日産リーフ G(FF)【試乗記】
目指すは“完全な普通” 2011.02.25 試乗記 日産リーフ G(FF)……413万5950円
日産の電気自動車「リーフ」に試乗。走りから乗り心地、そして気になる充電まで、使ってわかった最新EVの実力をリポートする。
不安と期待のニューモデル
電気自動車は不便だ。そこに充電器があるからといって、必ずしもすぐにバッテリーをチャージできるわけではない。
日産の電気自動車「リーフ」で東名高速道路海老名サービスエリアに到着したのは、ちょうどお昼どきだった。取材スタッフのおなかもすいていたが、リーフのリチウムイオンバッテリーも、残量計の10ある白い目盛りのうち、残り2つにまで減っていた。スタート時127km(ECOモードで140km)だった航続可能距離は、いまは60kmと表示されている。あわてなければいけない距離ではないのだが、そこはなじみのない電気自動車である。早め早めの充電をしないではいられない。
ちなみに、満充電時の航続距離は、計測方法によって異なるため、日本では200km、北米では160km、欧州では175kmとされる。
走行中は、たとえそれが比較的人の多い街なかでも、ほとんど人目をひくことがなかったリーフだが、ノーズの蓋を開け、サービスエリアにただひとつ設置された急速充電器から太いコードをひっぱってきて充電ポートとつなげると、にわかに人が集まってきた。クルマ離れが叫ばれて久しい日本ではあるが、底知れぬ平成大不況のなか、ランニングコストが安い(といわれる)電気自動車には、すくなからぬ人が興味を示す。「どのくらいかかるの?」との声がかかる。
「急速充電なら20〜30分で済みます」「1回の充電費用はスタンドによって違うみたいですが、いまは補助金が出ているのでせいぜい100円程度です」「家庭に200Vの電源があれば、約8時間」「クルマのお値段は376万4250円からですが、2010年度EV補助金制度を利用すると、最大78万円引きの298万4250円になります」などとしたり顔で答えるのだが、肝心のバッテリーチャージがさっぱり始まらない。急速充電器のディスプレイを見ると「専用のカードが必要です」とのこと!
うーむ……。
お支払いでオロオロ
海老名サービスエリアで日産リーフに充電しながら、取材班はお昼をいただいて……との思惑ははずれたが、厚木インターチェンジにほど近いガソリンスタンドに、急速充電器が設置されていた。やはり専用カードが必要だったが、今回はその場でカードをつくることで、ことなきを得る。
20分ほどで食事を終えてクルマに戻ると、急速充電の上限80%までしっかりバッテリーがチャージされていた。航続可能距離は、スタート時と同じ127kmに戻っている。
おもしろいのは、領収書に770円と金額が記載され、そこからマイナス770円と追記され、結果的に無料になっていることだ。EVの普及が進んで、いっぽう国からの援助がなくなった場合に備え、充電時の課金システムをすでに用意しているわけだ。
電気自動車が一般化するということは、ガソリン車同様の使い勝手を期待する人が増えるということである。ちょっとしたドライブに行くとき、ガソリンスタンドの位置は確認しても、支払い形態までチェックする人がどれだけいるだろうか。急速充電器も、通常のクレジットカードか、せめて現金が使えればいいのだが。
電気自動車は、バッテリーに電気が残ってさえいれば、エンジンを積んだクルマ同様「普通に」走るところがくせものである。もちろん商品として販売するのは大変なことだが、基本的な機構はシンプルだ。多くのEVは、バッテリーの重さの恩恵で乗り心地がよく感じられるし、一方、内燃機関という絶対的な重量物に支配されないため、良好な重量配分を得やすい。回転と同時に太いトルクが立ち上がる電気モーターの特性は好ましいもので、加速は驚くほどスムーズだ。
電気自動車のハンドルを握り走りだしたとたん、「どこまでも行きたい!」と感じるドライバーを誰が責められよう。しかし本格的な交通機関としての電気自動車の歩みは、クルマ単体のできのよさと、インフラストラクチャーの不在に泣かされてきた歴史でもある。
走って、曲がって、「おっ!」
