マセラティ・レヴァンテ(4WD/8AT)
プレミアムSUVの新風 2016.11.09 試乗記 続々とニューモデルが現れるプレミアムSUV市場に、マセラティが送り込んだのが「レヴァンテ」である。イタリアの老舗が満を持してリリースした同車には、ドイツ勢に比肩する走りの実力と、このブランドだけに許された官能性が備わっていた。始まりは2003年
このところプレミアムブランドのSUVが次々と登場し市場は大豊作状態。SUV発祥の地ともいえるアメリカはもちろんのこと、世界的なSUVブームをけん引するメルセデスやBMW、ポルシェといったジャーマンブランドのみならず、最近ではジャガーやベントレーといった英国ブランドまでもSUVに力を入れ始めているのはご存じのとおりである。そんな中、イタリアのオシャレ銘柄たるマセラティも、そのムーブメントのど真ん中でSUVのレヴァンテを開発。2016年5月のジャパンプレミアに続き、この秋から徐々にユーザーへデリバリーし始めた。
よってクルマ好きの間でも、世界的なSUVブームを受けてその波に乗るべくマセラティがレヴァンテを開発したかのように思われているが、意外にもマセラティのSUVプロジェクトはスタートが早かった。歴史をさかのぼると、それはなんと2003年のNAIAS(北米国際自動車ショー、通称デトロイトショー)で公開されたコンセプトカーの「クバング」にそのルーツを見ることができる。「BMW X5」がデビューし、それに続き初代「ポルシェ・カイエン」が登場した翌年の話である。これは、かのジョルジェット・ジウジアーロ率いる当時のイタルデザイン・ジウジアーロ社の提案型コンセプトモデルだった。もちろんこの時はポルシェに続きマセラティもSUVを開発するのか、と大きな話題にもなった。
それからしばしの沈黙の後、2011年のフランクフルトショーで、再びクバングが公開された。こちらはジウジアーロが手がけた第1作とは異なり、マセラティ・チェントロスティーレが社内でデザインを行ったコンセプトモデルだった。その時点での想定プラットフォームはFCAグループのジープ系4WDシステムの流用で、むろん、市販車として今われわれがステアリングを握っているレヴァンテとは基本構成を大きく異にするものだ。
つまり、ここで何が言いたいのかといえば、「FCAグループのスケールメリットを最大限に生かし、昨今のプレミアムSUVブームに乗り遅れまいとマセラティがSUVを作った」といううわさは正しくないということである。マセラティは実に10年以上もの時間をかけてSUV開発プロジェクトを入念に進めてきた。その事実を、まずは理解してほしいのだ。
実はフルサイズ級の体格
レヴァンテとは地中海に吹く東風の名称だ。マセラティ第5のモデルにして同ブランド初のSUVもまた、その伝統に漏れず風の名前が与えられたことになる。通常は暖かく穏やかだが、瞬時にして強風に変わることもあるというレヴァンテ=地中海の東風は、まさにスポーツカーとSUVの融合という、レヴァンテが目指す二面性を見事に言い表す絶妙なネーミングではないか。
実車を見れば確かに背は高いが、どこからどう見てもマセラティたる押し出し感のあるフロントフェイスは、マセラティの100周年記念コンセプトカーとして登場した「アルフィエーリ」で提案された次世代マセラティの意匠を踏襲している。グリルやヘッドライトはもちろんだが、何かの硬質な塊から削り出したようなソリッド感あふれるボディーフォルムもまたアルフィエーリ譲り。3連のサイドベントやリアコンビネーションライトにも現行マセラティとの関連性が確認できるモダンなたたずまいだ。
ボディーが丸みを帯びているため実際に車両を見ても分かりづらいのだが、レヴァンテはかなり大柄な体躯(たいく)の持ち主である。まわりのクルマ好きに「レヴァンテに乗ったよ」とあいさつがてらに話すと意外に食いつきは良く(さすがはプレミアムSUVブームだなとここでも実感するのだが)、実車を見ていない人からは「やっぱりSUVでもマセラティらしいんですか?」という質問に続き、「『ジャガーFペース』とかと同じぐらいの大きさですか?」と必ずといっていいほどに聞かれる。
そもそもレヴァンテは、Fペースや「マカン」などとはクラスが違う。本当に写真では分からないし、そうは見えないのだが、全長×全幅×全高=5000×1985×1680mmというディメンションは、実はキング・オブ・オフローダーとしてSUV界に君臨する「レンジローバー」とほぼ同サイズ。ホイールベースは、なんとそのレンジローバーよりも長い3005mmという設定だ。つまり、やや低めの車高と丸みを帯びたエクステリアデザインによってついぞ錯覚してしまうのだが、レヴァンテはほぼフルサイズSUVと紹介しても間違いないフットプリント(路面専有面積)の持ち主であり、堂々と立派なフロントグリルと切れ長のヘッドライトのおかげもあって、押し出し感もなかなかのものである。この顔がバックミラーに迫ってきたら、どうしようもない圧を感じてしまうはずだ。
