということなのかもしれません。アメ車好きの自分としては悪くないなと思いましたが、ホンダに特段のスポーティネスを期待する向きにはユルいと断じられるかもしれません。
こういう、ユーザーおのおのの好みに即座に合わせ込めること、あるいはつくり手側の立場であれば走り込みと同時進行でセッティングが反映される、このスピード感と精細さこそが電動化時代のクロスドメイン統合制御の美点といえるのでしょう。今回はデモということで数あるパラメーターのなかから前後駆動配分やアンチジャーク、6軸姿勢などの項目を手元のタブレットで変更しながら逐一その動的質感を確認するというメニューになりましたが、それだけでも走りの印象は同じ車体とは思えないほど激変しました。骨格の初期設定とは関係ないところで、ここまで極端に走り味を違えられるというのはいかにもデジタライゼーションマジックを感じさせる話です。
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減衰力制御情報もクラウドから
こういうことを見せられると、机上でぺしぺしキーボードを打てば何でもつくり込めてしまうのではないかと錯覚してしまいがちですが、そうはいかないのが物理の世界。1t、2tを動かす責任がいかに重いかを知る人々は、ダンパー1本にでもさらなる完璧さを求めるわけです。一方でコストは厳しく要求されるのがサプライヤーの常。そんななかでクラウドへの常時接続やネイティブ化へと道を進めるには、それによって実現できる項目がお金を払うユーザーにとっていかに魅力的であるかも考えなければなりません。それを動的質感面から掘り下げていく術(すべ)を持っているのが、まさにアステモの強みということになります。
そういうアイテムのひとつとして、位置情報と連動した路面入力情報をクラウドで共有しながら、既販の可変ダンピングサスペンションの減衰力制御をAIモデル化し、リアルタイムの車両挙動とも連携しながら最適な減衰特性を導き出すというテスト車両も体験できました。制御的には万一の入力に備えたバッファ用に従来のドライブモードのパラメーターでは追い込み切れていなかった減衰幅を、より正確かつ精緻なデータおよびその考察結果が得られることによって使い切れるようになったというイメージだといいますが、その乗り心地の変貌ぶりはコイルサスがエアサスになったくらいに鮮烈で、常時接続化されるとこういうベネフィットがあると体感できるなら、クラウドもまんざらではないなと思わされるものです。
OEMはOTA(Over The Air)を前提としたコネクテッドを商品性向上の柱に据えており、新車購入から〇年は使用料無料などのオマケをつけての普及に腐心しています。が、オマケ期間が切れてからの継続契約にこぎ着けるのはかなり難しいそうです。そういうOEMの悩みに目を配らせる。ちょっと前まではひたすら専門領域に没頭するのがサプライヤーのお仕事でしたが、ティア1ともなれば専門領域から派生するすべてのお困りごとを解決する術が期待されるわけです。この大変さを前向きに捉えれば、アイデアやセンスで道が開かれる機会はがぜん増えているということになるのでしょう。
(文=渡辺敏史/写真=Astemo/編集=藤沢 勝)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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