マセラティ・グレカーレGT(4WD/8AT)
進取の精神あり 2023.02.17 試乗記 「マセラティ・グレカーレ」がいよいよ日本の道を走り始めた。今回の試乗車「GT」は位置づけとしてはエントリーグレードだが、まさに「グランドツアラー」の名にふさわしい走りが味わえる。官能性とともに最新技術も手にしたマセラティである。中身はけっこう挑戦的
奇をてらわないというよりも、むしろちょっと地味めなスタイルのボディーのドアハンドルは電磁式。室内側も丸いボタンを押して開けるタイプ(ただし非常用のメカニカルレバーも目立たないように備わっている)で、ダッシュボードの物理スイッチも大胆に省略されている。イタリア人は新しもの好きである。いっぽうで、シートやダッシュのレザーの触感はうっとりするようなものでステッチワークも見事だ。こういう部分はやはりマセラティだと安心する。「レヴァンテ」に続くマセラティのSUV第2弾がグレカーレだが、クラシックなエレガンスを演出しているだけではなく、現代を生き抜くための新しい試みが満載である。
アルファ・ロメオの「ジュリア」「ステルヴィオ」などと同じ「ジョルジオプラットフォーム」を基本とするミドルクラスSUVのグレカーレだが、コロリとしたボディーの全長は4.9mに近く、全幅は1.95mでホイールベースも2.9mと日本では立派なラージサイズである。フロントではなくリアから見たほうがボディーのボリュームが分かりやすい造形だ。2022年5月に日本でも受注が始まっていたものだが、日本仕様は2リッター4気筒ターボ+マイルドハイブリッドのGTと、同じく「モデナ」、そして3リッターV6ツインターボの「トロフェオ」という3本立て。すべて後輪駆動ベースのAWDで8段ATである。このあと間もなく電気自動車の「フォルゴーレ」も追加されることになっているが、今回はまずエントリーグレードたるGTを紹介する。
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「eBooster」が効いている
グレカーレGTのパワーユニットはステランティスグループ内で広く使用されている2リッター4気筒直噴ターボ、いわゆる「グローバルミディアムエンジン」の48Vマイルドハイブリッド付き仕様である。GTが300PS、モデナで330PSという最高出力やマセラティとしては高回転型ではないことから判断する限り、先に登場した「ギブリ ハイブリッド」と同じユニットと思われるが、だとすると動弁系はフィアットパワートレイン由来の「マルチエア」になるはず。しかしながら日本のインポーターはこのような技術面の情報発信にはきわめて淡泊で、ホームページなどにも華々しい言葉が躍るばかりで一切記述がない。
グローバルミディアムエンジンにはDOHC版もあるが、マルチエアは排気側のカムシャフトがロッカーアームを介して吸気側バルブを油圧制御(タイミング/リフト可変)するシステムで、すなわちSOHCとなる。その上に48V電源によるベルトドリブンスタータージェネレーター(BSG)と「eBooster」と称するシステムが加わっているのが特徴で、GTは300PS/5750rpmと450N・m/2000-4000rpmを発生する。
予備知識なしに走りだすと、その低中速域のたくましさにびっくりするはずだ。ターボとはいえ、これで本当に2リッター4気筒なの? と疑ったほどである。続いて電動モーターのアシストが強力なのかと思ったが、ベルト駆動によるBSGの出力には限りがある。聞けばやはり最高出力は13.6PS(10kW)という。では加速中にメーター内で伸びる緑のバーグラフは何かと思ったが、それがeBoosterと称する電動コンプレッサーの作動状況のようだった。
軽快にして精悍
確かな返答はもらえていないが、eBoosterという同じ名称で数年前にボルグワーナーが48Vで駆動する電動コンプレッサーを発表しており、マセラティが使用するシステムもおそらくは同じものだと推測される。低速側は電動コンプレッサー(+若干のモーターアシスト)、高速域はターボがサポートということなら、グレカーレの鋭く力強い出足とレスポンス、それに比べるとパワーの盛り上がりに若干欠けるトップエンドという体感と一致するのだ。ちなみにタコメーターは5500rpmから赤いラインが始まっているが、実際には6000rpm強まで勢いよく回る。このメーターユニットはどうも「アルファ・ロメオ・トナーレ」(こちらも5500rpmからレッドゾーン)と同じもののようだ。グレカーレGTの0-100km/h加速は5.6秒、最高速は240km/hという。