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0-100km/h加速は6.3秒
そんな顔と、「レンジと同じ大きさ」と言って必ず驚かれるサイズにもかかわらず(顔は関係ないが)、このSUVは恐ろしく速い。
マセラティではレヴァンテに対して十分な軽量化策を施したというが、ガソリンエンジン車の車重は2140kg。決して軽量とはいえない。意図的か恣意(しい)的かは不明だが、意地悪なwebCGの担当者は(笑)、この試乗車が350psの「レヴァンテ」なのか430psの「レヴァンテS」なのかを教えないまま試乗に送り出してくれた。どちらも排気量は3リッターで共にV6。チューニングの違いでグレード間の格差をつけるという最近のプレミアムブランドにありがちなマーケティング戦略だ。装備に若干の違いはあるが、その内容からはひと目でどちらのグレードかを言い当てることはこちらもまた少々難しい。
試されていた……わけではないだろうが、どちらのエンジンもアイドリングプラスから最大トルクを発生し、レヴァンテではそれが4500rpmまで続き、レヴァンテSでは5000rpmまで回りきる。とにかく高速道路のETCゲートを過ぎアクセルを床まで踏みつけると、7秒かからずに100km/hまで達する試乗車。遅いと感じるヒマはない。そのフル加速時であっても4輪の地面を捉えて離さない感覚が実に頼もしい。
これが350psバージョンだったら430psのレヴァンテSはどれほど速いのよ? そう独りごちながらスペックシートを見ると、レヴァンテSの0-100km/h加速タイムは5.2秒だった。ということで、果たして試乗車は350psバージョンのレヴァンテだったが、その同じスペックシートによれば、こちらの0-100km/h加速タイムは6.3秒だという。それでも十分速すぎである。
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まるでスポーツセダンのよう
そんな加速シーンでレヴァンテをよりマセラティらしく印象付けるのが、切り替え式のエキゾーストサウンドシステムである。これはシフトレバー横のスイッチひとつで簡単に切り替え可能だ。ノーマルモードではキャビンは静粛性が保たれ実にコンフォータブルだが、スポーツモードに切り替えた瞬間に排出ガスの流路が最短化、エンジンパフォーマンスを100%引き出し、同時に乾いたラウドでいかにもマセラティらしい咆哮(ほうこう)が背後から聞こえてくる。そのスポーツモードでは全車標準装備のスカイフックサスペンションが同時に足を固め、視線の高さを意識しなければSUVのステアリングを握っていること忘れそうになる。ステアリング操作への俊敏でダイレクトな反応は、例えるならギブリに近い。足は硬めとはいえ、それは決して不快なほどではなく、表現は難しいが「高級スポーツカーに乗っている」的なイイモノ感にあふれた味わいだ。背は高いが、ギブリのプラットフォームの進化型だという出自を思い出す。
コンフォートモードに入れておけば、高速道路では「クワトロポルテ」もかくやというフラットで快適なライド感で、一方ワインディングでは(今回の試乗コースは富士五湖周辺で、高速もワインディングも選び放題。良いコース設定である)、出来のいい8段ATを駆使し、ヒラリヒラリとコーナーをクリアできる。それはまるで再びギブリをドライブしているのかと錯覚するほどキレが良く、ボディーも小さく感じられるのだ。
走りを支える“スカイフック”
今回はさすがにオフロードに踏み込むようなまねはしなかったが、イタリアの国際試乗会でレヴァンテをドライブした経験から言わせてもらえば、マセラティがインテリジェントフルタイム4WDと呼ぶQ4 AWDシステムは、かなり優秀だった。前後のトルク配分を路面や車速などによってコントロールするオンデマンド式で、ヒルディセントコントロールなどのオフロード用の電子デバイスのほか、くだんのスカイフックサスペンションが車高を標準状態から25mm、40mmの2段階にリフトアップし、クリアランスを稼ぐ。
たとえオンロードタイヤのままであってもガレ場や泥濘(でいねい)路でのグリップ力は高く、十分にSUVを名乗る資格ありと太鼓判を押せた。急勾配のオフロードをものともしない登坂能力もまた、本格四駆に引けを取らない。マセラティに言わせれば、このオフロードの走破性をもたらす電子デバイスプログラムの、特にアルゴリズムの開発と設定にはかなりの時間をかけたという。これからのシーズンであれば、冬用のタイヤに交換して、ゲレンデエクスプレス的な活躍も期待できるだろう。