日産リーフは、「ティーダ」よりわずかに大きな5ドアボディに、大人5人が乗れ、2個のゴルフバックを積める荷室を確保したクルマである。1520kgの車重を、回転と同時に28.6kgmの最大トルクを発生するモーターで引っ張る。出足のよさは、2.5リッターV6エンジン搭載の「フーガ250GT」なみだ。
印象的だったのは、高速道路をらせん状に駆け上がっていくときの運転感覚で、なんというか、自分の背骨を中心にクルマが回っていくようで、「このフィーリング、何かに似ている……」と考えていたら、「天才タマゴ」ことミドシップのピープルムーバー、初代「トヨタ・エスティマ」に思い当たった。
リーフの前後重量配分は、前:後=57:43(空車時)と数値上際立ったものではないが、車軸間の床下にリチウムイオン電池を収納し、フロントには、エンジンと比較して3分の2程度の重さしかないモーターを低い位置に置いたため、回頭性がいいらしい。「ヨー慣性が小さいうえ、100分の1単位で出力コントロールをしている」ので、たとえばハンドルの切り始めに、そっと背中を押されるように曲がり始めることができる。
高速巡航時の静粛性は「フーガに匹敵する」とのことだが、むしろこれまでエンジン音で隠されていた風切り音やタイヤからのノイズが露わになった感がある。クルージング時の乗り心地の滑らかさも、エコタイヤゆえの当たりの硬さが災いしたか、市街地でのスムーズさほどの感銘は受けなかった。舗装の継ぎ目などでは、ときに突き上げが気になることがある。
驚いたのは、追い越し車線のちょっと速い流れにのったときで、航続可能距離の数字がものすごい勢いで減っていく。航続可能距離の数値は、直前の運転状況を受けて頻繁に予想データを変更するようになっているそうで、これなら「経済速度に戻りなさい」という警告の役割も果たしそうだ。
通信機能がひらく未来
リーフの運転席に座ると、「本格的な足として使ってもらおう」という意図が強く感じられる。ハンドルには、現在の充電状況で到達できる範囲をナビゲーション画面に表示させるボタンがわざわざ専用で設けられ、センターコンソールの「Zero Emission」ボタンを押せば、充電スポットの検索ほかのEV関連機能を呼び出すことができる。
これまで何度も「電気自動車元年」が唱えられて、EV普及に期待が持たれたが、そのたびに挫折してきた。日産のエンジニアのかたは、世の中の流れがEV有利になっていることに加え、リーフで採用された、充電施設の「検索」「表示」「更新」といったIT装備の充実が消費者の不安を薄め、ひいては購入につながるのではと期待している。
国内では、全国約2200の日産ディーラーに普通充電器(200V)を設置し、また急速充電機を置く販売店も約200店舗に達するという。リーフのカタログには、「急速充電機店舗を中心とした半径40kmの円でほぼ日本全国をカバーします」と記載される。飛び石状に充電器をたどっていけば「どこまででも行ける」といいたいのだ。しかし試乗会の日は火曜日だったので、多くのディーラーは定休日で充電器を使えなかった……。
電気自動車は、本質的に航続距離内で決まった範囲を移動する道具である。充電する場所とタイミングをルーチン化しないと使いづらい。でも、内燃機関のクルマだって実用の度合いが上がるほどその傾向が強まるから、少々お高いけれど、(エコのイメージをまとえる)足グルマとしてリーフを選択する余地はある。アイドリングによる燃料消費がないし、50km/h前後での走行が一番効率がいいそうだから、街乗り用のセカンドカーとしてもいい。
ただし、たまのロングツーリングでは、食事前の充電は避けた方がよさそうだ。見知らぬ土地では、せっかくたどり着いた充電スポットが実際に使えるかわからないし、腹が減っていると、「人間の食事のタイミングを、なんでリーフさまの都合に合わせなければいけないのだ」と、やたらとしゃくにさわるからだ。
(文=青木禎之/写真=高橋信宏)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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