かつてのマセラティの咆哮(ほうこう)とともに突き抜けるように回るエンジンではもちろんないが、eBoosterとターボのおかげで街なかでも非常にスムーズで扱いやすく(車重は1930kgもある)、それぞれのシステムの受け渡しもまったく感じられないほど洗練されている。燃費は特筆するほどではないが、ドライバビリティーと実用的な速度域までのパフォーマンスという点ではほとんど文句なしと言っていい。ついでに外で聞くと、ルロロロという獣のうなり声のような排気音は迫力満点。意識して作っているのだろうが、そのサウンドからはとても2リッター4気筒ターボマイルドハイブリッドであることは想像できない。
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いいじゃないか、と思ったらやはり
アルミ材を多用したボディーにダブルウイッシュボーン/マルチリンクのサスペンション、優秀な前後重量配分といったジョルジオプラットフォームの美点はグレカーレにも生かされており、ハンドリングは無駄な動きがなくはっきりスポーティーで正確だ。乗り心地はドライブモードによっては上下動が抑えきれていないと感じる場面もあるが、スピードが増すにつれてフラットで締まったものになる。どこかコツコツとした硬い革靴で歩いているようなソリッド感がマセラティらしい。ただし車高調整可能なエアサスペンションと可変ダンパー、そしてLSDは「コンフォートハンドリングパッケージ」に含まれるオプションという。
シートも上々、フロントだけでなくリアシートも座面長がちゃんと確保されているのがうれしい。グランドツアラーを名乗るにふさわしい快適さである。ひとつ気になるのはほとんどのスイッチがタッチスクリーンに集約されていること。今どき当たり前ともいえるのだが、ヘッドライトやハザードスイッチまでタッチ式というのはちょっと行きすぎかもしれない。
グレカーレは年明けから30万円ほど値上げされ、現在の車両価格は896万円である。ただし試乗車には数多くのオプションパッケージが装着されており、そのトータルはおよそ440万円。ということは総額1300万円あまりに上る。やっぱりそうだよね、という金額だが、これだとトップモデルのトロフェオと大差ない。見事なレザートリムや新しい試みに感心した後で総額を聞かされて途端にしぼむ、ということが最近多い。そんなことを気にしない人だけが顧客ということなのだろうか。
(文=高平高輝/写真=小林俊樹/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
マセラティ・グレカーレGT
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4846×1948×1670mm
ホイールベース:2901mm
車重:1930kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 SOHC 16バルブ ターボ+スーパーチャージャー
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:300PS(220kW)/5750rpm
エンジン最大トルク:450N・m(45.9kgf・m)/2000-4000rpm
モーター最高出力:13.6PS(10kW)/3000rpm
モーター最大トルク:54N・m(5.5kgf・m)
タイヤ:(前)255/45R20 105W/(後)255/45R20 105W(ブリヂストン・ポテンザスポーツ)
燃費:8.7-9.2リッター/100km(約10.8-11.4km/リッター、WLTPモード)
価格:896万円/テスト車=1338万円
オプション装備:ドライバーアシスタンスパッケージ<レベル2プラス>(64万円)/エクステリアミラーオートダイミング(64万円)/マットメタリックペイント<ブロンゾオパーコ>(59万円)/カーボンマクロトゥイルトリム(53万円)/コンフォートパッケージ(43万円)/コンフォートハンドリングパッケージ(35万円)/Sonus Faberハイプレミアムサウンドシステム<21スピーカー>(33万円)/20インチエーテレホイール<グロッシーブラック>(26万円)/パノラマサンルーフ(23万円)/テックアシスタントパッケージ(22万円)/イエローキャリパー(7万円)/12方向電動調整式ラグジュアリーシート(6万円)/ヒーテッドレザーステアリングホイール(4万円)/アンビエントライト(3万円)
テスト車の年式:2022年型
テスト車の走行距離:2627km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:203.3km
使用燃料:30.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.7km/リッター(満タン法)/7.0km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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