マツダCX-60 e-SKYACTIV PHEVプロトタイプ(4WD/8AT)/CX-60 e-SKYACTIV Dプロトタイプ(4WD/8AT)
納得のポテンシャル 2022.04.07 試乗記 マツダの次世代を担うラージ商品群の第1弾モデル「CX-60」。正式発表に先がけ、テストコースでプロトタイプに試乗した。マツダが持てるすべてをかけて新開発したというFRプラットフォームや、電動化された最新パワーユニットの印象を報告する。シャシーもパワートレインも新開発
マツダが新たな技術開発の長期ビジョン「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」を発表した2021年6月。そこでは現在のエンジン横置き型のスモール商品群に加え、2022年にエンジン縦置きの新設計プラットフォームを用いたラージ商品群を導入することが明らかにされた。
ラージ商品群には直列6気筒の「スカイアクティブG」「スカイアクティブD」「スカイアクティブX」と、これらをベースとしたプラグインハイブリッド車(PHEV)や48Vマイルドハイブリッド車(MHEV)をラインナップ。さらに、2025年までに電気自動車(EV)を3モデル、PHEVを5モデル、ハイブリッド車を5モデル投入するという。
そうした流れのなかで、まずは2022年3月にラージ商品群の先鋒(せんぽう)として、欧州でCX-60が発表された。CX-60は2列シートのミッドサイズSUVで、マツダのデザイン言語を進化させたエクステリアデザインとエンジン縦置きプラットフォームらしいロングノーズのフォルムが特徴だ。
駆動方式はFRをベースとする4輪駆動で、2.5リッター直4自然吸気ガソリンエンジンと電動モーターを組み合わせたプラグインハイブリッドシステム「e-SKYACTIV PHEV」の導入と、3.3リッター直6ディーゼルターボ「e-SKYACTIV D」の存在も正式に発表された。前者のe-SKYACTIV PHEVはシステム最高出力が327PS、システム最大トルクが500N・m。後者のe-SKYACTIV Dは直6ディーゼルに48Vマイルドハイブリッドシステムが組み込まれ、エンジン単体の最高出力が254PS、最大トルクが550N・mで、これに最高出力17PS、最大トルク153N・mのモーターが加わる。
しかし、そうしたハードの情報以上に衝撃を受けたのが、5万2000ユーロ(邦貨にして約655万円)というフランスにおけるスタート価格である。フランス市場の価格設定が著しく高いものではないのは、英国の同価格が4万3950ポンド(同約664万円)という設定であることからも明らかだ。
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クルマ好きがニヤリとしそうなフォルム
世間ではそうした欧州での価格がひとり歩きしているようだが、気になるのはマツダが久々に新規開発したラージ商品群のFRプラットフォームとパワートレインのコンビネーション、デザイン、そして内外装の仕上がりである。もっとわかりやすく言うなら、価格に見合った価値があるのか、である。
今回ステアリングを握ったのは、左ハンドルのプロトタイプモデル。内外装がカムフラージュされた車両だった。試乗は山口・美祢にあるマツダの美祢自動車試験場内に限られたので、したがってリポートは路面コンディションのいいコースを中心としたものだ。欧州仕様車は画像もスペックも公開されているが、試乗車では内外装がカムフラージュされており、デザインと内外装の仕上がりについての報告は行えない。
ピットレーンに並んだCX-60は、比較対象物がないせいか大きさがわかりづらい。しかし、配布されたプロトタイプモデルの資料には全長×全幅×全高=4742×1890×1691mm、ホイールベース2870mmとあり、ほぼ「トヨタ・ハリアー」や後輪駆動ベースでいえば「BMW X3」と同等であることに気づく。
同時に、一般的にキャブフォワードといわれるエンジン横置きのFFプラットフォームとは異なり、運転席のポジションが後ろ寄りになっていることもわかる。視覚的に判別しやすいのは、前輪の中心軸とAピラー真下の距離。マツダのラインナップにおいては、フロントホイールアーチの後端とドアの間にスペースがないのが横置き、スペースがあるほうが縦置きと判別すればわかりやすい。
さらに言えば、近年のマツダ車はもともと前後オーバーハングが短いデザインを是としていたように思えるが、CX-60ではさらにフロントのオーバーハングが切り詰められている。カムフラージュされてはいるものの、キャビンが後ろ寄りの後輪駆動を軸とした少しクラシカルなフォルムと4輪をボディーの四隅に配置したスタンスは、クルマ好きが思わずニヤリとしそうなものである。
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“スポーティー”というキーワードを封印?
