基幹モデル「RX」も次世代へ “攻めるレクサス”の舞台裏
2022.06.01 デイリーコラムキモは近年の“味磨き”
2021年秋登場の新しい「NX」を皮切りに、レクサスは“ネクストチャプター”、つまり新章に入ったと言っています。なんだか毎年そんな話を聞いているような気がするので調べてみたところ、彼らがニューチャプターと銘打ったのは2011年に発表された4代目の「GS」からでした。思えば、レクサスの象徴たる“スピンドルグリル”を初めて採用したモデルでしたね。
このGSと新しいNXの間、2017年に発表された「LC」も、大々的にはうたわれていませんがレクサスの変容を示す旗印的なクルマだったのかもしれません。このクルマには、かつてアメリカのマスコミから「よくできてはいるけれど退屈だ」と揶揄(やゆ)されたレクサスのプロダクトが、見ても乗ってもエモーショナルな存在へと変わらなければならないという、豊田社長の思いが込められている――そんなエピソードを幾度か耳にしたことがあります。コンセプトカーのデザインを忠実に反映するとともに、クルマとの対話性という“実”を骨格レベルから重視したそれは、確かにレクサスのクルマづくりにとってのターニングポイントとなる一台だったのでしょう。
このLC以降、クルマの開発も、技巧や味つけだけではなく、より上流側から変わっているそうです。例えば「味磨き活動」と称したそれは、テストコースの空いている土曜日にチーフエンジニアのみならず、要素や生産などレクサスに関わる各技術領域の長なども手弁当で集まり、開発中の各モデルを持ち寄って乗り比べながらのワイガヤで、モデルごとの課題解決とともにモデルの指向性に横串を通していくというもの。新型NX以降、新型「LX」、そして「RZ」と、相次いで登場しているSUVのラインナップはそういうプロセスも経て開発されてきたようで、特にフレーム構造のLX、BEVのRZでいかにレクサスらしい走りを実現するか、その試行錯誤にこの味磨き活動は少なからぬ貢献があったといいます。
そして2022年6月1日にワールドプレミアとなった新型「RX」もそのひとつ。こちらはレクサスの最量販車種、つまりブランドの屋台骨を支えるクルマだけに、失敗は絶対に許されません。
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決意は顔に表れる
「そんなクルマをつくるっていうのは大変だよな。でもね、守りに入ったらダメだよ。RXを壊してもらわないと」
新型RXの大野貴明チーフエンジニアは、企画初期の段階で方向性を豊田社長に説明に行った際、こう声をかけられたそうです。そして、同席していた須賀厚一デザイン部長には「スピンドルグリルも壊せ」と。確かに破壊と創造は紙一重ですが、屋台骨の粉砕はさすがに豊田社長でなければ口にできない話です。
「GA-K」を改良し、新開発のリアマルチリンクサスペンションを加えたプラットフォームによる、先代比-90kgにおよぶ軽量化、2.4リッターターボユニットのハイブリッド化、そしてリアモーターをオンロードのダイナミクスにも活用する「500h」グレードの存在など、新型RXには技術面での興味深いトピックも多々ありますが、見て新しくなったことを直感するのは、破壊指令の出たスピンドルグリルではないでしょうか。
これはRZで示された「スピンドルボディー」の流れをくんだもの。開口部位の小さなBEVであるがゆえに、開口形状でスピンドルを形成するのではなく、ボンネットフードやフェンダー、バンパーといったフロントセクション全体でスピンドルを形づくることでレクサスの新しいアイデンティティーを表現したものです。
新型RZはスピンドルボディーをもとに、開口面をボディー側になじませながら徐々に下端へと向かっていく“シームレスグリル”という考え方を採り入れています。一瞬、「フェラーリ・ローマ」を思い浮かべるようなこの処理は、この先、電動化を強力に進めていくレクサスの過渡を見せる新しい顔ということになるのでしょう。
2024年には愛知・下山のテストコースに隣接した拠点に大半の開発機能を移転させるレクサスですが、この新型RXも下山でのテストを徹底的に繰り返した一台です。ポルシェで言うところのヴァイザッハのように、この地がレクサスの名とともに世界で語り継がれる時がくれば、日本人としてはうれしく思います。
(文=渡辺敏史/写真=花村英典、トヨタ自動車、webCG/編集=関 顕也)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。