フォード・マスタングV8 GTクーペプレミアム(FR/6AT)【試乗記】
もはやV8に死角なし 2011.02.21 試乗記 フォード・マスタングV8 GTクーペプレミアム(FR/6AT)……500万円
パワートレイン一新で、排気量が5リッターに拡大した「マスタング」V8モデル。418psを誇るアメリカンマッスルカーの走りを試した。
なんと一気に99psアップ
2年前の秋に大規模なマイナーチェンジを受けた「マスタング」が、昨2010年秋、早くも大きな仕様変更を受けた。その一番の見どころは、エンジンラインナップの一新である。洋の東西を問わず、最近のクルマ社会はエンジンを“小さく燃やす”のがトレンド。しかし「マスタング」はV8の排気量を5リッターの大台に乗せ、従来型と比べて一気に100ps近くも強化するという肉食系のアップデートを施してきた。
具体的には、V8の排気量を4.6リッターから5リッター、V6は4リッターから3.7リッター(こちらは減少)へ改め、両エンジンともDOHC化し、さらに「Ti-VCT」と呼ばれる吸排気独立制御の可変バルブタイミング機構を装着した。これにより、V8は従来型と比べて99psプラスの418ps、V6も96psプラスの309psを達成している。
6.2リッターの「シボレー・カマロSS RS」が405psで、6.4リッターの「ダッジ・チャレンジャー SRT8」が470psと、アメリカンマッスルカーも、もはや400psオーバーが当たり前の時代に入ったらしい。しかし400psといえば、スーパースポーツカーの入り口ともいえるパワーだ。エンジンをかける時、気分的にそれなりの畏(おそ)れがともなってくる数字である。
キャンディレッドに塗られた「V8 GTクーペプレミアム」の運転席に座り、キーを捻る。するとエンジンはズウンと目覚め、大排気量V8ならではの荒い息遣いが室内を満たした。このクルマの主役はボディでもなければ、シャシーでもなく、エンジンなんだということを一瞬にして悟らせるだけの存在感。このV8はアイドリングからして、相当な自己主張ぶりである。
圧巻のトップエンド
このV8、街中を流している限りは、あり余るトルクをくゆらせながら走っているといった風情である。ちょっとペースを上げたければ、スロットルペダルに乗せた右足に軽く力を込めるだけでいい。V8エンジンがグルルル……とくぐもった唸りを上げ、東京の街中などでは到底使いきれないほどのトルクが沸々とあふれ出てくる。スロットル操作に対する“ツキ”も良く、1000rpm台ですら気持ちのいいレスポンスを見せ、思いのほか扱いやすい。
その一方で、従来とは明らかに変わったと思わされるのが、高回転のフィールだ。それまでの野太いエンジン音が硬質に変わったかと思うと、7000rpmというアメリカンV8ユニットらしからぬ高回転まで、いかにもDOHCユニットらしく鋭く吹け上がるのだ。これにはちょっと驚いてしまった。アメ車のV8は下のトルクは分厚いが、高回転はどちらかといえば退屈、という偏見を、いよいよもって改めなくてはならない時がきたようである。
さらに、ATの6段化によってクルージングが一段と快適になった。100km/h時にDレンジ(6速)でタコメーターは1500rpmを示すにすぎず、室内はとても静か。今回は試せなかったが、このギアリングなら、燃費もそれなりに期待できそうである。低回転から高回転まで、もはやマスタングのV8に死角なし、といった感じだ。
足まわりも大幅アップデート
ハイパワーなアメ車の足まわりというと、硬さばかりが目立ってしやなかさに欠けたり、それでいて速度を上げていくと、あるところからダンピングが不足を露呈して跳ね気味になったりと、いまひとつ洗練に欠けるものが多かった。マスタングも6代目に移行した時はその傾向が否めず、首都高の継ぎ目などでガツンと芯のある突き上げを伝えてきたように記憶している。
あの時に比べると、最新型の乗り心地はかなり文化的になっており、ほとんど別物といっていいくらい快適である。きついハーシュネスは姿を消して“当たり”はぐっとマイルドになっているし、サスペンションは硬めでありながら、突っ張るようなぎこちなさは消え、しなやかに動くようになっている。
また、そのぶんロードホールディング性も高まり、ちょっとした拍子で横っ飛びするようなリアのリジッドアクスルのピーキーな動きもだいぶ抑えられている。突出した個性を持つエンジンを支える足腰として、シャシーは相当に腕を上げた感じだ。
もっとも、ちょっとぐらいジャジャ馬なところがあったって、それがひとつの味ぐらいに解釈してもらえるのだから、「マスタング」は恵まれた存在といえるかもしれない。
スロットルを深々と踏み込んでV8サウンドを響かせれば、東名高速はインターステーツハイウェイに早変わりし、気分はマックイーン演じるサンフランシスコ警察のブリット刑事だ(1968年、映画「ブリット」より。ちょっと古すぎるか……)。スポーツカーは脳内をかけめぐるものと見つけたり。
(文=竹下元太郎/写真=荒川正幸)

竹下 元太郎
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