マセラティ・グレカーレ トロフェオ(4WD/8AT)/マセラティ・グレカーレGT(4WD/8AT)
追い風が吹いている 2022.04.12 試乗記 「レヴァンテ」に続く、マセラティ史上2台目となるSUV「グレカーレ」にイタリア本国で試乗。個性的な内外装や、ミドシップスポーツ「MC20」譲りのパワーユニットなどトピックにあふれるミドルクラスSUVの仕上がりを、日本上陸を前に確かめた。実際よりもコンパクトに見える
「ミストラル」「ギブリ」「ボーラ」「カムシン」「シャマル」、そしてレヴァンテなど、風の名前を車名とすることを伝統としてきたマセラティ。そのマセラティに、地中海に吹く北東の風を意味するニューモデルが誕生した。モデルラインナップではレヴァンテの下に位置するミドルクラス、いわゆる最も売れ筋ともいえるDセグメントのSUV、グレカーレである。
本来ならば半年ほど前、2021年の秋に市場投入されていたはずのグレカーレだが、世界的な半導体不足の影響を受け、デビューが2022年4月にと半年ほど遅れた。ただ、そのぶん市場からの期待が高まる結果となった。最も強力なライバルは、もちろんポルシェのミドルクラスSUV「マカン」であろう。
まずは簡単にグレカーレの構成を解説しておこう。グレカーレの核ともいえるプラットフォームは、アルファ・ロメオの「ステルヴィオ」などですでに採用されている最新世代の「ジョルジョプラットフォーム」である。マセラティはそれを50mmほど延長して使用しているが、剛性に違いはないという。ボディーの全長はレヴァンテが5000mmを超えるのに対して、グレカーレはグレードによって差があるものの、どれも4860mm以内に収まり、全幅は2000mm、全高は1700mm以内に収まっている。日常の使い勝手は、混雑した都市部でも大きな負担にはならないだろう。ホイールベースは全モデルとも2901mmの設定だ。
実際に見るグレカーレは、レヴァンテとの関連性を表現しつつも、独自のプロポーションで時代と流行を超えたパフォーマンスを実現する彫刻のようなフィニッシュを感じさせる。マセラティはそれを「イタリアの建築とクラフトマンシップを革新的に再解釈したもの」と説明するが、エクステリアもインテリアもラグジュアリーな魅力を強く感じる仕上がりで、実際の外寸よりもコンパクトに見える。これもまたデザインの妙といえる部分だろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
電気自動車の「フォルゴーレ」も追加予定
グレカーレには3グレードが設定されている。そのトップに位置するのは、「MC20」に搭載された副燃焼室を持つ3リッターV6ツインターボエンジンをデチューンしてフロントに置く「トロフェオ」だ。潤滑方式をウエットサンプとするなど独自の改良を施した結果、最高出力は530PSに低下してしまったが、それでもこのボディーサイズにオーバー500PSのパワーユニットがもたらす走りには大きな期待を抱かせる。
組み合わされるトランスミッションは8段AT。駆動方式は、通常時の前後トルク配分が0:100の後輪駆動主体型となるAWDで、必要に応じて50:50までトルク配分が変化する。これはほかの2モデル、「モデナ」と「GT」に関しても同様だ。
そのモデナとGTは、いずれもマイルドハイブリッド仕様で、2リッター直4エンジンと48Vバッテリー、eブースター、BSGなどのコンポーネントによって構成されている。BSGはオルタネーターとして機能するほか、エンジンに組み合わされるeブースターに電力を供給。それによって電動コンプレッサーを駆動させ、低回転域から高速域までパワーを補完する。最高出力は、モデナが330PS、GTが300PS。さらに付け加えておくと、近くグレカーレのラインナップにはBEV(電気自動車)の「フォルゴーレ」の追加が予定されている。
サスペンションはトロフェオではエアサスペンションがスタンダードとなるが、これはモデナやGTでもオプション装着することが可能となっている。車高はドライブモードに連動するほか、ドライバーが6段階から任意に選択することもできる。エアサスペンションは65mmの幅で車高を調整。ノーマルモードを基準にパークモードでは35mm車高が下がり、オフロードモードでは最大30mmアップする。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
大排気量車のようなフィーリング
まずステアリングを握ったのは、トップモデルのトロフェオである。トロフェオでは、「オフロード」「コンフォート」「GT」「スポーツ」、そして「コルサ」の各ドライビングモードを任意に選択することができるが、最初はデフォルトともいえるGTをチョイスしてスタートした。ちなみに試乗当日は3月の末。イタリアではまだスタッドレスタイヤの装着が義務づけられている期間なので、それを差し引いて考えなければならない。
ところがまず驚かされたのは、その乗り心地の素晴らしさだった。これには例のジョルジョプラットフォームの出来の良さが最も大きく貢献していることは確か。さらにスポーツやコルサといったモードを選べば、乗り心地は少し硬めに、ステアリングの手ごたえもそれなりにしっかりしたものになる。