先にステアリングを握ったのは「CX-60 e-SKYACTIV PHEVプロトタイプ」である。相変わらずすぐにシートポジションがピタリと決まるのは、現在販売されている多くのマツダ車に共通する美点。左ハンドル仕様でもペダル配置に違和感はなく、手を伸ばしたところに自然と操作したいものが配置されているというコックピットのデザインにあらためて感心する。エクステリアと同じくインテリアにもカムフラージュが施されているため、内装の設(しつら)えや質感を確認できなかったのは残念だが、ファーストコンタクトは文句ナシだ。
発進時はモーター駆動により、スムーズのひとことである。動き出しの瞬間から、タイヤの丸さを感じることができた。この印象は、先導車に引っ張られながらコースを周回する間も変わることがなかった。タイヤは「ブリヂストン・アレンザ001」で、「ENLITEN(エンライトン)」と呼ばれる軽量化技術を用いたものになる。
サイズは前、後ろとも235/50R20。どちらかといえばエコタイヤ寄りのキャラクターとのことだが、折からの雨でもステアリングに対する手応えや路面からのインフォメーションに不満を覚えることはなかった。ただ、高速スラロームで割と簡単にスキール音が出たことを考えると、運転の楽しさを伝えつつも、“スポーツ”を前面に押し出したキャラではないということなのだろう。
その印象が正しいのかどうかを確かめるべく、開発者のプレゼンテーションを思い出しながら手元の資料をひっくり返してみても、“走る歓び”や“クルマの反応を五感で正確に感じ取れる設計”というフレーズは見つかったが、どこにも“スポーティー”というキーワードは発見できなかった。あえてなのか、たまたまなのか。しかし、タイヤのチョイスには、開発者の意図が隠されていそうだ。
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キレのいい新型8段AT
マツダが乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負をかけたラージ商品群のFRプラットフォームは、路面コンディションのいいテストコースではソリッドなフィーリングに終始した。右、左とステアリングを大きく切るような場面でも荷重移動がスムーズで、背の高いSUVを運転しているにもかかわらず、グラリとくるような不安を感じさせない。路面追従性が高く、スタビリティーが高いとまとめるのは簡単だが、単にそれだけではないようなピタリと安定した独特のフィーリングだ。バッテリーを床に敷き詰める電動化が前提なのだ。当然だろう。ただし、「CX-5」などの美点として挙げられる軽快さが、こちらでは薄味なのも新しいFRプラットフォームで感じた側面である。
システム全体で最高出力327PSと最大トルク500N・mを発生するe-SKYACTIV PHEVは、歴代マツダ車トップの高出力をうたうだけあってさすがにパワーに余裕がある。加速は痛快のひとことで、前後輪にトラクションが目いっぱいかかったシーンでは直進安定性も抜群だ。電動車で懸念されるトルクステアなどは皆無だし、エンジンとモーターの切り替えも、今回試した環境下ではほぼ完ぺきにシームレスであった。
メルセデスの高性能モデルに搭載される「AMGスピードシフトMCT」と似た構成となる新開発のトルクコンバーターレス8段ATは、変速時のキレのよさとだらだらと走ったときの寛容性を併せ持つ。このATはディーゼルにも搭載されるからなのか、電動車にはいまやお約束となった「Bレンジ」の設定はない。
したがってPHEVではあるものの、慣れれば街なかで重宝するワンペダルドライブは味わえない。マツダによれば、シフトパドルでマニュアル変速を行うことも運転の楽しさにつながるから、あえて設定していないのだという。だたし、Bレンジがなくても積極的に回生充電は行われているという説明があった。
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意のままに運転できるか
いっぽう3.3リッター直6ディーゼルはシングルターボで、これに48Vマイルドハイブリッドシステムが組み合わされる。燃焼効率の低い走行域をモーターが担当し、エンジン負荷の小さい高速巡行などの領域をディーゼルで効率よく回すという考え方だ。
この直6は、ディーゼルなのに気持ちよく回る。ピストンヘッドを2段エッグ型と呼ぶ半球形のくぼみを2つ備える独自形状とし、熱効率を40%以上確保。もちろん欧州の排ガス規制であるユーロ6dにも対応している。こちらもPHEVと同じく、発進時はモーターが担当し、ある程度負荷がかかるとエンジンが始動する。
その切り替えはとてもスムーズで、エンジンの始動音が気になったりトルクに谷があったりすることもない。ただ、アクセルオフ時にブローオフバルブの作動音が聞こえてくるのは、マツダの開発者は「意図したものではない」と言うが、1980年代のターボ車とともにクルマの楽しさを覚えた者としては、どこかそそられる。
サスペンションは既報のとおり、フロントがダブルウイッシュボーン式でリアがマルチリンク式となる。前後作動軸の角度をそろえることでホイールベース外に仮想のピッチングセンターを配置し、前後のバウンス挙動をシンクロさせる効果が得られるという。さらに「マツダ・ロードスター」に採用された「KPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)」をCX-60でも採り入れ、コーナリング時にリア内輪に微弱な制動をかけることでロールを抑制している。
KPCは今回の試乗で、ロールの抑制と同時に4輪の接地安定化にも効果的だと感じた。40Rの上り左コーナーで、気持ちのいい旋回スピードと姿勢を味わえたからだ。もしもこれがマツダの言う「意のままに運転できること」であり、「人間中心の開発」の結果なのであれば、ことさら“スポーティー”を訴えずとも、CX-60にはそれを納得させるだけのポテンシャルはあると判断できそうだ。正式なデビューを期待して待ちたい。
(文=櫻井健一/写真=マツダ/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
マツダCX-60 e-SKYACTIV PHEVプロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4742×1890×1691mm
ホイールベース:2870mm
車重:--kg
駆動方式:FF
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:水冷式二相交流電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:191PS(141kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:261N・m(26.6kgf・m)/4000rpm
モーター最高出力:175PS(129kW)/5500rpm
モーター最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)/4000rpm
システム最高出力:327PS(241kW)/6000rpm
システム最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/4000rpm
タイヤ:(前)235/50R20 100W/(後)235/50R20 100W(ブリヂストン・アレンザ001)
燃費:66.7km/リッター(ハイブリッド燃料消費率、WLTCモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト車の走行距離:5078km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
マツダCX-60 e-SKYACTIV Dプロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4742×1890×1691mm
ホイールベース:2870mm
車重:--kg
駆動方式:FF
エンジン:3.3リッター直6 DOHC 24バルブ ディーゼル ターボ
モーター:水冷式交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:254PS(187kW)/3750rpm
エンジン最大トルク:550N・m(56.1kgf・m)/1500-2400rpm
モーター最高出力:17PS(12.4kW)/900rpm
モーター最大トルク:153N・m(15.6kgf・m)/200rpm
タイヤ:(前)235/50R20 100W/(後)235/50R20 100W(ブリヂストン・アレンザ001)
燃費:--km/リッター
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト車の走行距離:5546km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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