スカイフックサスペンションは、オフロード側だけでなく、高速走行時にも有効だ。ローダウン側には20mmと35mmの2段階で車高を引き下げるほか、パーキング時には乗降をサポートするために45mmまで車高を落とすというきめ細やかさ。オフロードでは車高を上げてSUVとして機能させ、オンロードではまるでギブリや「グラントゥーリズモ」のようなスポーツカー然とした走りを実現する。Q4 AWDシステムとともにスカイフックサスペンションは、レヴァンテをSUVでありながらマセラティたらしめる重要なキーデバイスなのだ。
使い古した言葉に頼らずとも
一方内外装の出来は、まぎれもなくプレミアムブランドたるマセラティそのものだ。ACCやレーンキープアシストなど、今どきの運転支援デバイスも抜かりなく標準装備され、「高いクルマだけのことはある」と納得させてくれる。少々イメージ的な表現にはなるが、キャビンにはドイツのプレミアムブランドとは違う艶(つや)があり、エクステリアにもマセラティフレーバーがあふれているとすれば、個性の点でも申し分ない。
V6(3リッターDOHCツインターボガソリンエンジン)という記号性と最高出力(350 ps)の数値だけを見ればさほど速そうには思えないのだが、背の高いSUVであることを思い出せばオンロードでの速さに不満を覚えることはないどころか、350psバージョンでも十分に速いとさえ言いたくなる。そしてそのV6が発するとは到底思えないわれわれがマセラティというブランドに期待する官能的なエキゾーストサウンドは、レンジローバーやポルシェ・カイエンといったライバルにはないマセラティだけの魅力でもある。個人的に気になるのはレンジローバーと変わらないボディーサイズと、幅こそあるがそのボディーサイズの割には広くもないリアシートだが(あくまでもサイズの割には、である)、この大きさが許容できるユーザーであれば、それはすなわち欠点とまではいえないだろう。
官能的なとか、ラテンの色気とか、エレガントな、などという主にひと昔前のイタリア車を紹介する際に使われがちだったふわふわした言葉を用いずとも、レヴァンテの魅力を語ることは十二分に可能だ。カタログに並ぶスペックやオン/オフのパフォーマンス、そしてクオリティーや信頼性というクルマの基本でも、市場をリードするドイツものにガチの勝負を挑める点が、これまでのイタリア車とは一線を画す。そんな基本を押さえたSUVであり、なおかつマセラティの放つイタリアンモード全開のオーラが匂い立つとくればどうだろう。ドイツ車一辺倒のプレミアムSUV市場に、地中海に吹く東風が新風を巻き起こしそうだ。
(文=櫻井健一/写真=田村 弥/編集=堀田剛資)
テスト車のデータ
マセラティ・レヴァンテ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5000×1985×1680mm
ホイールベース:3005mm
車重:2140kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:350ps(257kW)/5750rpm
最大トルク:51.0kgm(500Nm)/4500rpm
タイヤ:(前)265/40ZR21 101Y/(後)265/40ZR21 101Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:10.7リッター/100km(約9.3km/リッター、欧州複合モード)
価格:1080万円/テスト車=1355万2000円
オプション装備:スチールドアシル(12万円)/リアシートヒーター(4万5000円)/パノラマサンルーフ(36万円)/Bowers & Wilkinsサラウンドシステム(43万2000円)/ブラックカラード・ブレーキキャリパー(5万5000円)/ボディー同色ロワーパーツ(3万円)/21インチホイール(49万円)/アルカンターラ・ルーフライニング(20万円)/マイカ・ペイント(12万8000円)/ハイグロスエボニートリム(5万円)/クローム・トランクシル(3万円)/フルプレミアムレザー(35万2000円)/キックセンサー(1万円)/ドライバーアシスタンスパッケージ・プラス<レーンデパーチャー・ワーニング+フォワードコリジョン・ワーニング+アダプティブ・クルーズコントロール+ブラインドスポット・アラート>(45万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:1681km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:356.3km
使用燃料:46.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.6km/リッター(満タン法)/8.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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