搭載される530PSの3リッターV6ツインターボエンジンは、低速域から実に豊かなトルクが味わえた。ターボラグをほとんど感じさせることはないから、より大きな排気量の自然吸気エンジン車をドライブしているような感覚に陥る。エキゾーストサウンドはスポーツかコルサのモードを選べば、ボリューム感のあるものに変化する。
ステアリングとブレーキのタッチも魅力的だ。ウインタータイヤを装着している関係から、フロントタイヤのグリップに最初は不安を抱いていたが、正確無比な、そして適度な手応えを持つステアリングがフロントタイヤの動きを正確に伝えてくれる。サマータイヤならば、その印象はさらに良い方向に変化するのだろう。フロントに360mm径ディスク+6ピストン、リアに350mm径ディスク+4ピストンという構成のブレーキはブレンボ製で、絶対的な制動力はもちろんのこと、リニアリティーにも違和感を覚えることはなかった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ベースグレードでも侮れない
そして今回もう一台試乗したのは、グレカーレのベーシックグレードとなるGTだ。300PSの最高出力は、やはりこのボディーサイズには必要にして十分な性能だった。ベーシックグレードとはいえ、GTのキャビンは独特な高級感に包まれている。
実際にGTのシートに身を委ねてみると、クルマの室内というよりも、高級なものに囲まれたリビングルームに近い感覚を抱いた。上級グレードと同じくセンターコンソールには最新の12.3インチセンターパネルと、8.8インチのコンフォートパネルがシームレスに組み込まれ、ほとんどの操作はこのパネルから行うことができる。さらにその上部にはデジタル化されたクロックも備わるが、これとて時計のほかにGメーターやラップタイム計測などの機能を持つ最新世代だ。
GTのインテリアカラーはブラックが基本だが、オプションではリッチなチョコレートカラーやグレージュ、あるいはブラックのプレミアムレザーとコントラストステッチなどが選択できるという。
BSGを使うハイブリッドシステムは、やはり低速域から魅力的なトルク感が味わえた。組み合わされるトランスミッションはトロフェオと同様に8段AT。駆動方式も変わらないが、やはりどの領域でも一瞬で必要なトルクが得られる、いわゆるレスポンスの良さは大きな魅力だろう。実際にこのGTは300PSの最高出力で1870kgのウェイトを負担。モデナは330PSで1895kgを負担するので、運動性能的にはほとんど体感できる差はないとも考えられる。つまりGTは単なるベースグレードと侮ってはいけないモデルなのだ。
今回このマイルドハイブリッド仕様をドライブして、近く誕生するというBEVフォルゴーレへの期待も大きく高まった。マセラティに吹きはじめた新たな強い追い風。それはこのグレカーレによって、さらにその風速を一気に増すことになりそうだ。
(文=山崎元裕/写真=マセラティ/編集=櫻井健一)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
マセラティ・グレカーレ トロフェオ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4859×1979×1659mm
ホイールベース:2901mm
車重:2027kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:530PS(390kW)/6500rpm
最大トルク:620N・m(63.2kgf・m)/3000-5500rpm
タイヤ:(前)255/40R21 102V M+S/(後)295/35R21 107V M+S(ピレリ・スコーピオンゼロ ウインター)
燃費:11.2リッター/100km(約8.9km/リッター、WLTCモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
マセラティ・グレカーレGT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4846×1948×1670mm
ホイールベース:2901mm
車重:--kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:300PS(220kW)/5750rpm
エンジン最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/2000-4000rpm
モーター最高出力:--PS(--kW)
モーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
タイヤ:(前)255/45R20 105V M+S/(後)255/45R20 105V M+S(ピレリ・スコーピオンゼロ ウインター)
燃費:8.7-9.2リッター/100km(約10.8-11.4km/リッター、WLTCモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

山崎 元裕
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。


















































